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第十二話 おっさん軍師、商業ギルドへ行く。

まずは商業ギルドに訪れます。





俺達は宿屋を出ると、キーラの案内で一路商業ギルドへと向かった。


キーラに商業ギルド迄連れてきて貰って改めて思ったが、一人でたどり着くには一苦労だったかもしれん。


一応『歌う狼亭』に来るときにリッケルトに場所は教えてもらってはいたが、幾つもの通りを横切るなど一本道では無い宿屋迄の道すがら、『あそこに商業ギルドがありますよ』と指さされただけだったからな。


勿論、一度通った道だからマップ機能を使えば最終的には何とかなったろうけど、前世であったネットのマップ機能を使っても見知らぬ街を歩くのは一苦労だった。



そんな訳で、キーラの案内のお陰でさして苦労する事も無くやって来た商業ギルドは、問屋街的な街の一角にあった。


『歌う狼亭』への道中は通りを歩いて抜けただけだったから、流石商業ギルドがあるところは店が多いなと思った程度であまり気にはしなかったんだが、改めて来てみるとこの辺りは、色々な品物をそれぞれ専門的に取り扱う問屋が軒を連ねていたのだ。


恐らく、こういう所から一般客相手の商店は仕入れていくんだろうな。


「ユート、気になる店でもあったのニャ?」


「いや、改めてみるとこの辺りは問屋ばかりだなと」


「そうだニャ、商業ギルドの周りにある店は商会ばかりニャ」


「商会というと?」


「大口の商いが中心の商売人や金持ち相手に商売する大きな店の事にゃ。

 小売りをやってる商人相手の店がこの辺りで、金持ち相手の商売は別にある商館でやってるらしいニャ」

 

「なるほどな」


確かに貴族や金持ちは、こんな店先に商品束ねて吊るしてる様な所で買い物はしないだろうな。


「よし、商業ギルドに入るか」


「わかったニャ」


俺達は、シンボルマークらしい大きな天秤の看板の掛かった商業ギルドへと入って行った。



中に入ると流石に商人相手のギルドだけに、予想よりも瀟洒な感じのフロアだった。


入って直ぐに見えるのが数人の受付嬢が座る案内カウンター、そして窓際に視線を移せばそこにはカフェテラスっぽい商談スペースが並んでおり、その正面には、まるで役所の様な色々な受付カウンターが並んでいた。


壁際にはいろんな品物の今日の相場が書かれたパネルが張られて居て、他にも掲示板スペースがあり、そこには色んな商人の名前で売り買いする商品についての張り紙が、所狭しと張られていた。


そして、勿論このフロアだけという訳では無く、奥には上への階段があり、受付カウンターの向こうにも同様に階段があるところを見ると、職員区画と利用者区画は分けられている様だな。


俺がさながらお上りさんの様に商業ギルドの中をきょろきょろ見渡していると、案内カウンターに座る受付嬢の一人から声が掛かった。


「失礼ですがお客様、当ギルドにどういった御用でしょうか」


言葉は丁寧だが、その表情にはどことなく不審者を見る様な剣呑さが見て取れた。


俺は紹介状を取り出すと、受付嬢に渡した。


「商業ギルドへの登録を頼みたいのだが」


受付嬢は手慣れた手つきで紹介状を開いて目を通す。

するとその表情からみるみる剣呑さが消えていく。


「これは失礼しました。

 バノック男爵家からの紹介状、確かに拝見いたしました」


そういうと、俺に返してくる。


「ご案内いたしますので、紹介状は担当者にお渡しください」


「わかった」


俺達は受付嬢に先導されて二階フロアへと向かい、応接室らしい部屋へと案内された。


「こちらの部屋でお待ちください。

 まもなく担当者が参ります」

 

俺達をソファに座らせると、そう言い残して受付嬢は部屋から出て行った。


「キーラ、商業ギルドの登録って随分丁寧なんだな。

 応接室に通されるとは思わなかったぞ」

 

「キーラの時は窓口で申込書に書き込んだだけニャ」


「という事は、紹介状の威力という事か」


「普通そうニャ。

 商業ギルドに登録に来る人が、貴族の紹介状なんてそうそう持っているもんじゃ無いニャー」

 

「そ、そうか…」


そこへドアがノックされ、商業ギルドの職員らしいモノクルを掛けた男が入ってくる。


「ヴァイス様、この度は当商業ギルドにお越しいただきありがとうございます。

 早速ですが、紹介状をお見せ頂いても?」

 

「ああ、これだ」


俺は紹介状を職員に手渡す。


職員は紹介状を開くと素早く目を通し、こちらに視線を向ける。


「確かに。

 バノック男爵家からの紹介状、拝見させて頂きました。

 失礼ですが、バノック男爵家とはどういった御関係で?」


これは正直に話してしまっていいのか、それとも?


俺がそんな風なことを考えていると、向こうからフォローが入った。


「事情が差し支える事であれば、お話しいただかなくても結構ですよ。

 これ迄お見掛けした事が無かった方が、バノック男爵家の紹介状をお持ちになったので、少々気になっただけですので」


「そう言って貰えると助かる。

 俺の一存で話しても良いのかどうか、わからないのでな」


「そう言った話であれば、お話しいただかなくても問題ございません。

 

 私、当商業ギルドの副会頭を務めておりますアイスナーと申します。

 それでは登録の手続きを始めさせていただきます」


「よろしく頼む」


「では、まず。

 お名前は、ユート・ヴァイス様。爵位などはお持ちではありませんね?」


前世のゲーム内では名誉称号的爵位はあったがそういうのは言わない方が良いか。

貴族という訳でも無かったしな。


「ああ、そういうのは無い」


「わかりました。

 次に、屋号などはお持ちですか?

 既にお店を出されているなら、そのお店の名前を言って頂ければ」


「まだこの国に来たばかりで、屋号というのは無い」


「そうでしたか。

 では、次に商われる商品をお知らせください。

 後で商業ギルドの登録情報として公開されますので、そのつもりでお答えください」


まともに店を出す気は今のところは無いんだが…。


俺としては身分証明としてギルドの証明書が欲しかったのと、キーラと同じく戦利品の売り先の一つとして登録しておこうと云うのが目的だ。


しかし、バノック男爵家の方から話が出るかも知れないから、武器と防具を扱っているという事にするか。


「俺が扱っているのは武器と防具だ」


「武器と、防具ですね。

 それは、どこかから仕入れた商品を扱われているのですか?

 それとも工房をお持ちで、ご自分の製品を扱われているのですか?」


無限工房もまあ工房みたいなものか…。


「自分で作った商品を扱っている」


そう答えると、アイスナーは顎に手をやり俺を値踏みする様にジッと観察する。


「ヴァイス様が自ら作られているのですか?お一人で?

 武器も防具も?」


「ああ」


アイスナーは俺の言葉に驚き、改めて俺の手や服などを観察し、俺から何かを読み取ろうとする。


「…そうですか…。

 工房を構えられていて武器と防具を扱われていたとしても大抵の場合、例えば金属製武器と防具だけを扱う鍛冶工房、或いは木製武器や防具を扱う木工工房、或いは革製品を扱う皮革工房といった風に、特化しているのが殆どなのです。

 勿論、それらすべてを自分の工房で製造し扱っているような工房主も居ます。

 しかしその場合でも、一人ですべてを作っているという方は聞いたことがありません。

 鍛冶にしろ木工にしろ、一つの技術を極めるだけでも簡単ではありませんから」


「そうだな」


「ですから、もし本当に全てを自ら手掛けられているのだとしたら、恐らくそんな稀有な方は我が国ではヴァイス様だけでしょう」


「そうなのか…」


まあ、ゲームじゃないしな。

現実世界を考えたら、アイスナーの言うとおりだ。

鍛冶も皮も木工も全てを手掛けていて、しかもそれらすべてが人様に売れるレベルの商品という人は、そうは居ないだろうな。


「失礼ですが、商品を拝見させて頂いても?」


「ああ、わかった」


「では、参りましょうか」


アイスナーは席を立って俺を促す。


「いや、ここで見せられる」


アイスナーは驚いた表情を浮かべると、改めて座りなおす。


俺は新人育成用に作り置きしてあった武器や防具を取り出して並べていく。


「マジックバックをお持ちだったのですね。

 それは素晴らしい。

 では、早速拝見させて頂きます」


この世界にもマジックバックという物がある様で、物によって性能がかなり違うらしい。

キーラも持っていたから、それ程稀有な存在というわけでもないのだろう。


「…これは中々…」


アイスナーが慣れた手つきで、俺が出した武具の目利きを進めていく。

そして一通り見終わったところで、改めて俺に向き直る。


「どれも高い品質で安定しており、素晴らしい出来ですね。

 是非、我がギルドで仕入れさせて頂きたいと思える品物でした。

 どの商品にもヴァイス様の銘が入っている事から、ヴァイス様が自ら作られた品というのは本当なのでしょう。

 では、ヴァイス様を武具の工房主、そして武具商として登録させて頂きます。

 ヴァイス様程の腕であれば、工房ギルドに登録する事も可能でしょう。

 もし登録を希望されるのでしたら、商業ギルドで推薦状を出させて頂きます。

 工房ギルドに加入していれば、辺境伯や王都からの大口の仕事を受ける事も出来ますし、工房ギルドでしか出回っていない材料を仕入れる事も出来ます」


工房ギルドなんて言うのもあるのか。


「ありがとう。

 だが、今はまだ街に来たばかりなので、それは落ち着いてから頼みたい」


「承りました。

 では、ギルド証を用意させて頂きますので少々お待ちください」

 

「わかった」


アイスナーが書類を抱えて部屋を後にする。


「ユートって薬を持ってたけど、あれももしかしてユートが自分で作ったのかニャ?」


「まあ、そういう事だ」


「ユートって強者ってだけじゃなくて、武具や薬迄作れるなんてすごすぎるニャ」


そういうとキーラが抱き着いてくる。

前世ではこんな経験は殆どした事が無いが、こういうのも悪くないな。

キーラのモフモフしたうなじに顔を埋めると、いい香りが鼻腔をくすぐる。

獣人はスキンシップが好きだと言っていたが本当なんだな。


思わずキーラの身体に手が伸びかけたところで、ドアをノックする音がする。


「キーラ」


俺がキーラに声を掛けると、物足りなさそうな表情を浮かべて俺から離れると、また隣に座る。


それと同時に、アイスナーが部屋に入って来た。


「ヴァイス様、こちらの方が会員証になります」


金属製で俺の名前が刻まれていて、結構しっかりしたものだ。


「会員証は魔法でヴァイス様の情報が刻まれていますから失くされませんように。

 有効範囲は王国全土で、街に入る時の審査などで会員証を提示すれば便宜を図って貰えます」


「わかった」


「それで、ヴァイス様。

 これは規則なのですが、ギルド加入には試験を受けて頂く必要があります。

 と言っても、何か書いたりするわけでなく、実際に商人として商品を扱う力がある事を証明する試験となっています。

 わかりやすく言うと、自分が扱っている商品を一定金額分商業ギルドに卸してください。

 それが証明されれば、正式に商業ギルドの正会員となります」

 

「つまり、試験に合格するまでは仮会員、という事だな」


「はい。その通りです。

 試験には期限が決まって居て、それを超過すると失格となりますから、また一からやり直しとなります」


「なるほど、詳細を聞こうか」


「試験自体はそれほど難しい物ではありません。

 試験内容は、金貨三枚分の品物を商業ギルドに卸す事。

 既に店を持っている商人ならばその日のうちに、商売を始めたばかりの駆け出しの商人なら十五日以内に卸す事が条件の、その程度の難易度になります。

 ちなみに販売が主たる仕事の商人は、逆に金貨三枚分の品物を仕入れる事になっています」

 

確か金貨一枚が十万だから三枚というと三十万か。確かに既に商店をもって居いてある程度軌道に乗って居るなら、その日のうちに卸すことは可能かもしれないが、駆け出しだとかなり厳しいんじゃないのか?

しかし、キーラが毛皮を金貨二枚で売っていた事を考えると、途方もない金額、という事でも無いのか。


「わかった。

 じゃあ、今から商品を並べていくから査定してくれ」


俺はそういうと、さっきも出した新人へのプレゼント用の武具を並べていった。


「では、早速拝見して…」


アイスナーは改めて手袋をはめると商品の査定に入った。

ファインスチール製のロングソードや、鋼の枠の付いた木製の盾、板金胸鎧に革鎧など。

全部で十点ほど取り出した。


前世のゲーム内なら、これを全部売れば白銀硬貨で3枚ほどにはなっただろう。

とはいえ、前世のゲームでの〝マスターワーク品〟という付加要素が、この世界で意味を成すのかどうかは分からない。マスターワーク品でなければ金貨十枚程度だったと思うから、意味が成さなくとも金貨三枚は余裕で満たすだろう。


一通り査定するとアイスナーは手袋を外し、思案顔で溜息をつく。


「ふーむ。

 ヴァイス様の商品は、正直どれも値付けが難しい品ばかりです…」


あれ?出すアイテム間違えたか?

 

「そんなに質が悪かったか?」


「いえいえ、決してそのようなことは。

 逆でございます。

 ここに並べられた商品は、どれも一括りで店先に並ぶような商品ではありません。

 そう、例えばこの剣など、これは〝業物〟と言われる剣です。

 この剣から魔力は感じられませんから、魔剣では無いのでしょう。

 魔剣など、そうそう見かける物ではありませんし。

 しかしこの業物の剣は、辺境伯領等のそれなりの身分の騎士が持つ剣です。

 それも、代々受け継がれているような」


ああ、リッケルトのアレもそうか。

でも、あれは特殊な合金で出来ていて、俺から見ても業物だったが…。

業物と言われる品でもグレードがあるという事か。



「そういう訳でして、こういう品は一つ一つにその時々で値が付く様な品なので、値付けが非常に難しいのです」


「しかし、冒険者ギルドなどでは戦利品の武具の買い取りなんかもやっているんだろう?」


「ええ、やっております。

 ですが、冒険者が持ち帰るような武具などは、その殆どが先ほどとは逆の意味で値付けが難しい品ばかりで、既定の値段で引き取ったとしても、その多くはそのまま処分箱行きです。

 中にはリストアされて売られることもありますが、普通は良くて溶かして素材に、悪くすればそのまま廃棄処分です。

 確かに、本当に価値のある戦利品もあると聞きます。

 しかしそういった品は、そもそも冒険者は鑑定はしても手放しませんから」

 

「ああ、確かにそうかもしれん…」


実際、ゲーム中での俺もそうだった。


「さて、話は戻りますが。

 結果だけ言えば、試験は勿論合格です。

 もしこれをこのまま売られるのだとしたら、後日売却価格をお知らせしますので、価格に問題が無ければ売却して手数料を引かせて頂いた上で売却金をヴァイス様にお支払いする、という形になります。

 勿論、このまま商業ギルドに卸さなかったとしても、不合格にはなりません」

 

ふむ、まあこの武具はいつでも作れるし、一体幾らになるのか、試しに売ってみるか。


「では、売却を頼む」


「わかりました。

 それでは、会員証の方を少々預からせて頂いて…。

 はい、これでこちらの方は、正会員の会員証となりましたので、お返しします。

 今後とも当ギルドをよろしくお願いいたします」


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


「では、売却が決まりましたらご連絡差し上げます。

 連絡先はどちらでしょうか?」

 

「歌う狼亭、という所に宿をとっている」


「ああ、あそこですか。

 承りました。

 では後日」

 

「ああ、ではまたな」



こうして俺達は商業ギルドでの用事を済ます事が出来た。

来た時とは打って変わって、俺を見送る受付嬢たちは満面の笑みだった。

実にわかりやすいな…。


「さてキーラ、次は冒険者ギルドだけど大丈夫か?」


「ユート、キーラはお腹が空いたニャー」


「ふっ。

 わかった、じゃあ少し早い様だが昼めしでも食べに行くか」

 

「わーい、やったニャー」


俺はキーラに連れられて、早目の昼飯へと向かったのだった。




紹介状もあり、商業ギルドに無事加盟しました。


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