幼女サバイバー ⑨
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
小川からも近いし、野イチゴの魅力から離れ難いから、この近くで寝床を構えたい。
でも、悲しいかな。どれだけ名残惜しくても、野イチゴが食べられるのは夏が来る前までなんだよね。
夏が来るまでの間に何としても、出来ればイモ類かそれに代わる物の群生地を見つけたい。
夏に旬を迎える山菜も多いけど、いわゆる野菜や果物と言った人工的に栽培された作物は、穀物・葉モノ・根菜を問わず、交配による品種改良で可食部を可能な限り増やした人類の英知と呼べるものであって、自然種の植物は意外に可食部が少ないのだ。
季節を問わず食べられる塊根を持つ多年草はとても貴重で、イモ類の発見は私の生存に大きく寄与するだろう。何より、おなかに溜まる食糧が欲しい。
幼小期をサバイバルで過ごした私は、空腹と言う代償を支払い続けて、その現実を嫌というほど学んだ。
狩猟だって、欲しい時に獲物が捕れるわけじゃないから、保存食に成り得るものを見つけておかないと冬が来る前に餓死しかねない。
そう考えると、日本人のような農耕民族が何世代にもわたる試行錯誤の末に耕作の道を突き進んだ理由が切実に理解できる。
安定的な収穫を編み出した遠いご先祖様たちは、本当に偉大だったんだよ。
獲物に巡り会う偶然に頼ることの不確実さや悪天候や外的脅威の襲来など、一寸先は闇だから、自分たちの手で食糧を安定して作り出し、長期保存方法を探り出して備蓄した。
自分で作らなくても他から買って来りゃいいじゃん、なんて、自分や家族の生命線を他者に預ける現代人の刹那的な考え方は、ご先祖様たちには馬鹿にしか見えないだろうね。
一時の享楽か安定的な生存のどちらを取るかとご先祖様たちに問われたら、私は迷わずご先祖様たちに倣う。不運だろうが外敵だろうが、全部打ち破って私は生き残ってやる。
長い冬を乗り切るには食料の保管庫が必要で、保管庫を兼ねた寝床になる。
雨風を凌げる寝床を探すとして、候補は洞穴? 既存の洞穴は先住民の野生動物が居そうだよね。
小動物なら何とかなるかもしれないけど、イノシシなんかは雑食性だから返り討ちに遭って私の方が食われる恐れがあるかな。
奴は、ワナに嵌めて動きを制限しないと、31歳だったときでも挑むのは無謀だと思う。
四つ足の野生動物って、もの凄く踏ん張る力が強いんだよ。
ひっくり返しちゃえば、そうでもないんだけどね。
事務職アラサーOLとプロアスリートぐらいには筋肉の鍛えられ方が違う。
ククリ部分のワイヤーを輪の形にかたち作るためのジョイント金具を、力任せに引き千切ることが有るぐらいには力が強い。
彼らも生きるか死ぬかの瀬戸際でワナから逃げようと必死なわけだし。
当然、幼女が太刀打ちできる相手じゃないよね。31歳でも熊に食われちゃったし?
私よりも小さい蛇や虫は仕方がないとして、肉食動物が寝床に入って来られないぐらいに入口が狭ければ、いくらか安全に寝られるかも。
洞穴は入口が狭くても周りの土を掘って入口を広げられるからアウトかな。イノシシは鼻先と牙でゴリゴリと穴を掘るからね。
洞穴は落盤による生き埋めも怖いしなあ。
他に候補を挙げるとすれば、生きている樹の洞か、岩場の隙間か・・・。
岩場の隙間なんて、地震で揺れたらお陀仏じゃないかな?
生きている樹の洞は有りかも。
私の生命線である小川から離れ過ぎないように注意しながら、太く大きな樹を選んで寝床に使えそうな洞が無いかを調べながら、食べ物を探す。
野生動物が捕食している食料が見つかることもあるから、獣の痕跡も見落とさないようにしなきゃね。
獣道を把握しておけばワナ猟にも使えるから、結構、重要なんだよ。
ついさっき野イチゴを食べたばかりだけど、飢えて動けなくなる前に生食できる次の食料を探しておかなきゃ、いつ次が見つかるか分かったもんじゃない。
雨季が有る気候だったら悪天候で何日も動けなくなるかもしれないし、川魚の薫製や干し肉を作るとか、今から冬の備えも考えておかなきゃ、来年の春を迎えられないかもしれない。
実を保存できる栗の木とか探しておきたいなあ。
栗だって加熱しないと灰汁が有るから人間は渋くて生食できないんだけどね。
山菜をたくさん採って干し野菜も作っておきたいなあ。
来年の春に植物が芽吹くまで4~5ヶ月間あるとして、品種改良されて可食部が多い栽培野菜と違って、可食部が少ない野生種の植物だと大量に採集しなきゃいけない。
そう考えると、干し肉のほうが生産効率は良いんだよね。
夏の間に、どれだけの獲物を捕れるかで、私の生存確率が決まるんだよ。
「・・・おっと」
越冬のための保存食に思いを馳せながら森の中をうろついていたら、かなりの急傾斜の崖に行き当たった。急傾斜って言うか、ほぼ垂直な岩の壁だね。
「これは、ちょっと登れないかな・・・」
むき出しの岩場に蔓草が這っている崖の上を見上げると、高低差は20メートル以上ありそうだ。
枯れ木のような私の手足でフリークライミングなんて出来るわけが無いから、崖の上を目指すのは早々に諦めた。
もしかしたら野生動物の巣穴でも見つけられるかも、と、崖に沿って歩いてみる。
「あっ。もしかして、ヤマノイモ!?」
崖の真下に生い茂った緑色の塊を見つけて、急いで近づいてみる。ナガイモでも良いぞ!
根っこを掘り出すのは大変だけど、ヤマノイモやナガイモは多年草だから季節を問わず地中に可食部分が埋まっていて、さらに生食できるので非常に助かるのだ。
ヤマノイモの蔓は秋ごろに零余子って芽を付けることが有って、零余子は塩茹ですると美味しい。
「残念。・・・違ったかぁ」
私の記憶にない品種の蔓草で、がっくりと肩を落とす。
ヤマノイモの葉は縦にビヨーンと引き伸ばしたようなハート型だが―――、この蔓草の葉はミツバの葉が一体化したような形をしていて、葛の葉の形とも違う。
新芽を摘んで口に入れてみたが、灰汁がとても強くてすぐに吐き出した。
春先だから、葛ならツクシみたいに新芽が食べられたんだけどね。
葛も多年草で、葛の根はヤマノイモやナガイモみたいに肥大化した塊根を持っていて、蔓を辿って掘り出した塊根を細かく砕いて潰して水に溶くとデンプン質が沈殿する。
その水溶液から、ゴミや根の繊維屑を漉し取って残った沈殿物を乾かすと葛粉になる。
葛粉をお湯に溶くと葛湯、濃いめの葛湯を冷ますとゼラチン状に固まって葛餅が作れる。
よくババア臭いって言われたけど、葛湯って寒い日に飲むと体が内側からポカポカと暖まるから大好き。
葛の塊根を乾燥させて粉に挽いたものが葛根で、漢方の葛根湯でお馴染みの風邪薬だ。
ドラッグストアーも無い異世界で生きるのだから、風邪で体調を崩した場合に備えて早めに葛は探しておこう。
蔓草に対する私の期待値は高い。
一見、雑草に見えても、蔓草って可食部が有る品種が多いから侮れないんだよね。
サルナシなんて蔓は吊り橋の建築資材に使えるぐらいの引っ張り強度が有って、”ベビーキウイ”なんて別名がある甘酸っぱい果実をつけるんだよ。
今は季節が外れているから、サルナシを見つけても実は生って無いけどね。地面に張り付いて生える下草に比べ、毒を持っている品種が少ないのも推しポイント。
幼女降臨エピソード⑨です。
今回は、ちょっと、くどかったですね。
こういうウンチク項は減らしたいと思うのですが、なかなか。
次回、少しだけ状況が動きます。




