魔法使いの誕生 ⑬
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・ワナに掛かって敵が減っていてくれればヨシ。掛かっていなくても、崖上ルートでウォーレス領に向かう方針は変えずに行く。これで良い?」
「お父様と叔母様なら、必ず迎えに来てくださるわ」
「・・・うん。そう信じて進もう」
騎士様たちが敵の数をいくらか減らしてくれたとはいえ、こちらは幼女が2人だ。
10~15人は敵が残っていると仮定して、正面から突っ込むなんて無謀でしかないな。
「・・・敵に鉢合わせたときに逃げ道の無いルートは避けた方が良いだろうね」
「逃げ道が無い―――、崖のことね?」
この子は話が早くて助かる。
「・・・出来れば敵の裏をかいて、こちらの位置がバレないまま逃げ切りたい」
「だから、包囲網を迂回して、さらに森の奥側から突破するのね?」
「・・・多分、そうなるよ」
ざっと頭の中で計算する。
何者かの謀略で森へ誘き出されたルナリアは、実家を出発して戦闘現場まで、鐘ひとつ分―――、3時間ほど馬車に揺られたらしい。
馬車で3時間というと、まあまあの距離だぞ。
日本で住んでいた田舎町に乗馬教室を営んでいる牧場が有ったから、馬の速度は感覚的に私も知っている。
未整地というか、整備がまだ不十分な道路を馬車で走ると、常足で時速5キロメートル。速足でも、時速10キロメートルぐらいじゃなかったかな。全速力の駆足で馬車を走らせても原付スクーターの法定速度以下だったはずだ。
森に入るまでの1時間は、馬車は普通に走っていたそうだから、常足から速足だったとすれば実家から森までの距離が5~10キロメートルで、森に入ってからは速度が半減したとして最低5キロメートルも森の奥へ入ったことになる。
合計して、ルナリアの家から最短10キロメートル。最長で20キロメートルだ。
小さな子供が単身で家から離れるには、かなりの距離だろう。
この辺の事情は、昨日、ワナを仕掛けながら洞まで戻ってくる道々にルナリアから聞き出した暗殺の危機に陥るまでの情報なのだが、魔法の訓練の実地練習という名目でルナリアが師事する先生である叔母様の名前で呼び出されたのだそうだ。
「何かがおかしいと疑わなかったのか?」と呆れたけど、叔母様が強力で危険な魔法のお手本をルナリアに見せてくれるときには、今までにも唐突に場所の変更を連絡してきた前科が何度か有って、人気が無い森で授業を行った前科も何度か有って、授業の開始時間に遅れて叱られる方が怖くて呼び出し自体に疑念を抱かなかったらしい。
謀略に引っ掛かった原因は叔母様の普段の言動じゃん!
物心つく前からルナリアの身の回りの世話をしてくれていたメイドさんが叔母様からの指示を持ってきたので、疑うことなく騙されたんだと。
メイドさんが手にした訓練場所までの地図に従って森の中を進んだところ、待ち伏せしていた男たちに取り囲まれたのが、あの襲撃現場。
護衛で付いて来ていた騎士様たちが慌てて馬車を逃がそうとするも、御者台に居た2人が引き摺り下ろされてバッサリと斬られて死亡。
暗殺者の手先にされたメイドさんが昨日殺されていた女性で、男性の方は巻き添えで殺されたウォーレス家お抱えの御者さんだった。
ルナリアが「子供を人質に取られたんじゃないか?」と気付いたのは、母親であるメイドさんが殺された後で、怒りに任せて敵を煽ったら、ほぼ認めたそうだ。
私が事件現場で目撃したのは、話の最後の辺りだね。
ルナリア情報が正確なものとして、私たちが逃げなきゃいけない距離は最大で20キロメートルと仮定しよう。
日本の広告表記基準では、舗装された平地を歩く際に、成人男性の足で1分間あたりに歩ける距離は80メートルだと言われている。
不動産広告でよく見る「駅〇〇分」ってアレだ。
31歳の私がアパートを探すときに担当した不動産屋のオッサンによると、アレは成人男性が早足で歩いたペースで、踵の高い靴を履いた女性なら1分間あたりに歩ける距離は70メートル程度でしかなく、別の何かの統計では、小学生が1分間あたりに歩ける距離は70メートル弱だったらしい。
身長と股下の長さで歩幅が決まるのだから、小学校に入学するかしないかの幼女である私たちの歩幅は更に短く、1分間あたりに歩ける距離は60メートル程度と考えるのが合理的だろう。
足場の悪い森の中を歩くのだから、更に割り引いて1分間あたりに歩ける距離は50メートル未満だと考えるべきだ。
潜伏しながらだと、もっと移動速度が低下すると見込む必要があるだろう。
ルナリアも多少は叔母様に鍛えられていた様子だけれど、生きるか死ぬかの緊張下で1キロメートルを歩くのに最低でも20分間を要し、何キロメートルも連続して歩き続けられるものだろうか?
警戒と同時に方角を見定めて進行ルートを維持しなければならない私も、消耗が激しくなるのは必至だ。
平均して1分間あたりに歩ける距離を40メートルと仮定して、1キロメートルごとに5分間の休憩を挟めば合計で30分間。1時間に進める距離は2キロメートルになる。
今の季節は秋口だから1日の日照時間が12時間ほどとして、目一杯、順調に進めたとしても、1日に歩ける距離は24キロメートルだ。
もちろん、こんなものは机上の空論でしかない。
理屈上はギリギリ丸1日で森を脱出できる計算でも、計算通りに進むとは考えていない。
1日で脱出できなければ、敵に囲まれた緊張状態の中で焚き火も無しに野営となる。
まだ夜間は少し肌寒さを感じるのが森の中。冷えた地面は体力を奪って疲弊させる。
疲弊すればするほど、予定通りに進めなくなるだろう。
なにしろ、貴族のお嬢様と、元・栄養失調の浮浪児だ。この2人に体力や持久力なんて期待する方が間違ってる。
恐らく、私たちでは2日間も歩き続けられない。
リソースは有限。残り時間も有限。
座して待てば、そのうち敵に発見されてゲームオーバー。
攻めに出て敵中突破を試みても敵に発見されればゲームオーバー。
私たちの体力が続く1日間から、精々が1日半の勝負だ。
私のざっくり計算を伝えると、ルナリアは、すんなり納得した。
ちびっ子魔法使い⑬です!
すみませんすみません!くどくてすみません!
こういう説明部って短くまとめるの難しいんですよね!
次回、魔石の話です!




