魔法使いの誕生 ④
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「穴から出て来るわけじゃないから!」
「・・・ええ?」
「あなた、変なことを考えるのね」
「・・・変、かな?」
汗だって、汗腺って穴から出て来るんだよ?
「変じゃない?」
「・・・科学的・・・化学かな? それと、生物学的な疑問だけど」
「生物は分かるけど、かがく、って何かしら?」
「・・・例えば、これ」
私は焚火を指した。
「ん? 火、って意味かしら?」
「・・・そう。火が燃えるのって、薪が加熱されて発生したガスが引火して燃えているのであって、薪自体が燃えているわけじゃないんだよ」
「んん? そうなの?」
「・・・分解燃焼? だったかな。私も知識として知っているだけ」
化学用語で「燃焼」は「酸化」って呼ぶんだっけ。「燃焼」で良いや。
サバイバルで火熾しするにも、燃焼の過程を知っているのと知らないのとでは結果に至る道程が変わる。
着火点の温度が何度で―――、とか詳細まで知る必要は無いけど、現象の過程を知っていれば、問題点の推察や改善策の立案で道程を短縮できるのだから。
これが先人の知恵だ。
この先人の知恵を学んで活かすのが「科学」や「化学」であり「技術」だ。
「んんん・・・、よく分からないわ!」
「・・・私も詳しく理解しているわけじゃないけど、何かの現象には何かの原因が有って、その原理を解き明かそうって学問が、科学―――。・・・何?」
記憶を諳んじているとルナリアの視線を感じたので問うと、こてん、と首を傾げた。
「がす、って何?」
そこからかい!
ナゼナゼ期か!
確か、6歳ぐらいまで続くんだっけ? 質問しまくって親を困らせるヤツ。
でもまあ、科学が発達していない世界なら仕方ないか。
「・・・空気の一種? かな。火の場合は燃えやすい空気」
「空気なんて出ないわよ?」
ルナリアが眉根を寄せながら、自分の指先を見る。
だよね。
燃焼できるほどの可燃性ガスを毛穴から噴出できるわけじゃないだろうし、液化ガスみたいな揮発性可燃物を、人体から分泌できるとも思わない。
魔力というモノは、気体でも液体でも固体でも無いみたいだね。
だとしたら、「概念的、あるいは心霊的な何か」かな。
アルコール成分やカプサイシンみたいな刺激物質を含んでいるとは思えない血液を飲んで胃腸が熱くなった感覚が有るなんて、科学的には説明が付かない気がしてたんだ。
中国4000年の“氣”みたいなモノなのかも。
“氣”と同じような概念は世界中に有って、アジア圏だけでなく、ヨーロッパ民族にも、北米大陸先住民にも、南米古代文明人にも、オーストラリア先住民にも、神・精霊・生命力など、様々な捉え方で実在が信じられてきた、不可思議を説明する謎物質だ。
SF小説の空想世界にまでは追いつけなくとも、それなりに科学技術が発達した現代地球文明でさえ、暗黒物質として仮説の域を出ないものが多々存在する。
宇宙空間なんて90数%以上が暗黒物質で満たさされているとされていた。
人体ひとつ取っても「肉体」・「幽体」・「霊体」の3つが重なり合って一人の人間を構成していると定義する学問も有ったはずだ。
こういった学問も、地球の歴史上に全世界でどこか共通点を持って存在した。
難しくて未確定な地球の学問を横に置いたとして、この世界の人間が、魔力と呼ばれる謎物質を実社会の生活に実用しているのなら、それは、その存在の実証方法を解明できていないだけで、謎物質そのものは実在していることになる。
そして、その謎物質の利用方法は個人の体感に頼る曖昧なもの?
実在しない概念そのものが物理現象に直接変換されるとは想像しにくいから、心霊的な謎物質が何らかの作用を受けて変換されて物理現象を起こす?
心霊的なものなら、思考か心理的なものの作用かな?
「・・・ルナリア。火の魔法を使うとき、魔力を出す他に何か考えてる?」
「んー・・・。火になれー、って考えているかしら」
「・・・なるほど。イメージか」
「いめーじ、って何?」
「・・・想像、かな」
「想像・・・。そうね! 火を想像しているわ!」
あと、確認しておきたいものは、アレだよね。
「・・・呪文って、絶対に必要?」
「わたしは呪文を詠唱しないと使えないけれど、叔母様は必須じゃないって言っていたわ。
わたしにお話ししながらでも術式を使って見せてくれたもの」
「・・・ふむふむ」
魔法の理屈の仮説が補強できた。
体内に有る、心霊的な未解明のエネルギーを、イメージで変換して物理現象を起こす。
呪文の詠唱は、この世界の「科学の概念に馴染みが無い」人たちに、具体的な物理現象を「イメージさせる」作業、かな?
現にルナリアの叔母様は、お話ししながらでも魔法を使って見せたのなら、呪文を唱えるのが絶対条件では無いのは確定だね。
例えば、「熱きものよ来たれ。赤きもの。かたち無きもの。姿を持ちて顕現せよ」という呪文を翻訳するとしたら?
「熱きものよ来たれ」は、「熱いの、出てこい」。
「赤きもの」や「かたち無きもの」は、「火って、こんなのだよね」。
「姿を持ちて顕現せよ」は、「早く点けよ、オラ」、と、こんな感じなんじゃない?
それでも、燃焼の原理を知らない人が、具体的に燃える火を想像しろ、と言われたら、火の姿をイメージできても、どうして火が燃焼するのかは、簡単には思い描けないんじゃないかな。
じゃあ、科学的な物理現象の原理を知っていれば、どうなるんだろう?
私は、人差し指を立てた。
この指の、1センチメートル上空に、魔力を燃料に、燃えろ!
イメージしたのはライターの火。
燃焼するガスは私の中に有る熱。
着火の火種は火打石の飛び散る火花。
擦過熱が可燃性ガスに引火して燃焼する。
着火から燃焼の具体的な過程を、脳裏に描く。
「・・・点いた」
「ええっ!?」
パチッと小さな火花が弾けて、私の指先1センチメートル上空に、ガスの噴出孔も可燃油を吸い上げる灯芯も無いのに、ライターの火ほどの大きさの小さな炎が浮いている。
体内の魔力を文字通り燃料に使って燃えているのか、私の体内に有る熱源が少しだけ温度を下げた気がする。
ルナリアがやったときと着火の仕方が違ったように思うけど、結果が良ければ全てヨシ。
ちびっ子魔法使い④です。
そんなに簡単でエエんかーい!(エエんじゃーい!
次回、魔法使いは進化する!




