魔法使いの誕生 ⑩
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・崖上を行くか、崖下を行くか」
「崖の下はダメだと思うわ」
「・・・なんで?」
「お父様や叔母様なら、わたしが通った跡を追うに決まってるもの」
「・・・ああ。ルナリアが崖上から森に入ったから、か」
ウォーレス家の人たちは優れた追跡技術を持っている、ってことかな。
馬車の轍なら痕跡を追うのは難しくないんだろうね
助けが来ない場所を目指すより、助けが来る場所を目指すのは、合理的では有るな。
「叔母様なら、あんな連中は一瞬で倒しちゃうわよ」
「・・・ふむ」
ルナリアという「確たる理由」が目の前に居れば、遠慮なく敵を一掃できると。
叔母様とルナリアが合流できれば、私たちの勝ち。勝利条件は明確になったな。
適当なルートで森を出るよりも、目指すなら確定勝利の方が良さそうだ。
ルナリア画伯が描いた地上絵に目を落とす。
私が町を出て最初に歩いた街道は、森の周囲をグルッと迂回して各領を通って隣国まで続いているらしい。
どの位置から森を出ても最初にブチ当たる人工物は、あの街道だ。
敵領地側の森の出口に警戒線が張られている可能性は低いだろう。ルナリアがウォーレス領に帰ろうとするのが敵にも分かっているのだから、敵側の領地に森から出てきた場合の備えは、ウォーレス領との領境界を固めて検問を強化するだけで済む。
ルナリアを助けた現場で見た敵は各自が単独騎乗用の馬を持っていた。
私たちを回収して護ってくれる援軍が近くに居ない場所では、ウォーレス領内であっても街道に出るのは悪手だ。幼い子供2人が全力疾走しても、援軍が到着するまでの間、追ってきた敵の騎馬兵から逃げ切れるはずがない。
「・・・ルナリアが言うように、孤立無援で警戒線の突破を図るよりは、来てくれるはずの援軍に向かって包囲網を突破した方が現実的だろうね」
ドヤァ!
スピスピとルナリアが小鼻を膨らませている。
かわいいけど、そんなにふんぞり返ったら後ろにひっくり返っちゃうよ?
「・・・崖上を行くのは決まりとして、ルートをどうしようか」
「小川は崖から奥まった場所で滝になってるのよね?」
「・・・うん。300メートル―――、300メテルぐらい奥に入ったところ」
「わたしが敵に襲われた場所は?」
「・・・滝から500メテルぐらい奥に入って小川を渡って300メテルぐらい行った辺り」
「このへんね?」
地上絵の上で私が指した場所に襲撃現場を示す印をルナリアが枝先でグリグリ。
崖下の馬車の場所から崖上を800メートルから1キロメートルぐらい森の奥側へ入った辺りだな。
「小川を早めに渡ってしまうと、あの場所の近くを通ることになるのね」
「・・・だから、もっと奥へ迂回するルートが良いんじゃないかと」
「森の奥へ・・・。大丈夫かしら」
「・・・何が?」
「“魔の森”が誰の物でも無い理由よ」
食肉として活用できる野生動物や資源として活用できる木材の宝庫でありながら、誰も自分の物に出来ないのは、この森が”魔の森“、あるいは”最果ての森“と呼ばれる魔境だからだそうだ。
森に対する呼称の違いは地域性によるもので、私たちが居る人類棲息域の最東部地域では畏怖と警戒を籠めて“魔の森”と呼び、森の脅威を感じず他人事と捉えている地域では自分たちが暮らす土地から遠く離れた“最果ての森”。
もっと酷くなると侮蔑と偏見を籠めて、大雑把に“辺境”と呼ぶそうだ。
差別用語だと分かっていても、“辺境”と呼ぶのが話の通りが良いから辺境地帯で暮らす人たちも「地域」を示すときは辺境と呼んでいる。
日本でも東京辺りの都会に住んでいる人間は地方を一纏めに“田舎”って呼んでたよね。
地球と異世界でも、そういった居住地域の違いから生じる人間の感性の違いと温度差は似たようなものらしい。
その“魔の森”に近接して暮らす人間にとって最大の脅威となるのが「魔獣」。
「・・・まじゅう?」
「ええ。“魔の森”の野生動物って基本的に魔獣なのよ」
この森は自然に生じた魔力が溜まりやすい原生林で、森に満ちた濃密な魔力に晒され続けた野生動物が体に変質を来したものが「魔獣」と呼ばれる凶暴で強靱な個体だそうだ。
この「(仮)後天的変異説」には異論があって、龍種のように魔獣へと変異する前の原型となる野生動物が存在しない種まで「後天的に生まれる」とするのはおかしいと、「(仮)先天的自然発生説」を提唱する学者さんも居るらしい。
また、「野生動物」に該当しない種は「魔物」と分類されるそうだ。
魔獣や魔物が実在することにも驚くが、何に驚いたといえば。
「・・・居るんだ。ドラゴン」
「そりゃあ居るわよ」
森には様々な種の魔獣が跋扈し、固有の生態系を形成している。
獰猛で大きく強靱な体躯を持つ魔獣を恐れて、危険な採取・採掘・伐採・狩猟を請け負う稼業の「冒険者」でも無ければ森へ立ち入る者は少ないらしい。
町から近いのに誰とも鉢合わせなかった理由が魔獣か。
そんなのが出たら怖いなあ。私なんて、すぐに食われてしまいそうだ。
隣国は駆除しようとした魔獣に返り討ちに遭わされて領有宣言を撤回したんだね。
森の領有権を主張していないのはウォーレス家が属する王国も同様で、私たちが居る森は“魔の森”の一部では有っても、まだ端っこも端っこで、“融和派”や“保守派”の全てが属する王国が挙国体制で挑んでも主権が及ばない魔獣の領域を「領有してるぜ!」なんて口が裂けても言えないというのが宣言しない理由だそうだ。
ときには龍種などという天災に等しい強大な魔獣が迷い出してくるこの森の領有を主張すれば、希に発生する魔獣災害が起こった際の責任まで国際社会から問われかねない。
なお、ウォーレス家が属しているのは“リテルダニア王国”と呼称する王政専制国家で、“魔の森”と直接対峙する人類棲息圏の最前線らしい。
ちびっ子魔法使い⑩です。
魔獣って響き、いいですよね。
マジカルビースト!って言われるよりも、まったりとして、くどくない
次回、魔獣の話!




