幼女サバイバー ⑯
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
まだ日も高いので、ワナの設置を終えた私は獣道が続く先を確かめに行くことにした。
獣道が出来るほど野生動物が頻繁に通う経路ならば、その先には野生動物が糧とする餌場が有るかもしれないと考えたからだ。
くねくねと木々の間を辿ると、獣道は崖の下で終わっていた。
馬車が有った崖の一端ではあるが、馬車が有った場所からは数十メートル離れている。
「・・・何で、ここ・・・?」
行き止まりの崖は、風に揺れる木漏れ日に照らされて、時折、キラキラと光る。
・・・・・・・キラキラ・・・反射光?
一部の岩肌が薄っすらと白い粉を吹いているようにも見える。
「まさか・・・!」
野生動物の生態に思いを馳せた私は、一つの可能性に至った。
崖の岩肌に近づいて、恐る恐る岩肌を舐めてみる。
しょっぱい!?
「岩塩だ!」
草食の野生動物でも、汗をかけば体内の塩分が流出して、塩分補給に岩塩を舐めに行くことがある。
齧り付くように岩肌へ顔を近づけて、鉱石の表面を観察する。
堆積岩っぽい岩の表面には、半透明の結晶体が所々に見受けられ、折れた剣の刃で結晶体を抉り出して舐めると、明らかに塩の味がした。
塩だよ、塩!
目の前の岩肌に向かって折れた剣を叩きつけようと振りかぶって―――、待てよ?
危ない危ない。
私の生命線の一つである、この折れた剣が更に折れたら、光明を見出せたかも知れない安定生活への鍵を失ってしまう恐れがある。
折れた剣をポイッと放り出した私は、足元に落ちている石を拾い上げて、ガツンと崖に叩きつけた。
幸いなことに崖の岩の組成よりも私が手にした石の方が固かったようで、バラバラと岩の破片が飛び散る。
イケる! イケるぞ!
ガッツン、ガッツンと、一心不乱に崖へと石を叩きつける。
ボロリと削れた岩の破断面に顔を覗かせたのは、微妙に赤味がかった白乳色の結晶体。
周りの岩を狙って石を振り下ろすと結晶体の姿が徐々に顕わになってきて、私のゲンコツよりも大きな塊であることが分かる。
岩と一緒に剥落した結晶体の小さな破片を試しに舐めてみると、間違いなく塩だ。
「おおお! すごい!」
手が震える。
全身が震える。
これだけの(ガッツン!)塩があれば(ガッツン!)十分に(ガッツン!)干し肉が(ガッツン!)作れる!(ガッツン!)
いいや(ガッツン!)それだけじゃ(ガッツン!)ない!(ガッツン!)
焼き肉!(ガッツン!)
焼き魚!(ガッツン!)
山菜の塩茹で!(ガッツン!)
食欲に目が眩んだ私は我を忘れて石を振り下ろし続けた。
削れた岩の破片が私の足元に降り積もって堆積する。
傍目に見れば、欲に染まった目をしたガリガリの幼女が満面の笑みで涎を撒き散らしながら気が触れたように崖を殴り続ける姿は奇行でしか無いだろうけど、大量の塩が手に入れば、私の食生活は、また一歩、現代文明へと近づく。
岩肌に露出していた岩塩の塊がゴソッと剥がれ落ちた。
手を止めて剥落痕を覗けば、岩肌の奥にも新たな結晶体の姿が確認できる。
それなりの岩塩を採掘できたと判断した私は、大きな葉の下草を採ってきて堆積物の中から岩塩の結晶を選り分けた。
貧乏性の私からすると岩肌を削った堆積物を煮詰めれば細かな塩の結晶も回収できるのではないかと考えてしまうのだけれど、加熱調理器具がマグカップ一つしかない現状では労力にリターンが見合わないと判断して諦めるしか無かった。
ちまちまと煮出して僅かな塩を回収するよりも、河原で石を選別して石斧を作る方が塩の採掘量を増やせるのは明らかだ。
ホクホクで洞へと帰ってきた頃には森の中は薄暗くなりかけている。
急いで小川へ平たい石を拾いに行った私は、薪として拾い集めてある枝の中から良い具合に二股になったものを選び出して石を挟み、蔓で縛って石を固定する。
私の文明レベルは鉄器時代だと思っていたら石器時代だった。
出来上がった石斧をぶんぶんと素振りして具合を確かめる。
鈍器として獲物のトドメにも使えそうな石斧になったな。
地面に石斧を打ち付けてみたけど、ビクともしない。
枝の強度の方に不安が残るので、良い感じの流木を小川で探してアップデートしたい。
崖で採取した蔓草が十分に実用に耐え得る素材だと判断した私は、岩塩と蔓を定期的に採集しに行くことに決めた。
塩の入手は重要タスクだが、獲物を捕獲できなければ食生活の改善は望めない。
ならば・・・、次は魚だな!
オレンジ色の焚火の明かりで、小枝と蔓を使って簾を編む。
長さ80センチメートルの簾を作って両端を繋げば直径25センチメートルほどの円筒形になる。
外周80センチメートルの扇状に簾を編んで両端を繋げば三角錐が出来上がる。
頂点部分の枝を少し折り取れば、天辺に小さな穴が空く。
三角錐を2つ作って円筒の中へ先端側を押し込めば、出入口が前後に付いたカゴ罠だ。
円筒から三角錐が抜け落ちないように接合部を補強する。
カゴに獲物が入っても、三角錐が抜けてしまえば口が開いて獲物が逃げてしまう。
扇状を編むのには少し試行錯誤が必要だったが、魚用のカゴ罠が完成したので、明朝は小川の流れに沈めに行くことにした。
誘引餌になる川虫か何かを捕まえる必要も有るね。
居るかな? 川虫を捕食する魚が棲息しているのだから居るのだろう。
ヤバい! 楽しみ! 塩焼き!
焚き火の炎に照らされながら砥石で剣と槍の刃を研ぎながらニマニマし、熾火で焼いた松の実を食べたら瞼が重くなってきたので、全部放り出して寝床へと潜り込んだ。
朝、目を覚ますと、まだ熾火が残っていたので松ぼっくりを一つ放り込んで出掛ける。
軽い足取りの私の手に有るのは、昨夜作ったカゴ罠と蔓だ。
水際の石を捲って川虫を探すと、若虫―――、蜉蝣の幼虫っぽいものを捕まえた。
若虫も私が知っているものの数倍は大きいんだけど気にしない。
この蜉蝣、とても危険な虫だったことを後日知るのだけど、それは、ずっとずっと先のことだ。
岩の上で数匹の若虫を潰してカゴ罠の中へと放り込む。
水で流されてしまわないように河原の岩と蔓で繋いだカゴ罠に重石の石も放り込んで、岩陰の流れへと沈める。
魚だって警戒心が強いから、岩陰に潜んだり移動経路に使ったりする。
カゴ罠を沈めるときは、返しが付いた入口を、必ず下流側へ向けるんだよ。
水中へ流れ出した誘引餌の臭いに釣られた魚は下流側から近付いてくるんだから、カゴの入口は下流側へ向いていないと魚も中へ入れない。
カゴ罠の成果は明日にでも見に来るか。
幼女降臨エピソード⑯です。
また一歩、文明へと近付きました!
次回、幼女は修羅となる!




