幼女サバイバー ⑫
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
ヤバい。テンション上がってきた。
懸念だった越冬食料の目途も立つし、もっと集めるよ!
松ぼっくりを拾って2~3個ずつ抱えてきては、山の上へ積み上げる。
無心になれる単純作業って、面倒くさいことを全部忘れられるから良いよね。
淡々と、粛々と、収集作業に没頭していたら、私の背丈を越える松ぼっくりの小山が出来上がる頃になって、気が付いた。
「・・・この木、洞が有る・・・?」
太い幹の小山の反対側に、高さ1メートル、幅20センチメートルほどの隙間が、太い根っこの間にある。
この樹の幹回りは、私が10人手を繋いでも回り切れないほどの太さだ。
外から隙間を覗き込んでみたところ、暗くて奥が見通せないぐらいの深さがある。
身体の小さな私なら、体を横たえて休める広さが有るかもしれない。
怖いのは、毒を持ったヘビや蜘蛛の巣になっている可能性だよね。
「・・・・・・・燻すか」
大抵の生物は煙で燻されることを嫌う。
燻されることを好む生物なんて知らんけど。
そうと決まれば、早速、小川へ火打石を探しに行こう。
森の中は暗くなるのが早いから急がなきゃ。
松の樹の場所を見失わないように、念入りに目印を付けて、周囲の景色に特徴を見出す努力をしつつ小川を目指す。
何の特徴も無いように見えて、木々も岩も、どれとして同じ顔は無い。
枝の付き方、幹の曲がり方、岩の欠け方、苔の付き方。
全体で見るから、どこを向いても同じ森の景色に見えるのだ。
一本一本の木に個性が有って、一個一個の岩は違う顔をしている。
この木から何歩で、この岩。
この岩から何歩で、この木。
木の顔、岩の顔を覚えながら歩く。
松の大木から小川までは歩いて5分ほどの距離だった。
目印を付けるのに土を触っていたから、爪の中まで汚れていた手を洗い、顔を洗い、折れた剣とマグカップも洗う。
錆びたマグカップに穴が開いていたらどうしよう? と不安を抱いていたが杞憂だった。
小川の河原で私の手でも持てるサイズの石を一つひとつ吟味して、透明な石英成分が多そうな乾いた石に剣を打ち付けて火花の散り具合を試す。
「・・・重い」
半分しか長さが無いくせに、鉄で出来た剣は子供の手には非常に重たい。
腕に筋肉が付いてくれば剣の方を振れるのだろうけど、腕が疲れてしまったので、正座した膝の間に剣を挟んで石の方をぶつけるようにしたら良い具合に火花が散った。
一番よく火花が散った石と、剣を研ぐのに使えるかと出来るだけ平たくて表面が滑らかな泥岩っぽい石と、まな板代わりに使えるかと平たくて大きめの石の三つを持って、急いで松の大木へと戻った。
石は重いし、のそのそとしか脚は動かないし、気持ちだけが急ぐ。
まだ夕方にはなっていないのに、森の中はすでに薄暗くなり始めている。
いそいそと乾燥した松の落ち葉とイネ科の雑草の枯れ葉を集め、イネ科の枯れ葉は手で揉んで細かい繊維を解した。
「行けるかな?」
正座の膝の間に挟んだ剣の刃に、角度を付けて擦り当てるようにして石を打ち付ける。
剣の下には枯れ葉と解した草の繊維を盛ってあって、飛んだ火花が草の繊維に燃え移るという算段だ。
なかなかコツが要るね、コレ。
下手に狙いを外すと手指をバッサリとやりそうだし、上手く石を当てないと火花が散らなかったり明後日の方向へ火花が飛んだりする。
医者に罹るおカネなんて有るわけないし、怪我にも気を付けなきゃ。
「点いた!」
赤く火種が点いた草の繊維の火が消えてしまわない内に、ふうふうと息を吹きかけて酸素を送り、立ち上がった小さな炎に松の葉をくべて火を大きく育てる。
いつの間にか森の中は真っ暗になっているけど、木々の梢の間から垣間見える森の外は、まだ日が落ちきっていなくて明るさが残っているみたい。
火って暖かいんだなあ、などと感慨深く思った。
小一時間はカチカチやっただろうか。
腕は怠いし、手はじんじんと痺れている。
松の落ち葉は一瞬と言うほどではないけど、すぐに燃え尽きてしまうので、種子を取り除いた後の松ぼっくりも火にくべる。
「・・・・・はぁ。疲れた・・・」
今日は朝から、疲れた、疲れた、ばかり言ってる気がする。
言っても何も好転しないし精神衛生上も良くないから、私、あんまり泣き言を言わないんだけどね。
「ヨシ、これを・・・」
赤く焼けて炎を上げている松ぼっくりを小枝で突っついて樹の幹の洞に転がし込む。
洞の中には松の落ち葉と松ぼっくり、そして、生木の葉や枝を集めてきて詰めてある。
落ち葉に松ぼっくりの火が移って、まあまあの勢いで燃え始めた。
「あれ・・・?」
私の脳内イメージでは、生木が燃えてもくもくと目に染みる白い煙が噴き出してくるはずだったんだけど、煌々と火は燃えているのに、あんまり煙が出ないね?
「・・・!!」
何となく上を見上げたら、10メートルぐらい頭上の枝の間からもくもくと白い煙が噴き出している。
この洞は、上下に貫通して2ヶ所に口を開けていて、私は下の穴から火を突っ込んで焚火をしてしまったことになる。
構造的には、竈と同じだよね? しかも、この樹は油分を多く含んでいる松の木だ。
「・・・・・これ、拙いんじゃ・・・」
山火事―――、森火事か? 森が大火事になったら、私は大罪人としてお縄になるかもしれない。
未開文明で大罪人の行く末なんて、死刑に相場が決まっている。
江戸時代の日本だと、火付け犯罪者は火炙りの刑だったんだっけ。それは非常に拙い。
「って。そんなこと考えてる場合じゃない!」
お、小川まで水を汲みに行く!?
この大きさの焚火がマグカップ程度の水で消えるわけ無いじゃない!
「そ、そうだ! 土! 土を掛けよう!」
地表に積もった落ち葉を掻き分けて、湿り気が有る土を、洞の中へどんどん放り込む。
どのぐらい土を投げていたか記憶が定かじゃないけど、何とか洞の焚火は鎮火して、私はぺったんこの胸を撫で下ろした。
幼女降臨エピソード⑫です。
文明の一端を手にした途端、やらかしました。
頭の中のイメージと現実が違うことなんて、よくあることです。
気にしてはいけません。(気にしろ)




