血塗れの精霊 ⑬
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・もう、靴を履いても大丈夫だよ」
「着いたの?」
目の前に洞があるのに私の家だと気付かないらしい。
不思議そうに首を傾げるルナリアには、私が森に住んでいることは伝えてある。
燻って薄く煙を立ち昇らせている焚火跡と、洗濯物のごとく蔓に貫かれて干されている肉片ぐらいしか見当たらないからね。
私は洞を指さした。
「・・・そこ」
「はい?」
ぱちくりと目を瞬くルナリアを待たせて、私が松の大木の根っこの隙間へ入って行くと、
心底、驚いているようだった。
「本当に独りで暮らしているのね・・・」
洞の1階から持ってきた干し肉の壺を、ルナリアの手に持たせる。
壺の中から完成品の肉片を一枚摘まみ出して、齧って見せる。
「・・・食べる?」
「いただくわ!」
壺の中身が干し肉だと理解したルナリアは、何の抵抗感も見せず、自分も壺から手掴みで取り出した干し肉に齧りついた。
バリっと豪快に食い千切ってモグモグと咀嚼しながら目を丸くする。
「美味しいわね!」
「・・・食べ慣れてる?」
あなた、貴族のお嬢様じゃなかったっけ?
ナイフフォークが無いと驚かれても困っただろうけど、私の方が驚かされた。
「ウォーレス家は武門だから、野営食や携行食は子供の頃から慣れさせられるのよ」
「・・・そうなんだ?」
「領軍や騎士団の干し肉は靴底みたいに固いし、すごく塩辛くて何日間も食べ続けられたものじゃないけど、この干し肉は柔らかくて塩辛すぎなくて美味しいわ」
日本のステーキを食べたアメリカ人みたいなことを言うね。あれ、創作話らしいけど。
「・・・塩は貴重だから、一応、ケチってる」
半年掛けて壺2個分まで備蓄したけど、石で崖を殴りまくる方法では本格的な岩塩採掘までは出来なかった。
それに、塩漬け前に軽く叩いて肉の繊維を解しているから柔らかいんだよ。
この食感に辿り着くまでの試行錯誤でシカ10頭は犠牲になった。企業秘密だけどね。
「そうなの? ウォーレス家にも卸して欲しいぐらいだわ」
まじまじと干し肉を見ながら真剣な顔で呟く。
小学校に入るか入らないかの歳なのに、ずいぶんと難しいことを考えてるんだね。
「野営食や携行食が美味しいかどうかは、騎士や兵士の士気に関わるもの」
へー、そういうものなのか。
「・・・いつかは卸しても良いけど、生活が安定してからだね」
「ぜひ、お願いね! 本当に美味しいのだもの!」
「・・・ありがとう。好きなだけ食べてていいよ」
面映ゆいけど、面と向かって褒められると嬉しいものなんだね。
立ち上がって槍を握る。
「どこかへお出掛けするの?」
「・・・今日はまだ、ワナの見回りをしていなかったから、見て来る」
「一緒に行ってもいい?」
「・・・あんまり、気持ちがいいものじゃないと思うよ? 今日は疲れてるだろうし」
「大丈夫よ!」
言うが早いか、さっさと手を繋がれてしまった。
何も掛かっていないかもしれないし、まあ良いか。
「鹿よ! 鹿が掛かっているわ!」
「・・・あんまり近付かないようにね」
「ええ! 任せて!」
何を任せれば良いのか、堂々の任せろ宣言をしたルナリアは微妙な距離を取ってしゃがみ込み、シカを観察し始めた。
威嚇されていても気にすることなく、道ばたで見付けた犬猫にするように、ちっちっち、と舌を鳴らして手を差し伸べたりしている。
フレンドリーなのは良いけど、そいつ、今から殺るんだよ?
また服が血塗れにならないように、ずぼっとワンピースを脱いで、すっぽんぽんになる。
「ちょっ! なんで裸になってるのよ!?」
「・・・血塗れになるから?」
「下着は!? 下着まで脱ぐ必要があるの!?」
「・・・もともと穿いてなかったし」
「はぁっ!?」
びっくりするよねぇ。私もびっくりしたもん。
どいて、そいつ殺せない。
日が暮れる前に殺しちゃうから、ぱんつの話は後でね。
森の小人さん⑬です。
キャ―――!!(スプラッター
次回、新たな登場人物です!




