血塗れの精霊 ②
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
マグカップの底に残った水を一気に飲み干して、槍を片手に立ち上がる。
さて、崖の上、と言ったところで・・・。
「・・・一体、どこから上がればいいものやら」
この崖、5キロメートルぐらい離れた辺りまで行っても終わらないんだよね。
踏破距離は自分の歩幅と大雑把な歩数で掛ければ目安ぐらいは算出できる。
あの時は崖を登ろうと考えていたわけではなく、道に迷う危険が無いから崖に沿って探索していただけだったけど。
私の手には、小川の土手で摘んできた黄色いオミナエシの花が2房。
オミナエシは食べられないので、可食のオトコエシが生えていなかったのが残念。
蔓草が這う崖を見上げて溜息を吐く。
「・・・・・どう思う?」
ただの独り言だよ。
墓標が返事をしたら、その方が驚く。
誰かが返事をくれると思っているわけじゃない。
ずっと一人で居ると、独り言が増えちゃうものなんだよ。
独り言と言えば、口を衝いて出て来る私の独り言は現地語で、言語を忘れないためと発声方法を忘れないために、自分の独り言に気付いていても、今は自分の癖を矯正しようとしていない。
今の私って、勝手に森に住み着いている不審者だから、もしも、森で他の人間に遭遇してしまった場合に事情説明ぐらい出来ないと、森の管理者に問答無用で殺処分されてしまう可能性だって否定できないからね。
人間の手が入っていないように見える森に管理者がいるのか甚だ疑問だけど、形だけでも権利者は居るかもしれない。
相手の油断を誘うにも、現地語が話せれば一つでも多くの勝機が生まれるだろうしね。
私の独り言が、自分の頭の中で考えている言語と、自分の耳に聞こえる自分の口が発声している言語に差違が有ることに気が付いたのは、森で生活し始めて1ヶ月ぐらい経った頃だった。
何で、こんな基礎的な差違に気付かず生活していたのか自分でも分からないのだけれど、日本語で言っているつもりの私の思考もどうやら現地語で行われているらしく、意識的に思考と発声の言語の差違に注意していないと自覚できない。
暇に飽かして言語の違いを検証していたら分かってきたことがある。
この子の母国語だからか、私の記憶に有る日本語や英語なんかの単語とその意味を頭に思い浮かべつつ言葉に出そうとすると、最初は喉が詰まったように言葉になって出て来ないのに、何度か発声チャレンジしていると話せるようになる。
情報と機器が認証されて使用可能になる感じの不思議仕様だね。
該当する単語が現地語に無い場合は、どうやら、この子のボギャブラリに存在する単語を繋ぎ合わせて現地語で発声するらしいことは、口に出て来る単語の長さで推察できた。
町で通行人の会話に聞き取れなかった単語が有ったことは、幼いこの子のボギャブラリに現地語の単語が無かったのか、あるいは、その現地語の単語に適合する日本語の単語が無くて自動変換不思議機能がエラーを吐いたのか。
いつか再び町へ入る機会が有れば、言語比較の検証だけでなく、色々なお店の看板から文字を書き取ってきて、文字の対比表を作りたいなあ。
現地語の読み書きのマスターは社会復帰する上での絶対条件。
現地語の文字が存在する以上、文字による遣り取りが免除されるのは物々交換までだ。
人間社会は契約社会とも言えるから、中世レベルでも重要な遣り取りは文書で行われるだろうし、現地語で読み書き出来ないと騙されて搾取構造の最底辺から抜け出せなくなる可能性が非常に高い。
人間は信用できないから嫌いだけど、身近に人間社会が存在する限り、人間社会と無縁のまま生きることが出来ないのは、31歳になるまでに嫌と言うほど体験した。
最低限でも読むことが出来ないと人間社会へ戻ることになった時に圧倒的不利になる。
「・・・その時まで生き残れれば、だけどね」
今はまだ、彼らのように、物言わぬ骸になる可能性の方が高いのだから。
甲冑の人の枯れ葉の山と馬車の前へとしゃがみ込んで、手にしていたオミナエシを1房ずつ置いて、手を合わせて黙祷する。
もうじき冬が来るから摘んで来られるお花も無くなっちゃうなあ。
週1ぐらいで花を手向けに来ていたから、今日ので25本・・・、いや、26本目かな。
折れた剣とマグカップのお陰で、随分と助けられているもの。
ありがとう。
本当に感謝しているんだよ。
だから、せめてお花ぐらいは・・・ね。
森の小人さん②です。
ビバ! ご都合主義!
次回、幼女は冒険の旅に出る!




