幼女サバイバー ⑰
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
洞へ戻って腹ごしらえをしたら、槍を握りしめてククリ罠の様子を見に行く。
掛かるかな? 掛かっていると良いな。
裸足の私は足音を殆ど立てていないはずだけど、念には念を入れて、忍び足でワナを仕掛けた場所へと近づく。
「掛かってる!」
お肉! 動物性タンパク質の塊が居るよ! すでに私の目には、命ある生物ではなく、お肉の塊に見えていた。
ククリに足を捕られて横たわっていたのは、奈良公園に居るような雌シカ。
腹の毛は白くて、背の毛は緑掛かった茶色。
ちょっと見た目が私の知るシカと違うような気がするけど、シカはシカだ。
なんかデカいような気もするけど気にすんな!
馬ぐらいの大きさだけど気のせいだ!
私を敵だと睨みつけてくるシカに向かって槍を構え、じりじりと接近する。
槍の穂先が狙うは首だ。
「ぐるるるるる!(ぎゅるるるる!)」
これ、シカじゃなく私の唸り声とお腹の音ね。
一気呵成に近づいて、シカの首に向かって槍を突き入れる。
「ギャッ!」と悲鳴が上がるけど、無心で槍を繰り出し続けた。
腕力が無い私の力では一撃で仕留められないから、何度も突く。
シカが動かなくなるまで突き続け、死んだことを確信してから傍に寄って、念のために折れた剣で首を切り裂いて完璧にトドメを刺した。
傷口から滴る血を見て、目が離せなくなる。
「・・・血液も栄養価が高いんだよね」
私の弱り切った体には、本来、消化吸収が良くて即効性が有る食物が望ましい。
弱った胃腸には、松の実のような固形物も良くないのだ。
とはいえ、血液そのものを啜った経験は無いからなあ・・・。
意を決して、滴る血に手を伸ばして口へと運ぶ。
「・・・ぅわ・・・・・」
嚥下する血液は生暖かく、仄かな塩味で美味しくは無い。
口の中と鼻の奥が生臭く錆臭い臭いで満たされると同時に、胃の腑がカッと熱くなった。
「・・・ナニ、これ?」
強いお酒を飲んだときの喉を焼くような熱さでは無い。
ほかほかと体の芯から温まる感覚と心身が充足する感覚。
動悸が強くなって血流が増えたのか、頭がクラクラする。
酒酔いに近い感覚にも思えるけど、充足感の方が圧倒的に強い。
数えきれないぐらいの獲物を殺して食べてきたが、こんなのは初めてだ。
我を忘れて血を貪り、嚥下する。
「―――ハッ!」
気が付くと、両手と顔とワンピースの胸元をべったりと血で汚した私が居た。
「・・・・・Oh・・・」
私の一張羅が。
これ、下手に洗濯するよりも、いっそのこと全部血で染めちゃったほうが目立たない?
後で思えば、このときの私は動転して正しい判断力を失っていたのだろう。
思考力が鈍っていたわけでは無いが、正常なようで正常では無かったはずだ。
脱ぎ脱ぎしたワンピースを血溜まりにわざわざ浸して赤黒く染め上げた私は、何の躊躇いもなく、ワンピースを放っぽってシカを解体し始めた。
裸族を卒業すると言ったな? あれは嘘だ。
汚れ作業をするときは、すっぽんぽんに限る。
本来なら、頸動脈を切った上で後ろ脚を高い場所に吊って血抜きをするものなんだけど、幼女の私に獲物を吊り上げるような腕力も体力も無いから割愛。
研ぎ上げた剣で腹肉の真ん中を裂いて、前後に刃を進めて腹を開く。
寄生虫が怖いし煮込み料理を作る調理器具も無いから内臓はノータッチだ。
内臓を傷付けないように注意しながらお尻側は肛門まで肉を割く。
内臓の内容物と言えば、内容物だよ言わせんな。
咀嚼したばかりの内容物もあれば、消化中の内容物もあるし、出口に近い辺りの内容物ともなれば完成品だからね。
草食動物のものと言っても内容物で汚れたお肉は心理的に食べたくないよね。
この辺りの処理で「皮を剥ぐのが先だろ!」と、意見が割れることは私も知っている。
知ってはいるが、私は「内臓が先」派なんだよ。
なぜなら、私が日本の山で狩猟に手を染めたのは今の私と大して変わらない幼女の頃で、非力な幼女では解体過程や皮剥ぎ工程に合わせて獲物を動かすことも容易では無いからだ。
前世の幼少期から体に覚え込まれたマイルールは少々のことで矯正されるものではない。
とはいえ、「皮剥ぎが先」派の主張にも、ちゃんと根拠が有って、毛皮は内容物と同レベルで雑菌が多いのだそうだ。
内臓か皮かは宗教の違いというか、宗派の違いだと私は考えている。
前後の脚は皮を剥ぐ段階で邪魔になるから、足首の関節にグルリと刃を入れて足首から先をポキリと折り取っておく。
腸の出口である肛門は、周りの筋肉ごとゴッソリと取り除けば内容物でお肉を汚さない。
首側に腹肉を割けば、すぐに胸骨があるから、胸骨の脇に剣の刃を当てて枝で殴れば、意外と簡単にポキポキと肋骨を割り折れる。
割いた胸をグイッと開けば喉元の内側が顕わになるから、食道と気管と頸動脈を一纏めにバッサリとやる。
入口側と出口側が体から分離できれば、薄くて白い筋膜に包まれた内臓がゴロリと搔き出せる。
腹の中が空っぽになったら腹肉の断面に刃を入れて、お肉と毛皮を分離する。
刃を入れるのは脂肪層。
体組織は表面から、表皮・真皮・脂肪・筋膜・筋肉の順となっている。
殆ど血が通っていない脂肪層は分離しやすいから、ここに刃を入れて引っ張ると、ベリベリと毛皮が剥げるんだよ。
面で貼り付いているものを引き剥がすのだから、それなりの力は必要だけど、削ぐように刃を入れてやることで幼女の力でも剥ぐことができる。
少しでもお肉を長持ちさせるためにタイムの葉を摘みに行かないとなあ、などとウキウキで考えながらシカの体を切り刻む。
剥いで広げた毛皮の上で部位ごとに筋肉を骨格から外して切り分ける。
肋骨周りのお肉は骨から外すのが大変だから骨ごと焼いてリブステーキで食べるかな。
シカ肉でもリブステーキって呼ぶのかは知らんけど。
脚の肉は運搬上の都合で骨ごと持って帰ろう。
背中と首の肉を外したら、頭から背骨にかけての骨が廃棄物として残る。
内臓と合わせれば廃棄物の量がかなり多いから、埋めて処理するためのゴミ穴を掘るのも大変だった。
血が溜まった地面も臭いで肉食獣を集めてしまう恐れがあって放置できないから、土をひっくり返して回るのが大変だった。
特に、群れるイヌ科の肉食獣が集まって来るのは、追い払う術を持たない私には怖い。
犬は嗅覚が鋭いなんて言うけど、野生動物なんて肉食・草食を問わず、みんな鼻は良い。
イノシシなんて地中まで嗅ぎ分けるのだから、土を返すのなんて気休めだけどね。
なかなかの重労働だったけど、明日の命が保証されたことで私のテンションはMAXだ。
だって、今夜は焼き肉が出来るんだよ!
洞とのピストン輸送でお肉と皮を持ち帰る。
そうして、全身を血で赤黒く染めた裸族幼女の惨殺劇は終わりを告げた。
仕方ないんだよ。
私よりもシカの方が遥かに体が大きいんだから、切り裂いたシカの腹に頭から潜り込んで、お肉を切り出すんだからね。
髪まで血でガビガビに固まっちゃったから、行水しに行かなきゃ。
小川で揉み洗いしたけど、予想通り、血の染みは落ちず、生成り色だったワンピースは赤黒い茶色に染まったままになった。
うーん・・・。血を飲んだ辺りからテンションおかしかったもんなあ。
髪にも少し血の色が残っている気がするけれど、そのうち伸びて分からなくなるって。
細けえこたあ気にすんな!
幼女降臨エピソード⑰です。
今回はお料理回でした!
誰がなんと言おうとお料理です!
次回、本章最終話!




