血塗れの精霊 ⑥
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
しまった! 私の両肩と鼓動が跳ね上がる。
慌てて顔を引っ込めたけど、気のせいじゃ無いよねぇ・・・。
あの子も驚いたようで、目を剥いていたし。
・・・ヤバい、ヤバい、場所を変えよう。
武装男たちが女の子の視線に気付いたら探されちゃう。
抜き足差し足で溝へと逃げ帰ってきた私は、手の甲で額の冷や汗を拭った。
それにしても可愛らしい子だったね。
西洋のお人形みたいに整った顔立ちで、意志の強そうな目をしていた。
女の子の正面に陣取っている、武装男たちの中で一番偉そうにしている奴が低い声で何かを言い、その他の武装男たちがゲラゲラと下品に笑うのを火が出そうな目でキッと睨み返した女の子が、少女特有の甲高い声ではっきりと言い放った。
「家人の子供を攫って脅し、こそこそと小娘の暗殺を企てるなんて、“融和派”の差し金かしら! 腰抜けの皆様は恥と言うものをご存知ないのね!」
・・・ああ、あの子の声って「すごく通る」んだ。
そして、今の一言で概ねの事情を察してしまった。
国家指導者層の政治的対立による要人の暗殺ってことね。
最悪のケースなら、決めてあった行動方針は、逃げの一手。
事情は分かったし、武装男―――暗殺者たちに気付かれる前に逃げるが最善。
目の前の男を睨みつけたままの女の子が、こてん、と可愛らしく首を傾げた。
「暗殺の目的は、“保守派”の後継を絶えさせて、騎士団長閣下の影響力を削ぐこと、ってところかしら! 卑怯な腰抜けらしい恥知らずさね!」
ちょっと! 煽らないで!
私が逃げるまでは大人しくしていてよ!
「尊大で我儘な馬鹿ガキと聞いていたが、なかなかどうして、頭が回るじゃないか」
暗殺部隊の指揮官っぽい偉そうな男―――仮称「指揮官」の目付きが険しくなった。
盗賊か何かを装っていたけど、図星だったから、即時の任務実行に切り替えた感じ?
オッサン! 分かり易すぎるよ!
「お嬢様! お逃げください!」
剣を構えた騎士っぽい人たちが前へ出て、女の子を背中に隠す位置へ着いた。
「「「「うおおおおお!」」」」
ヤバい! 始まった!
男たちの雄叫びと、金属を打ち合わせる音が森の静寂をブチ壊す。
いくつもの悲鳴と怒声が飛び交い、木々の間に木霊する。
あの子・・・殺されちゃうのかな。
枯れ葉の中の人みたいに・・・?
さっさと一団にお尻を向けて撤収しようとしていた、私の足が止まった。
小さな体躯を利用して馬車の下に潜り込んだ女の子は、小さくなって座り込んでいた。
「・・・・・・・はぁ」
息を潜めて溜息を吐く。
・・・虚勢だったか。
目が合っちゃったし、あの子が殺されたら夢に見そう・・・。
180度、転進した私は、溝の底を、身を低くして走った。
あの子は―――、居た!
クルマの下だとかの低い位置って小さなものを剣で突こうにも斬ろうにも、車輪が邪魔で攻撃しにくいからね。
この子は自分が戦闘の役に立たないどころか、騎士っぽい人たちの邪魔になるのを理解しているが故の行動なのだろう。
「チッ! 下級騎士風情が、なかなかやる!」
「ウォーレス侯爵家騎士団を舐めるな!」
騎士っぽい人、じゃなくて、本物の騎士様だったんだね。
無知でごめんなさい。
ウォー・レス? 「戦争しない(ウォーレス)」って、してるじゃん、戦争。
騎士様が横薙ぎに振るった剣を下から弾き上げ、襲撃者の指揮官っぽい奴が舌打ちする。
他の騎士様たちも、まだ全員が健在だ。
暗殺者たちの方が、数人、倒れ伏している。
結構、お強いらしい騎士様たちも頑張っていると思うけど、多勢に無勢だと思う。
5対1では、力量や戦闘技術に多少の差が有っても厳しいだろう。
ギリギリの修羅場では、体力だけで無く精神力も消耗する。
消耗がミスを生み、ケアレスミスだって負傷や死に直結する。
野生化した大型犬に山で襲われた経験が有る私が証言するよ。
騎士様たちの誰かが一人倒れるだけで、戦力差は更に広がり、最後は暴力の渦に呑み込まれて全員が沈むだろう。
きっと、それを分かった上で騎士様たちも戦っているのだろうから、彼らが時間を稼いでくれている内に女の子を避難させるのが、身を挺している彼らの意思を尊重することになるのだと信じたい。
幸いにも、馬車は溝から5メートルほどの距離で、戦闘現場は馬車の向こう側。
暗殺者たちが騎士様たちに気を取られている内に、姿勢を低くして走り、馬車の下へと潜り込んで女の子の手を掴んだ。
森の小人さん⑥です。
喪女、大地に立つ!(コイツ、動くぞ!
次回、逃亡者!(?




