魔法使いの誕生 ②
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・私ね。たぶん死んだんだよ」
「死んだ・・・? フィオレは生きているわ」
私は首を横に振る。
「・・・本当に死んだの。半年前に、山で熊に食われて」
「どういう、ことなの?」
「・・・私の名前、本当は私、この子の名前を知らないんだよ」
そっと自分の胸に手を当てる。
この子の本当の名前、なんて名前なんだろうね。
私の胸の真ん中には蟠る熱の塊がある。
餓死の危機を脱して私が元気になればなるほど、大きく、熱くなった熱の塊。
心の中で呼びかけても、声に出して話しかけても、何も応えてくれないけど、この熱の塊がこの子―――、私の身体の、本当の持ち主の魂なんじゃないかと、ずっと思っていた。
私は、この世界に居るようで、本当は存在していないんじゃないかと。
「・・・日本で山菜採りをしていたら、熊に襲われて、目が覚めたら路地裏に居たの」
そして、この子の中に居た。
あれ? ルナリアが目を瞠って、口元を両手で覆っている。
「二ホン・・・? 二ホンってチキュウの二ホンのこと?」
「・・・知ってるの? 日本」
私の方が目を剥かされた。
へ? 何? どういうこと?
日本だけじゃなく地球も知っているらしい。
ここは異世界じゃなく、異星だった!? いや、異星人って日本を知ってるんだ!?
何とか言う缶コーヒーのCMか!?
「じゃあ、フィオレは・・・? ううん、でも、それは召喚された方々で・・・」
ふるふると金髪の頭を振る。
私も混乱しているけど、ルナリアも混乱しているらしい。
目を閉じて心を落ち着かせるような仕草で深呼吸し、ルナリアは目を開いた。
「勇者様が来られる世界だもの。絵本を読んでもらう赤ちゃんだって、二ホンを知っているわよ」
うーん? ゆうしゃ? 優者? 勇者? ええ?
予想外の反応で、私の頭の中で理解するのに時間が掛かった。
「・・・・・・・勇者? 何それ?」
「知らないの? ううん、こちらへ来てから勇者様になるのだから、知るわけが無いのかしら・・・」
「・・・いや、勇者って、あの勇者?」
どの勇者!?
ゲームとか、小説とかのアレ、だよなあ。
豆知識だけど、勇者という単語は、紀元前500年の頃に中国で纏められた“論語”で、すでに登場している非常に古い言葉なんだよね。
インターネット上では、どこかのゲーム会社が大ヒット商品の中で使ったのが最初なんて言っている人がいるらしいけれど、それ、間違いだからね?
「どの勇者様か知らないけど、勇者様は勇者様だわ」
「・・・そうなんだ?」
なるほど、分からん。
どの勇者かも、私も知らん。
ルナリアもよく分かっていない感じなのかな。
「一番最近の勇者様はトキオ勇王国の勇王だわね」
違った。めちゃめちゃ分かっている感じだった。
「一番最近」って何だよ!?
そんなに居るの? 勇者って。レア感ぜんぜん無いな!
「ゆうおう」って何? 勇者の王って意味? トキオって東京出身かよ! ダサっ!
東京がダサいって意味じゃなくて、自分で建てた国の名前に東京って付けるか普通?
「東京」って「東の京」。「京」は平城京や平安京と同じ意味の「都」。「都」は一般的に「首都」を指していて、すなわち、「日本古来の都である京都よりも東にある首都」だぞ。
いやいや、往年のアイドルグループの熱烈なファンって可能性もあるのか?
もしかしたら、本人の下の名前が時雄か何かなのかも? それでもダサいだろ!
他人のネーミングセンスを誹謗中傷できるほど私のネーミングセンスが優れているとは微塵も思っていないけど、認めたくないほど日本人的というか、何だろう、このダサさ。
とんでもなくダサいネーミングセンスに、しんみりとしていた心境が完全に吹き飛んだ。
「・・・居るの? 勇者? ていうか、最近の、って何?」
「神教会って“ヒト族至上主義”のクソ宗教組織が、三十数年に一度ぐらいの周期で定期的にチキュウ世界から召喚するのよ。・・・勇者様ご本人の意思に関わらずね」
「・・・拉致かよ」
ちょっと、ちょっと、お嬢様? クソって言っちゃってますよ?
吐き捨てるような言い方に、心底からの嫌悪が滲んでいた。
ちびっ子魔法使い②です。
ナ、ナンダッテー!?
次回、幼女は魔法を目撃する!




