血塗れの精霊 ⑤
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
いきなり動いて目立つ行動を取らず、そうっと地面に伏せて耳をそばだてる。
甲高い声? 子供のような?
・・・・・悲鳴では無かったよね。
逃げる、って決めたばかりなのに、気になって仕方がない。
・・・・・どうしよう。
暗殺事件の現場ではないのかもしれない。
それでも、ケンカか何かのトラブルには違いないよね・・・。
こんな森の奥でトラブル?
・・・・・すごく気になる。
猟師の親子が口喧嘩をしているだけかもしれないし、ピクニックに来た親子連れが事故に見舞われただけかもしれない。
・・・って、希望的観測だよね。
でも、重要な決断を下すには、判断するための情報が必要なのも確か。
「遠くから、ちょっと覗くだけなら・・・」
相手に気付かれないように、何が起こっているのかだけを確かめて撤収しよう。
そう決めた私は、足音を立てないように、岩や木々の陰に隠れるように、小さな体をさらに小さく屈めて駆けた。
どうか、なんてことの無い日常の小さなトラブルでありますように。
200メートルほども走って、ようやく声の発生源である一団の姿が見えた。
結構、離れてたよね? あんなに離れた所の声が聞こえるんだ・・・。
静かな森の中だから、声が遠くまで届いたのか、単に発声者の声が大きいのか。
声が大きい野蛮人が苦手な私は不快感が自分の顔に出ているのを自覚する。
まだちょっと遠いな。普通に喋る程度の声は聞き取れないので、岩陰の窪みに身を潜めながら、もう少し接近する。
・・・かなりの人数が居るみたいだけど、木々の幹に隠れていて、よく見えない。
水が流れた跡なのか、大型動物の沼田場(ダニやノミなどの寄生虫を除去するための泥んこ遊び場)の跡なのか、下草に隠れて見えにくい、くねくねと塹壕のように曲がりくねった一段低い溝が有ったので、溝の底を這うようにして人影へと接近する。
大人が隠れて這うには浅い溝だけど、小さな子供が這えば塹壕ぐらいのサイズ感か。
私が潜んでいる溝は、人々が集まっている場所のすぐ傍まで続いているように見えるけど、あそこまで近付くと誰かが私の気配に気付いて発見されてしまう恐れが有るよね。
溝から頭を出して、下草の隙間から、そっと覗き見る。
見えた! ―――けど、問題ではなく、事故でもなく、想定され得る中でも最悪の事件の方だった。
殺気立った一団からの距離は30メートルってところか。
煌く剣や槍を向け合って対峙する片側は、町で見掛けた武装の男たちが10―――21人。
もう片側は、枯れ葉の山に埋もれている人と同じような甲冑を着た騎士っぽい人が4人と・・・、おお、ふわふわウェーブの金髪幼女だ。
「逃げよう!」と心の声が警告を発するけど、今の私と同年代ぐらいの小さな女の子が気になってしまった私は、溝から出て樹の幹の陰に隠れながら、さらに近づいていた。
6~7歳ぐらいかな?
あの子、何してるんだ?
陰った森の緑と茶色の中では完全に場違いな真っ赤な膝丈ドレスを着て、一番小さくて睨み合う男たちの半分ぐらいの身長しか無いくせに、怯えた様子もなく一番偉そうに両手を腰に当てて、ぺったんこの胸を堂々と逸らしてふんぞり返っている。
脛丈の編み上げブーツを履いているせいか、すごく活発そうに見える子だけど、どこからどう見ても、背中の毛を逆立てた小猫が野犬の群れにケンカを売っているようにしか見えない。
甲冑の人たちが女の子を制止するわけでもなく戦闘に備えているように見えるのは、この世界の幼女は、あの無謀に見える行動が普通ということだろうか?
女の子たちの足元には、町で見た非武装の人たちと同じ感じの麻シャツにズボンとベストを着けた男性が横たわっていて、21人の男たちの足元には、奉公人を思わせるお仕着せを着た若い女性が横たわっていた。
・・・あの倒れている二人・・・もう死んでるな。
私が隠れている樹は、対峙する一団の様子を武装男たちの斜め後ろから望める位置だ。
目を見開いたまま瞬きもしない仰向けの老人の顔はすでに土気色で、俯せに倒れた女性のほうは血の気を失った青白い顔で、倒れた体の下の地面に赤黒い水溜まりを作っている。
向き合って睨み合う双方の背後には、それぞれ、黒塗りの4輪馬車が1台と背に鞍を載せた数頭の馬、対する側は鞍を載せた沢山の馬が居る。
あの馬車、崖の下の黒塗り馬車と形が似ているけど、箱馬車ってやつだっけ。
こうして2頭の馬が繋がれているのを見ると、いよいよ貴族が乗っていそうな形だね。
一歩も引こうとしない様子の女の子を先頭に、騎士っぽい人たちが両脇を固め、武装した男たちが半包囲の形で対峙している。
騎士っぽい一人が男たちと向き合ったままで何かを言い、その騎士っぽい人を横目に見た女の子と、なぜかバッチリと目が合ってしまった。
森の小人さん⑤です。
金髪幼女!(以下、略
次回、愛の逃避行!




