魔法使いの誕生 ⑧
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
ルナリアの実家がある侯爵領から馬車で数時間の範囲内に有る“融和派”領地で、私が見た城壁の特徴を持つ町は、ムーアしか無い、とルナリアは断定した模様。
やっぱり、この子、賢い子だよ。
すごいね! と思ったら、国王陛下から預かった国民と領地を護るのは領主貴族の絶対的な責務だから、貴族の基礎知識として地政学は幼少期から成人するまでの間に徹底的に叩き込まれるんだってさ。
中でも、国境に接する辺境地帯で、軍事に関わる地理の知識は基礎も基礎。
地政学って、江戸時代後期ぐらいに生み出された学問じゃなかったかな。こっちの世界でも地政学って有るんだ?
地理が必須知識なのは理解できるけど、それでもすごいよ。
だって、ルナリアはまだ幼女だよ? 私が日本で幼女だった頃なんて原始人だったからね。
今も原始人だけど。
地政学的に、王国南部一帯の中核を担うウォーレス侯爵領は、リテルダニア王国の最南端に位置し、隣接する隣国との国境を守っているから、“保守派”の中でも重要な立ち位置の一つの領なのだそうだ。
ちょくちょく攻めて来てはウォーレス領軍に撃退されてお馬鹿を晒す隣国は“カリーク公王国”と言って、1000年近く昔に分裂するまでは、リテルダニア王国と同様に滅んだ大国の一地方だったらしい。
大陸東部一帯を治めるリテルダニア・カリークの両国は、“魔の森”にフタをして魔獣が漏れ出すのを防ぐ防波堤の役割を担っている。
ルナリアによると、私は、そのウォーレス侯爵の後継であるルナリアの最側近、かつ、心置けない友人として組み込まれ、将来のルナリアによる領地統治構想の一部になる予定になったそうだ。
もちろん、決定権を持っているのはルナリアのお父さんであるウォーレス侯爵様ご本人だから、ルナリア一人がそう望んだとしても、どうなるか分からないけどね。
「なる予定」になったけど「予定は未定で決定ではない」、とか、ややこしいけど、私に懐いてしまったルナリアに私を手放すつもりは、これっぽっちも無いらしい。
ここまで真剣に私を必要としてくれる誰かは初めてだ。
「いい? ずっとわたしの傍にいてね。フィオレ」
「・・・もう。・・・仕方ないね」
絆されちゃったなあ。自然に笑みが漏れた。
出自も身分も関係無く「私」という一個人を見て、求めてくれるルナリア。
真偽を確かめようが無い異世界転生者で、何もかもが不明な浮浪児などという、怪しさ満点どころか怪しさ成分しか含有していない私を、ありのまま受け止めてくれた。
他人との接触を恐れながらも、ルナリアを憎からず感じている私が居る。
私は、私を必要としてくれるルナリアを、陰日向なく支えてあげようと思う。
許されるなら、ルナリアにとって私が必要じゃなくなるその日まで、私が傍でルナリアを護ろう。
ルナリアの実家であるウォーレス侯爵家領の風土では、戦場に出るのに男女の別は無いらしく、ルナリアがウォーレス家を継げば、領地の騎士団や領軍を率いて戦場に出るのもルナリアの役目となるそうだ。
地球に似た封建社会なら、女のルナリアを待ち受ける困難も多いだろう。
10年20年後のルナリアは国家規模で南部防衛の要とならねばならず、そのルナリアの命を“融和派”なるグローバリズム勢力が狙っていて、今の私は、その脅威を取り除けるだけの手段を持っていない。
「みんな仲良く!」とか言って競争原理を破壊しようとした教育現場の「ゆとり教育」と地球全体を一つの市場と捉える自由主義陣営の「全球主義」って、真逆なようで根底の思想は同じなんだよね。
彼らが目指している理想は、既存社会の破壊と一部の指導者層以外は横並びの画一化。
大義名分は立派でも、そんなの、ぜんぜん自由じゃない。
特権階級が従順な奴隷から搾取する、要するに、使い古された共産主義だよ。
競争原理を無くせば全体が学習・労働意欲を無くして地盤沈下を起こし、国境や文化を破壊すれば秩序が崩壊して全体が地盤沈下を起こす。
「みんな等しく貧しくなる」とか「共産主義で栄えた国家は無い」とか批評した学者さんたちが居たらしいけど、その学者さんたちの方が説得力は有るよね。
現に全体主義は数多の大問題を生み出して撤回されまくってたし。
あの辺の人たちって、嫌いなんだよねえ。
前世の私のように身寄りが無い女のところには、どこから嗅ぎつけたのか弱者ビジネスの共産主義政党関係者がニヤニヤしながら押し掛けて来て、面倒だった記憶しか無い。
何が面倒って、アイツら、お断りすると逆上して、脅迫してくるわ、粘着してくるわ、ストーカーしてくるわで、面倒以外の何物でも無かった。
結局、「自分は特権階級側になる」なんて根拠の無い自信と私利私欲が全てじゃん。
そんな連中にルナリアが邪魔者として狙われるなんて許せるわけがない。
私は多少のワナ技術は持っている。
けれど、戦場ともなれば、直接的な戦闘技術や魔法技術が必要になるだろう。
女の私だと、体格差を埋めるだけの技量も必要になるはずだ。
政治力や交渉力なんて、過去の私は、まるで持ち合わせていなかった分野だし。
戦う手段が一つだけでは足りないし、手札が多いに越したことはない。
色々と、もっと強くならなきゃね。
私と話しながらも、落ち着きを取り戻したルナリアはガリガリと地面を引っ搔いている。
ちびっ子魔法使い⑧です。
時は戦国、群雄割拠の時代!(ではありません
次回、地理の話です!




