白焔の魔女 ④
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・血に抵抗感が有ったわけじゃないの?」
「ヴァンパイアじゃないんだから、生き血を飲むのはどうかと思っただけよ」
「・・・もしかして、ブラッドソーセージとか有る?」
「普通に食べるわよ。家畜を絞める越冬前の時期だけのご馳走ね」
「・・・ていうか、ヴァンパイアも居るんだ?」
「ヴァンパイアは食べられないわよ?」
「・・・食べないよ。・・・いや、人型じゃなければイケる?」
「食べちゃダメよ?」
「・・・分かった」
「生き血」という部分に反応しただけで、こっちの世界にも血液料理を食べる食文化は普通に有るらしい。
「血の味しかしないけど、不思議な感じね?」
ポカポカ感のことかな? 首を捻りながらも、2口、3口と血を舐めるルナリアを横目に見つつ、ヘビの死体を見下ろす。
この小川付近は想定される状況で最も敵と接近するはずの危険地帯だ。
獲物を棄てていくのは勿体ないけど、今は解体してる場合じゃ無いしなあ。
生きるか死ぬかで生きてきた私は、生きるか死ぬかの状況下でも貧乏性なんだよ。
逃避行の最中だから、焼き肉にすることも干し肉にすることも出来ないし、ヘビ皮を剥いで持って行くことも出来ないから、勿体ないけど、剣先と一緒に放棄するしか無いか。
飛蛇体当攻撃で直撃されたおなかはまだ少し痛むけど、骨折をした様子は無いし、ただの打撲だと判断して、小川で手を洗い終えたルナリアと連れ立って歩き始める。
屈んだり、体を起こしたりするときに鈍痛が走る程度で、歩行には支障が無さそうだと、ほっとした。
大自然の踏破に慣れていないルナリアを導くべき私が動けなくなっては困る。
触覚ヘビのお陰で予定外の時間を食っちゃったな。
崖を越えて、すでに5時間と少し。
きっと切り倒した木は発見されているだろう。
私たちが何をしたか見破っただろうか?
出来る限り目立たなくしてきたけど、崖上に新しく残された私たちの痕跡を発見しただろうか。
大木をどうやって切り倒したかに疑問を持って、警戒して、向こうの足が勝手に鈍ってくれれば儲けものなんだけど。
もう少し時間に余裕が有れば、新たなブービートラップを崖上でも仕掛けられたのに、と未練が残る。
出来なかったことを悔いても仕方ないね。
小川を超えて南へと2キロメートルほど来た。
事件現場から見て東南東方向に、まだ直線距離で1キロメートルちょっとしか離れていないから、まだまだ危険エリア内だろう。
現在時刻は午後3時頃のはずだから、今日は歩けても、あと2時間ぐらいかな。
日没の手前には、森の中は真っ暗になるから、私たちの移動も困難になるけど、敵側も痕跡を見つけるのが難しくなって、追跡が困難になる。
だから、日が暮れてしまえば彼我の距離は縮まらないと安心していいはずだ。
夜が明けるまでは、ある程度の警戒を解いて気を緩められる。
緊張しっ放し、なんて、大の大人でも何日間ももたないからね。
野生動物の襲撃は・・・まあ、不運だと思って撃退するしか無い。
「・・・もうひと頑張りしようか」
「ええ! がんばるわ!」
できるだけの距離を稼ごう。
体感的に25分間歩いて5分間休憩する。
何度か繰り返していたら、森が暗くなり始めた。
予定通り、1日でおおよそ12キロメートルぐらいか。
歩く際の視界内に目標物を決めて、真っ直ぐに予定ルートを辿ったつもりだけど、同じような景色が続く森の中では―――、見通しが良い平原であったとしても、GPS測位器や地図も無しに直線で歩くことは難しい。
果たして、実際の直線距離のうち、どれだけの距離を踏破できたことやら。
足元が見えなくなる前に、二人の身体を押し込めるぐらいの岩陰の窪みを見つけた。
今夜は、ここで一夜を明かすことにする。
朝方は冷えるかもしれないし、風に晒されて身体が冷えることだけは避けておきたい。
大人の足でも負担が大きいだろう自然そのままの山林を、子供の身体で歩いた自分自身の体感として、事前に想像していたよりも疲労の蓄積が激しい。
弱音を吐かないだけで、ルナリアだって発声の強さに消耗が見て取れる。
安心してゆっくりと眠れない環境は、私たちの体力をさらに削り取ることだろう。
たとえ木の洞だって、堅固なものに囲まれて眠ることが出来るのは、どれほどの安心感を齎すものだったかを痛感する。
この分だと、明日は今日ほど距離を稼げない恐れが有るな。
何せ、子供の体力だ。今は元気に振る舞っていても、一夜明けたら疲労が出て動けなくなっている可能性は否定できない。
今日の私たちにとって時間は味方だったが、明日の私たちにとっては時間が敵になるかもしれない。
歩けるうちに、少しでも味方の居場所に近付くべきか。
そうなると・・・、博打だな。
ふわふわの金髪を撫でる。
「・・・今日は、がんばったね。ルナリア」
「フィオレだって。わたしたち、がんばったわ」
「・・・明日は朝から靴を履いて歩いていいからね」
「それって、大丈夫なの?」
「・・・大丈夫かどうかで言えば、大丈夫ではないだろうけど、速度を重視しようと思う」
「どうして?」
「・・・ルナリア、結構、疲れてるよね。私だって予想よりも疲れてる」
「そうね。否定できないわ」
「・・・明日は自分たちが思っているよりも歩けないかもしれない」
「うん」
「・・・だから、歩くことが出来るうちに、距離を稼いだほうが良いかなって」
「フィオレの足は大丈夫なの?」
「・・・私は慣れてるし、まだ大丈夫。・・・今のところは、だけどね」
ルナリアの表情が、一瞬、辛そうに歪んだ。
一つ、深呼吸する。
「・・・正直、賭けになると思う」
「奴等と戦える体力が残っているうちに、ってことね?」
ルナリアの目力が増した。
分かっちゃうか。すごいね、この子。
「・・・どう思う?」
「わたしだって、ウォーレス家の人間よ。いつだって戦う覚悟は出来ているわ」
「・・・だと思った」
平然と言い放つルナリアに、あまり動くことの無い私の表情筋が緩む。
最初にルナリアの姿を見たときだって、一歩も退く気なんて無かったものね。
大勢の大人に囲まれても、目の前の「死」にすら、真正面から立ち向かおうとしていた。
「・・・強いね。ルナリアは」
「フィオレこそ。ずっと一人で戦っていたじゃない」
二人で顔を見合わせる。
同時に、ぷっと噴き出した。
「ふふふ」
「・・・あはは」
勝とう。
どんな手を使ってでも勝ってやろう。
ルナリアと二人でなら、きっと何にでも勝てる。
その夜、私とルナリアは互いの体温を感じながら、体を寄せ合って眠った。
白焔の魔女④です。
ジリジリと追い詰められる幼女たち!
次回、決戦の時!




