血塗れの精霊 ①
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
松の大木の洞に住み着いて、早くも6か月が過ぎている。
正確には、182日目かな。
この世界の暦を知らないから、1ヶ月を30日と仮定して計算している。
あの町の路地裏で私が目覚めたのがツクシやセリが新芽を出した頃だから、3月中旬だと仮定して、今は9月の中旬。
野菜や果物は秋の旬を迎えている頃のはずなんだけど、春の山菜の旬が終わったら、めっきり採れる野草類が減っちゃって、お肉と川魚と川エビばかりを食べる日々で、私は切実にお野菜を欲している。
お肉? めっちゃ捕れるよ。
今までに捕ったお肉はシカが38頭に、バカでっかいイノシシが3頭、ウサギと鳥が2羽ずつ、川魚を100匹以上は捕っている。
単純計算でも、1週間あたり、何らかの獲物が2頭は捕れてるね。
山菜の季節が終わって捕れるペースは落ちたけど、春の間にお肉が積み上がっていて、秋が来たら捕れる獲物の数は再び増加に転じるんじゃないかと予想している。
あと、アナコンダみたいにバカでっかい、触角が生えたヘビを1匹捕ったよ。
私の寝込みを襲って洞の中まで頭を突っ込んできたけど、2階の床穴から槍で頭を突いてやっつけた。
気配に気づいて穴からそうっと覗いたら真上から何かのシルエットが見えたから、反射的に槍に全体重を掛けて上から首をブッスリと。
侵入者が人間だったら? やるよ? 慈悲は無い。
乙女の寝室に捕食目的で侵入する不埒者なんて万死に値する。
たまたま夜中に目が覚めたから良かったけれど、気付かずに寝たままだったらヘビに丸呑みされていた恐れがあった。
胴回りは私より太くて、体長8メートルも有ったんだよ?
洞の狭い入口に巨体が挟まって動きが鈍かったから、上手く仕留められたのかも。
夜が明けてから解体して食べたけど、食べ残しの頭を検めてみたら毒牙と毒袋を持っていて青くなった。
爬虫類のお肉は独特な生臭さが有って、あんまり私の好みじゃなかったよ。
お肉なあ・・・。好きなんだよ?
好きなんだけど、6か月間でハーブ類はタネツケバナの他いくつか見つけたけど、調味料が塩しか無いんだもの。食傷もするよね。
おカネさえ有れば簡単に味噌や醤油が手に入った日本での生活が、どれだけ恵まれていたかが身に沁みた。
何より、出汁の入手がハードル高いから、調味用の旨味成分が足りないんだよ。
獲物の骨を煮込むか、小魚で煮干しか焼き干しを作るか。
骨でスープを取るには水と燃料がたくさん要るし、小魚は消費量に対して漁獲量と加工の手間がとんでもなく掛かる。
シイタケを見付けて干し椎茸を作る案も有ったけど、こっちの世界のシイタケが日本のシイタケと同じ姿か分からないし、キノコは有毒種が多いから手を出すのは危険すぎる。
ドクダミやアマチャヅルを見つけたから、お茶は飲めるようになったよ。
お茶のお陰で肉食ばかりの食生活に耐えて居られている、と言えなくもない。
松の木々は今年の松ぼっくりを大量に枝に付けていて、もうすぐ落ちて来るはず。
万一に備えて、松の実は出来るだけ消費を抑えていたから、まだ壺2個分ほど残っているんだけどね。
滑らかになるまで粘土を捏ねて作った素焼きの壺も、不格好で大きさも不均一だけど、乾かして焚火へ放り込んで、洞の入り口をギリギリ通るサイズで30個ほど焼いた。
縄文人に出来て私に出来ない道理はない、と思っていたんだ。
原始的な土器でも焼成した壺は水を貯めておけるから重宝するね。
粘土を成形して乾かしている間に割れることも有ったし、焼いている最中に割れることも有って、何度も失敗して試行錯誤の末に成功率を上げることに成功した。
土鍋にも使えるかと壺を焚火に掛けてみたら、お湯が沸騰する前に真っ二つに割れて、一緒に焼いていたお肉と火種を道連れにしたから汁物のリベンジは挑んでいない。
あの恐怖ときたら、調理中に目の前で焚き火が大爆発すれば、さすがの私も悲鳴を上げたし、精神的ダメージがとても大きかった。
他に粘土で焼いた素焼きの器は、マグカップと小皿が数個ずつ。
小皿の1枚は、獣脂に枯草の繊維を差して洞の中の明かりに使っている。
いわゆる、灯明。行灯の中身だね。
寝室に明かりを灯せるようになると、一気に文明開化を迎えた気持ちになるね。
塩の大量生産は今もコツコツと続けている。
塩は干し肉に使うからなかなか貯まらないけど、コツコツと岩塩を掘り続けて壺2個分以上は固定的に備蓄を残してある。
野生動物と共有している採掘場の岩塩鉱床を見つけていなかったら危なかったよ。
あの採掘場、そこそこ大規模な岩塩鉱床なのかもね。
備蓄が出来ても、なぜ岩塩の量産を続けているのか?
しばらくククリ罠を休まないと塩が足りなくて、お肉を腐らせそうになったんだよ。
夏だったし、いくら森や洞の中が涼しくても、暑い季節だとお肉は特に足が速いからね。
干し肉は塩漬け時に塩をケチらず多めに使ったら、しっかりと水分が排出されていて、干したときに乾燥しやすくなった。
探求の結果、干し肉と塩漬け肉が詰められた壺20個以上が洞の1階の半分を占拠しているし、お味の方もなかなかの出来になってきたと自負している。
などと考えながら、手にしている干し肉を食いちぎる。
「・・・・・でも(もぐもぐ)、飽きたよね(ごっくん)・・・」
食の楽しみとは、人生の彩りである。
日々の生活が辛く苦しくても美味しい食事が満足に摂れていれば、なんだかんだ言っても心の平穏は維持できるものなのだ。
うん。食生活が満ち足りていればだ。
ざっくり消費量を計算しても、来年の夏まで食い繋げられる量の干し肉は確保できているから、今は、野草類、野菜類、果物類が欲しいんだよ。
アケビは生えている場所を見つけたから、もうすぐ収穫できると思うよ。
干しアケビってドライフルーツをネットショップで見掛けたことが有るから、いくつか作ってみようと考えている。
でも、果汁が滴るジューシーな果物が食べたいんだよ。
甘いスイカとか、食べ応えがある果物が良いよね。
スイカは野菜? 私のマイルールでは果物だから問題なし。
夏場は冬の次に旬の山菜が少ない時期だから少し不足気味。
品種改良された野菜なら夏場が旬のものは多いんだけどね。
もうすぐ秋の山菜が採れる時期だから、少し期待している。
狩猟民族として生きてきた私としては、栽培に適した野菜か果物が見つかれば耕作に挑戦してみたかったけど、何らかのブレイクスルーが起こらないと難しそうかな。
そうそう、私、ちょっと背が伸びたんだよ。
膝下丈だったワンピースが、今は膝丈になっているからね。
食糧事情がいくらか改善した途端、ほんの半年間で数センチメートルも伸びるなんて、どれだけ栄養が足りていなかったのかと。
今は肉食中心の上に、捕った獲物を解体するときに出る生き血も飲み続けているから、私の目論見通り食事の栄養価は高いんだろうね。
ガリガリに痩せこけていた体も筋肉と適度な脂肪がついて、今はスレンダー系のモチモチ美肌幼女だよ。
背中の半ばぐらいだった銀髪も腰に届きそうなほど伸びちゃっているから、そろそろ髪を切りたいんだけど、自分の背中は見えないし、どうしたものかと悩んでいる。
つるつるサラサラの髪は、蔓で縛っても蔓が抜け落ちちゃって、暑い季節は背中が蒸れるから、バッサリと短く切ってしまいたい。
雨季らしい雨期は無かったから、この森周辺の気候は日本よりも乾燥気味なんだろうね。
この半年間で雨が降ったのは2回だよ。それも、パラパラっと降った程度。
干し肉が濡れると困るから、小川が枯れない限り、雨が少ないのは助かるけど。
私も体力が付いて歩ける距離が伸びたから、足を延ばして森を探索しているときに雨に降られたら、干してあるお肉がカビて全滅しちゃう。
岩塩は昨日採ってきたから、今日は少し遠出して山菜探しかなあ。
ノブキの季節のはずだから探しているんだけど、見つからないんだよ。
あの馬車が落ちてきた場所って思うと行かない方が良い気がして、ずっと行くのを避けていたけど、崖の上へ行ってみようかな。
新章、森の小人さん①です。
野生児はどう生活してきたのか!
次回、自身を検証する!




