幼女サバイバー ⑮
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「暗いよね」
翌朝の一言目は、朝が訪れていることに気付かず寝過ごした状況への不満だった。
松明だと炎が大きいし、煙も煤も散らすから、掃除が済んだ洞の中では使いたくない。
何らかの手を考える必要があるけど、候補は行灯かなあ。
動物が捕れて脂肪が手に入れば作るのは可能だけど、捕らぬタヌキだから保留。
硬い木の床に直接寝ると目が覚めた頃には体が凝っているので、寝床を柔らかくするところから環境改善だな。
焚火の熾火に松ぼっくりを放り込んでから小川へ顔を洗いに行った私は、イネ科の雑草をひたすら千切り集める作業に没頭した。
小山が出来上がるほど雑草を集めた私は、せっせと洞へと運び、2階の床に敷き詰めた雑草の上で寝転んでみる。
雑草のマットレスだよ。
明治時代ぐらいまでは、マットレスの中身は藁や草でも普通だったみたいだし。
なぜイネ科の雑草なのか。
葉が枯れて乾燥するのが早くて腐りにくいからだよ。
寒ければ草の中へと潜り込めば暖かな寝床になるだろう。
雑草の青臭さは嫌いでは無いし、ふかふかと柔らかくなった寝床は満足に値するものに仕上がった。
身体に雑草の臭いが染み付きそうだけど、体臭を消すのは野生動物に警戒させない意味で狩猟にも寄与するから悪いことではない。
「ククリ罠も作りに行かなきゃね・・・」
もぐもぐと焼き松の実を頬張りながら独り言ちる。
何事も余裕が有るうちに早め早めに行動。
折れた剣と蔓の束を背負って、槍を片手に獣の痕跡を見つけることに集中して森を歩く。
定期的に木に目印の土を塗りつけつつ、狙うは獣の通り道。
獣の糞や足跡、落ち葉が踏み荒らされている場所を探して森を彷徨う。
警戒心が強い野生動物は安全な場所を選んで歩くから、決まった場所を繰り返し通っていれば必然的に獣道が出来上がる。
「・・・有った」
獣に踏み固められた地面は雑草も生えず、一本の道として獣の痕跡を残している。
これだけハッキリと獣道が出来るということは、それなりの体格の獣が頻繁に通るか、複数個体が群れを形成しているかだ。
群れを形成しているなら、イヌ科の肉食獣かシカ科の草食獣か・・・。
イヌ科だと危険だよね。槍を握る手に力が入る。
私の方が獲物認定される恐れが有るから場合によっては寝床を変える必要すら出て来る。
嫌だなあ・・・。せっかく手に入れた寝床を失いたくないよ。
獣道を作った野生動物の正体を探るべく、慎重に足跡を探す。
「・・・蹄の跡がある?」
地面にしゃがみこんだ私は、土の上に残った痕跡をじっくりと検分する。
バンザイのような逆ハの字の足跡を見つけて、平たい胸を撫で下ろした。
私の記憶にある足跡よりも大きい気がするけど、これはシカ科の足跡で間違いない。
よくよく観察すると、足跡には古いものと新しいもの、大きさも大小が混じっている。
きっと仔を連れた群れなのだろう。
最適な獲物と判断した私は獣道の傍に生えている適当な若木を探した。
太過ぎず細すぎず、しなやかで折れにくい弾力がある若木が良い。
その若木がククリを締め上げる仕掛けのバネになる。
獣の足を括って捉えるから「ククリ」―――、海外では「スネア」とも呼ばれる。
原始的なワナだけど、効果が高いから世界中で普及している人類の叡智だ。
「・・・この木は良さそう」
その若木が生えているのは獣道から4メートルほどの位置だ。
若木を横方向に引っ張って、しならせると、それなりの抵抗力が有って良い感じ。
これなら獣が暴れても折れないだろう、と、バネの木を決めたら蔓の束を取り出した。
槍を作っているときにも思ったけど、この蔓、3~4ミリメートルほどの太さしか無いのに、柔らかくて結ぶのも簡単でパラシュートコードみたい。
パラシュートコードって言うのは、文字通りパラシュートの素材に使われる細いロープのこと。
パラシュートは空から兵隊さんが落ちてくるアレ。
細かい繊維を編みこんで作られたパラシュートコードは、細くて嵩張らず柔らかで結びやすいのに引っ張り強度が非常に高くて、様々なアウトドア作業で極めて重宝する。
紐状の蔓の先を輪にして団子結びに、引くと輪が締まるようにする。
この結び方を「投げ輪結び」と言う。
投げ輪ってのは、カウボーイがグルグル回して投げるアレのこと。今回、使うのは、紐じゃなくて蔓だけどね。
団子結びから10センチメートルほどの位置で、蔓本体を再び団子結び。
本体の団子結びには長さ3センチメートルほどの小枝の切れ端を挟み込んで、この短い小枝が引き鉄のストッパーの役目を果たす。
作ったククリの輪の大きさは、直径20センチメートルぐらいだね。
直径2センチメートルほどの硬くて太い小枝をストッパーがギリギリ引っ掛かる隙間を空けて、2本、地面に打ち込む。
ストッパーの引っ掛かりは、ほんの1~2ミリメートルほどで、少しの衝撃でストッパーが外れるぐらい感度を敏感にするのがコツ。
全力で引っ張って、しならせた若木の先と2本の杭の距離を測り、長さを合わせた蔓を若木の先に結わえ付けてワナ本体は完成。
引っ張ってきた蔓のストッパーを杭に引っ掛ける。
このストッパーの感度が高すぎると風が吹いただけでもワナが作動してしまうかもしれないから、感度を敏感に、とは言っても物には限度が有る。
ククリの輪の大きさも大きければ命中範囲は広がるけど、ククリが締まるまでの一瞬の差で、獲物の足が輪の中から逃げてしまう恐れが有る。
警戒心が強い野生動物の反射神経って、ほんと、人間の比じゃないからね。
私の経験上、作動速度と命中範囲のバランスの限界が直径20センチメートルほどの輪かな。
獲物がワナを作動させるトリガーを踏んでくれなきゃ、ワナが作動しないしね。
地面に寝かしたククリの輪の中に、てこの原理を利用したトリガーを設置する。
トリガーを踏んだ、テコの動きでストッパーが外れ、バネが働いてククリが締まる。
これがククリ罠。
バネになった若木は直立しようと斜め上方向のベクトルでククリを引っ張り、斜め上方向に足元を掬われた獲物は立ち上がることさえ困難になる。
立ち上がれる獲物に近づくと、草食動物だって敵に立ち向かってくるからね。
獲物を「自由にさせない」というのがワナ猟の基本だから、忘れちゃダメだよ。
立ち上がれずに横たわったままの獲物なら、トドメ用の槍で突くのも容易になる。
猟をするために、いちいち怪我をしていては本末転倒だからね。
猟は生活の糧を得るための手段であって、自分の安全の確保が何よりも大事。
獲物に逃げられても死なないけど、獲物の逆襲で怪我を負わされたら自分の命にかかわるんだよ。
生きるために死んでいたのでは、割に合わない。
私はそうやって誰にも頼らず生き残ってきたし、私の理論は間違っていないと思う。
人生には冒険する場面が必要かもしれないけど、私は冒険者になりたいわけでは無く、ただ平穏に暮らしたいだけなのだ。
獲物という他者の命の犠牲の上に立ってでもね。
平和で身勝手な日本だと、害獣被害の現状を知ろうともしないで「どうぶつかわいそう」とか、「優しいワタシ」の自己満足に浸りたい都会のバカが、自治体からの正式要請を受けた狩猟団体に暴言を吐いて回ったりしていたけど、寝言は寝てから言うもんだよ。
私が住んでいたような地方だと少数派でも害獣駆除を自分でする農家は居たけどね。
生きるためにお肉を捕っていて「何やってんだ、コイツ?」と言われる度に、私は「なに言ってんだ、コイツ?」と思っていた。
トリガーを設置したら、小枝の先でトリガーを刺激して動作確認を行う。
作動したククリがバネに引っ張られて、私の手から小枝がひったくられた。
勢いよく飛んで行ったククリを確認しに行くと、ククリは小枝をしっかりと締め上げていた。
ワナの出来栄えに満足した私は、もう一度ストッパーとトリガーを設置し直して、トリガーとククリの上に、そっと枯れ葉を載せて、ワナが見えないように隠蔽する。
そんなワナを、獣道の上、獣道から数歩ほど避けた場所、と、5か所ほど設置して回った。
獲物が掛かると良いなあ。
幼女降臨エピソード⑮です。
ついに修羅の道へと幼女は踏み出した!
次回、幼女は狂喜する!




