魔法使いの誕生 ⑦
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・そういうわけで、作戦会議するよ?」
「どういうわけで?(もぐもぐ) まあ、・・・いいけれど(ごっくん)」
一夜明けて、自分の中で消化したのか、ルナリアが昨夜の話に触れることは無かった。
焚火を囲みつつ焼き肉を頬張っているときに言うと、リスみたいに頬袋をシカ肉で膨らませていたルナリアが、頑張って嚥下しつつ私を見た。
ルナリアを、お行儀悪いとか言わないであげて。
焼き肉と言っても、ステーキサイズに近い肉片を枝に刺して焼いているから、分厚くて嚙み切るのも大変で、どうしても一口が大きくなるんだよ。
決して、ルナリアや私のお行儀が悪いわけじゃないからね、たぶん。
「・・・昨日の連中から逃げる前提で、まず、目的地を決めるよ」
まあ、ゴールなんて、ルナリアの家しか無いんだけど。
「その前に、ここって、どこなの?」
「・・・私も知らない」
「ええ?」
現在地点が分からないと、逃亡計画も立てられないね。
ぜんぜん盲点じゃない部分のはずなのに、盲点だったよ。
「・・・正確には、町から4~5キロメートルほどだけど、その町が何て町かを知らない」
「めーとる? ・・・ああ、メテルね」
この世界の基準距離単位は、メテル? と言うらしい。恐らく「訛り」だろう。
現時点では議論しても不毛なので、メテル=メートル、と、しておこう。
「キロ」、「センチ」、「ミリ」、などの桁単位は同じらしい。
昔から拉致被害日本人が暮らしていたせいかな?
戦時中の日本の兵器も「粍」、「糎」と表記は漢字でも読みは同じだったしね。
もっと大昔は、こっちの世界の単位が違ったらしいし。
大昔は、里とか、町とか、間とか、尺とか、寸だったのかな?
半年前に私が見た、町と町周辺の特徴を、ルナリアに説明する。
見張り用の尖塔を複数備える高さ5メートルの城壁に囲まれた歪な円形の町だったこと。
表通りに面した家屋の8割が木造で2割が石造りだった町の様子。
城門を出るときに馬車が止まらず素通りだったこと。
町の外の街道? 周辺は灌木と下草に覆われた緩やかな起伏が有る平原で、街道を挟んで片側が小麦畑で、もう片側は森だったこと。
街道の周辺に人家はおろか、人工物が殆ど見当たらなかったこと。
夜が明けて町が動き始めた朝なのに、街道に人影が見えなかったこと。
記憶に有る情報を脳内から掘り起こして伝える。
城門を馬車が素通り、の辺りで、ルナリアは思い当たる町が記憶に有ったようだ。
「おそらくだけど、ムーアの町だと思うわ。ムーア男爵領の領都ね」
「・・・へぇ。あれで都なんだ」
「一応の呼び名はね。実情は小麦生産しか産業が無い、ただの田舎町だったはずだけど」
辺境なんてそんなものよ、と、ルナリアは木の枝で地面を引っ掻き始める。
田舎もド田舎な辺境地帯では、徘徊する野生動物だけでなく人攫いや強盗のような犯罪者が跋扈しやすい環境だから、町への出入りは入るときだけでなく出るときにも管理するのが常識で、関所を素通りは有り得ないのだそうだ。
ゴミを満載した馬車を素通りさせたあの街―――ムーアの門番は、雑な仕事をしていたってことだな。
関所で行われる通行管理は治安に直結し、自領、あるいは自国の安全と安定を重く見る“保守派”の領地では、領主貴族の手によって特に厳しく執行されている。
その通行管理を杜撰に行っているのは、治安維持に掛かる支出を領地運営予算の無駄遣いだとケチる、目先の利益しか見ず私腹を肥やすことだけに懸命な“融和派”の領地だと特定できるんだって。
その“融和派”なる勢力は、通行管理の緩さで交易量を増やす政策を掲げ、交易を通じた他国との融和外交を主張しているから、“融和派”とオブラートに包んで呼称される。
警察官や防衛戦力を減らせば犯罪者の行き来や違法商品の流通が増えるし、行政の支出が減るからノーガードにしましょう、って主張ね。
現代日本にも居たなあ、そんな寝言を言ってる連中。
アメリカの治安を破壊して滅茶苦茶にした極左思想勢力と同じような連中だ。
悪意の有る解釈で申し訳ないけど、あの町は私の中で極めて印象が悪いから仕方ないね。
犯罪者を招き入れて違法商品の流通を黙認すれば、治安が悪化するのは必然。
一時的にごく一部の弱者ビジネス利権関係者が儲かったとしても、結果として地域全体の安全と安定が失われれば、まともな人々は寄り付かなくなって地域は衰退し、最終的に、交易収入減少と反比例して行政運営支出の割合は増加する。
故に、人も物も通関管理を厳格にして防衛戦力を維持し、地域、ひいては自国の安全と安定を守りましょう、と主張するのが“保守派”と呼ばれる勢力なのだと。
主張が真逆なだけに、“融和派”と“保守派”は対立関係に有る。
ルナリアの実家は“保守派”の中でも有力な武闘派貴族の一つなんだって。
な、なんだってー!?
他にルナリアが判断材料にしたのは、都市内の街並みの様子。
自領の発展への投資もケチるから“融和派”領内は人心が荒れている上に都市内の発展も遅れていて、“保守派”の領地では、領都と呼ばれる本拠地の建築物は石造りが一般的なのに、“融和派”の領都では見すぼらしい木造家屋が目立つのだそうだ。
そのくせ、外交に使う領主の館なんかは金ピカのギラギラで悪趣味極まりないんだって。
自然の脅威だけでなく他国の脅威にも晒されている以上はウォーレス侯爵領でも孤児や捨て子が発生するし、孤児院のような施設を領主が直接運営していて、死にかけている浮浪児を放置したり、ましてや一般領民が浮浪児への暴行を官憲に通報もせず傍観するなんて、人間そのものが重要な資産である辺境地帯では有り得ない愚行らしい。
辺境は何もしなくたって人間が死ぬから労働力が減って困るのに、せっかく生まれてきてくれた子供を死なせてどうする、と。
おお。孤児院が有るのか。“保守派”の町って、まともそうだね。
「・・・ふぅん?」
為政者としては、領民は領地運営に必要な数字でしか無いだろうけど、私もルナリアの実家があるウォーレス侯爵領に行けば施設に入って生き残れそうかな?
食料の備蓄が十分に出来たとしても、やっぱり人里離れた森の中で独り暮らしは危険だろうし、十分な防寒着も暖房設備も無い生活だと、風邪をひいたりの病気になる可能性だって否定できないものね。
でも、他所から流れてきた浮浪児なんて街に入れて貰えるのかな? 街へ入ることを拒否される最悪のケース備えて、せめて、葛根の備蓄もしておきたいんだけれど、まだ葛を発見できていないんだよ。
入れてくれないかな。孤児院。
「ねえ、フィオレ?」
「・・・なに?」
呼ばれたからルナリアを見ると、じっと私を見ていた。なんでジト目?
「なに考えてるの?」
「・・・ウォーレス領へ行った方がいいのかな? って考えてた」
「フィオレは、わたしと一緒に居るんだからね?」
「・・・ルナリアのお家ってこと?」
ちょっと待って。私を施設に入らせないつもり?
その前に、なぜ私が考えていることが分かったのか。
唇を噛み締めたルナリアの目が、じわっと潤む。
「当り前じゃない! フィオレは誰にも渡さないわ!」
「・・・ええ?」
「いいから、フィオレはずっとわたしの傍に居なさい!」
涙目のルナリアに烈火のごとく怒られた。
声の大きさを抑えながら激怒するとは、なんて器用な真似を。
「・・・分かった。分かったってば」
余計なことを考えると怒られるから、思考を戻そう。
未来のことを考えるのは、今を生き延びてからだ。
ちびっ子魔法使い⑦です。
本作品は、ゆりゆりなゆりゆりではありません!
唸る拳と拳が(以下、略
次回、世界観です!




