幼女サバイバー ⑱
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・はぁぁぁ、美味しい」
溜息交じりに、うっとりと焼けたお肉を頬張る。
遠火でじっくり焼いたアバラの骨付き肉は、熱々の脂が滴って激ウマだった。
軽く塩を振って焼け上がるのを待つのももどかしく、どんどん私の胃袋に収まっていく。
ちなみに、洗ったばかりのワンピースがまだ乾いていないので、今日も今日とて、私はすっぽんぽんである。
全裸で嬌声を上げて肉を貪る幼女・・・。
どこかで方向を間違った気もするけど、満腹は正義だ。大義は我に有る!
セリをお肉と交互に食べると、セリの香味が肉の臭みを相殺して美味しい。
ツンと辛い葉ワサビでも美味しいと思うけど、小川を上流へ遡れば生えていないかな?
満足が行くまで焼肉を堪能した私は、残りの肉塊を出来る限り薄くスライスして、塩とタイムの葉を揉み込んで、大きな葉で包んで洞の奥のひんやりとした場所に安置した。
薄くスライスって言っても、包丁ほど切れ味が良くない折れた剣では厚さ1センチメートルほどに切るのが精々なんだけどね。
分厚いお肉は中まで乾燥するのが難しいだろうから、剣の腹でお肉を叩いて筋肉繊維を解すことで薄く伸ばして乾きやすくした。
まだ涼しい季節だから、常温でも数日間は保つはず。
「急いで塩も増産しないとなあ・・・」
採掘してきた岩塩も、干し肉作りで随分と減ってしまった。
干し肉でも魚の塩焼きでも薫製でも、お肉の水分を抜くための塩は必須アイテムだ。
浸透圧の差を利用した塩漬けで食材から余分な水分を抜くのは保存食の基本だよ。
熟成させることでお肉はアミノ酸なんかの旨味成分が増えて美味しくなるんだけど、水分が多いと腐敗しやすいから水分を抜く。
普通は塩分濃度10%ぐらいに調整するんだったかな。
塩が強すぎると塩辛くて、今度は水に浸けて塩抜きしないと食べられなくなっちゃうから、塩の量は要注意なんだけどね。
殺菌力が強いハーブを揉み込むことで塩の量は節約できる。
明日の朝は、カゴ罠を確認したらタイムの葉と岩塩を採りに行こう。
お肉のスライスと魚にたっぷりのハーブと塩を揉みこんで、洗濯ロープよろしく木々の間に張った蔓にお肉と魚を干して保存食を大量生産するのだ。
殺る気満々な私は、身体がポカポカしているうちに寝床へ入り、眠りに落ちた。
「粘土を採るなら、河原かな?」
夜明けと共に目を覚ました私は、新たな計画を企んだ。
焚火でお肉を焼いているときに、炎を眺めていて素焼きの器を焼こうと思い付いたのだ。
塩を蓄えたり干し肉を保存するための壺も欲しい。
縄文時代みたいな土鍋を焼ければ汁物も作れるね。
「ちょっと土手を掘ってみるか」
よく眠れたせいか、体に力が漲っているようで、すごく体調が良いから頑張るよ。
今朝は、どのみち小川へ行くしね。
「やたっ! 入ってる!」
粘土掘りは、また今度だな。
流れに沈めてあったカゴ罠には、8匹もの川魚が掛かっていた。
マス科っぽい姿で、結構、歯が鋭いね。
歯って言うより、もはや牙じゃない?
噛まれると痛そうだから気を付けないと。
私の細っこい指なんて、普通にポリポリと齧られそう。
カゴに入っていたのは、体長30センチメートルほどの魚が1匹と、20センチメートルほどのヤツが2匹。
10センチメートル前後しかない小魚5匹は今後の成長に期待してリリースした。
シカが捕れる前だったら小魚も食べてただろうけど、食料が増えて心に余裕が生まれると寛容になれるんだなあ。
3匹の魚は鰓と内臓を抜いて血抜きし、洞へ持ち帰って塩を振って焼いた。
臭みも無い川魚の淡白でホクホクの身は塩を振っただけでも御馳走だったよ。
今日は粘土を掘るつもりだったのに、塩焼きで塩の残量が心許なくなってきたので岩塩掘りに専念しなきゃならなくなった。
岩塩鉱脈の崖は「採掘場」に改名だな。
折れた剣の代わりに石斧を背負って採掘場へと向かう。
「・・・また掛かってる」
ククリ罠の様子を確認しつつ崖へ向かうと、昨日とは別のワナに後ろ脚を括られた雌シカが、「アハーン」のポーズで色っぽく、アハーンと横たわっていた。
昨日の今日で2頭目とか、この森のシカって警戒心が薄くない?
そりゃあまあ、捕れないよりも捕れたほうが良いんだけれども。
ワンピースも乾いていなくて、まだ生乾きなんだけどなあ。
小川へ向かう前にもう乾いたかと臭ってみたら生臭くて洗い直したんだよ。
洗濯回数を増やしたくないので、脱ぎ脱ぎして全裸になった私は槍を構えて突進した。
想定外にお肉の在庫が多くなってしまったので、獲物をお肉に変えた後は岩塩採掘作業だけで一日を過ごすことが確定した。
この調子でお肉や魚が捕れると絶対的に塩が不足する。
塩不足は食材の腐敗に直結するからタスクリストの最上位に再浮上だ。
今日も血を飲んで体がポカポカしているお陰か、あまり疲れも感じていないので、採掘場で岩塩を掘り出しては、せっせと洞へと運ぶ。
リュックとか籠とか容れ物が有れば一気に運べるんだけど、無いものは仕方が無い。
ワンピースの裾を捲り上げて、おなかの部分に岩塩を包んで、せっせ、せっせと運ぶ。
早急に背負いカゴを編むべきだな。
運搬に、すごく時間と手間が掛かって大変なんだよね。お尻も丸出しだし。
でも、やるよ? 食料を増やすための作業なら、私は何だってやる。
採掘場近くの崖で蔓草も大量に採って、せっせと洞まで運ぶ。
文明的な生活に近付くためなら、どれだけ手間暇が掛かっても乗り越えてみせる。
片手間にお肉をスライスしては叩き、岩塩とハーブをお肉に揉み込み続ける。
樽か壺が有れば一気に塩漬けできるんだけど、無いものは無いのだから、こつこつと作業を繰り返す。
粘土の掘削と素焼きの試作も急ぎたい。
黙々と作業を続ける傍らで、小枝に刺して焼いたお肉もモグモグしている。
捌きたてのお肉を食べていたら、もりもりと力が湧いてくる気がするよ。
何と表現すればいいのか、最初は胃の辺りがポカポカする程度だったんだけど、焼き肉を食べるたびにポカポカが熱くなって、今では体の中心に小さな太陽が生まれたみたいな熱を感じるんだよね。
栄養不良な欠食児童の身体が喜んで、生きようと頑張っている気がして、暇が有ったらこうやって肉や魚を食べている。
ほんの数日だけど、枯れ木みたいだった手足に筋肉が付いてきたようにも思うし、身体全体がふっくらとしてきた気がするから、今の方向で前向きに突き進もうと思う。
それにしても、シカ肉うめぇ・・・。
シカ肉って日本では一般的じゃないけど、牛肉を食べ飽きているアメリカ人はシカ肉パーティーに誘われたら、仕事を休んででも飛んでくるって言うしね。
そういや、寄生虫が気になって内臓を検めたら、心臓の心筋壁に小さな結石みたいなものが埋まってたんだけど、煮ても焼いても食べられそうに無いから骨と内臓と一緒に埋めちゃった。
あんなの日本では見たことなかったけど、何だったんだろうね?
ノミ・ダニの駆除処理で小川に沈めてある毛皮の加工方法も考えなきゃ。
毛皮加工はカビて失敗しやすいって、闇流通の毛皮を買い取ってくれていたオッサンが言ってた記憶があるから、原始時代の毛皮を干す木枠みたいなのを作ってみたよ。
枝を蔓で縛って井桁に組んだものだけど、凧揚げみたいに毛皮をピンと張って干す予定。
いよいよ縄文時代感がマシマシになってきたねえ。
手元に2枚ある毛皮も有効活用したいんだけど、昔の日本だと毛皮を鞣すのに渋柿とか栗の渋皮とかを使ったとか。
タンニンって成分が皮の余分なタンパク質を除去したり、皮が腐って分解されるのを、細胞組織を固定化させて腐るのを防ぐとか何とか、本で見た気がする。
現代だとミョウバンを溶いた洗浄液に漬けて洗濯機で洗うらしいけどね。
毛皮の加工なんて自分の手でやったこと無いから、カビたら諦めるしか無いかな。
今の調子だと、今後もシカが捕れそうだから、毛皮加工技術も探求したいものだ。
一週間後、塩を揉みこんだお肉スライスは、水分が抜けて固く締まっていた。
日暮れまで岩塩を掘って、今日捕れたお肉スライスに塩と香草を揉みこんで、塩漬けで締まったお肉に蔓を通して干す、ひたすら続ける諸々の単純作業。
ほぼ丸一日やっていたら、今日のシカ2頭分を含めたお肉の処理は大体片付いた。
明日こそは粘土を掘りに行こう。
お肉や魚が毎日のように捕れて、加工処理に追われて後回しになってたんだよ。
お陰で洞の1階は、塩漬け肉の包みと岩塩の包みが山を形成しつつある。
干し肉の保存方法も色々と考えたけど、暖かさが増して虫が湧くのが嫌だから、素焼きの壺の製造は緊急タスクに格上げされた。
越冬に備えた食料備蓄は目途が付きつつあるけど、人生にインシデントは付き物だから油断なく備え続けなきゃ。
明日からも、やることは一杯あるよ。
今夜一晩干せば洗濯したワンピースも乾いているだろうしね。
おなかもいっぱいになったし、今日も良く働いたから、もう寝よう。
おやすみなさい!
幼女降臨エピソード⑱、最終話です。
サバイバル生活も安定してきましたね!
次話より新章に入ります!




