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【2巻発売記念】お祭りデート 前


 ギデオンと婚約者になってから一ヶ月が経過した。観劇やスイーツ巡りなど、定期的に二人の時間を作っていたので、どんどん仲が深まっていた。


 雲一つない青空、今日はアーヴィング邸を訪れていた。庭園の一角で、二人だけのお茶会を開催していた。テーブルに並ぶスイーツは、全てギデオンが選んだものだった。


「うん。これも美味しい。ギデオンってスイーツ選びの才能がありますよね」


 着席してからタルト、フィナンシェ、マカロンを口にしたが、どれも文句のつけようのないほど最高に美味しかった。しかも、ただ美味しいのではなく、全て自分好みの味だった気がする。


「喜んでもらえて何よりです。アンジェリカと出掛ける度にお好きなものは何か見ていたので、そのおかげかと」

「凄い。確かに好きな味ばかりでした」

「良かった」


 はにかむギデオンを見ると、そこまで考えていてくれたのかと嬉しくなる一方で、自分も負けてられないと意欲が湧いた。


「では、今度はレリオーズ邸でお茶会をしましょう! 必ずギデオンの口に合うスイーツを並べますよ」

「ありがとうございます……! 凄く楽しみです」


 観察していたのはギデオンだけではない。私だって、出掛ける度にギデオンの様子を気にしていた。


(昔は弱み握られるのかと身構えたけど、こうやって好きな部分を知ろうと努力すんのは楽しいな)


 婚約者となった今では、ギデオンの喜ぶ顔を見られることが何よりも嬉しいのだ。


「準備もしたいので……一週間後はいかがですか?」

「一週間後、は」


 適当な日程を口に出したつもりだったが、ギデオンは答えを一瞬詰まらせた。予定が悪いのかと考え、別日を提案することにした。


「何かご予定があるなら、またの別の日でーー」

「その日は、アンジェリカと行きたい場所がありまして」

「え?」


 意外な申し出に驚いていると、ギデオンが説明し始めた。


「一週間後、城下町の郊外で、お祭が催されるんです」

「……お祭り?」 

「はい。大輪祭といってーー」


 ギデオンの口から“祭り”という言葉が出た瞬間、私の脳裏に前世でのお祭りが一気に過った。

 様々な屋台、大勢で担ぐ神輿、夜空に煌めく花火が見られる夏祭り。

 拳と拳が混じり合う、実力勝負のーーいや、これはただのお祭り騒ぎの血祭りだな。とにかく。“祭り”という、こんなにも熱くなれる行事は他にはないのだ。


(祭り……最高に上がって楽しいイベントしゃねぇか‼ まさかこの世界でもあるなんて……‼ しかも、たいりんさい? よくわかんねぇけど、絶対凄い祭りだよな。これは行かねぇとだよな‼)


 途中からギデオンの言葉が聞こえなくなるくらい、内心かなり興奮していた。それでも一切表情に出なかったのは、クリスタ姉様による淑女教育の賜物だと思う。


「ーーという催しなんです。いかがでしょうか」

「行きましょう!」

(あっ。せっかく表情抑えてたのに)


 勢い良くバッと席を立って頷すと、ギデオンは一瞬目を丸くさせたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「では一週間後、お迎えにあがりますね……!」

「はいっ」


 淑女らしからぬ行動に反省したものの、心の中は祭りへの期待ですぐに埋まってしまった。

 祭りに行く約束を交わすと、再び着席して残りのスイーツを食べることにした。


「祭りは熱いですよね」

「そうですね。最近は天気もいいですし」

「確かに。余計に熱くなりそうですね」

「ええ、でも暑さで倒れないように気をつけてくださいね」

「ありがとうございます。でも平気です。この熱さには慣れてますから」

(興奮しすぎて倒れたらまずいけど、そんな簡単に倒れるほどやわじゃないしな) 


 想像すればするほど期待が高まり、楽しさと嬉しさで胸がいっぱいになっていった。


 以前、クリスタ姉様に「淑女たるもの、常にお淑やかな微笑みを浮かべるものよ」と教えられたが、今の私は、そんなことなど忘れたかのように口角が上がりっぱなしだった。


「当日はやっぱり動きやすい服装ですよね」

「郊外ですので汚れてしまう可能性もあるかもしれません。気になるようでしたらーー」

「全く問題ありません。ギデオンと楽しめるなら、汚れも貴重な思い出ですよ」

「ーー!」


 祭りでいくら汚れようが、それは熱狂的に楽しんだ証。気になどなるわけがない。さらりと返すと紅茶の入ったカップに手を伸ばした。


「……まだまだアンジェリカに対する理解度が足りていなかったみたいです。ただ見ているだけじゃ駄目でしたね」

「え? あまりに美味しかったので、全部食べてしまいました」

「えっ」

「なので、理解度なら完璧かと」

「ありがとうございます、アンジェリカ。ですが、完璧には及ばないかと。まだまだ、アンジェリカの素敵でカッコいい魅力があると思うので」


 心底満足そうに話すギデオンを目にすると、私まで嬉しくなってしまった。


「確かに。それなら私もギデオンの魅力を見つけます」

「ありがとうございます。どちらが多く見つけられるか、楽しみですね」

「勝負ですね。負けませんよ」


 二人で笑い合いながら穏やかなひとときを過ごすと、私は帰路に着いた。


「……祭り、楽しみだなぁ」


 期待のにじんだ声が、馬車の中にそっと広がった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。皆様に少しでも楽しんでいただけますと幸いです‼


 後編は8/26に更新予定です。


 本作「ガン飛ばされたので睨み返したら、相手は公爵様でした。これはまずい」は、皆様の応援のおかげで、2巻を出版することができました。

 本当にありがとうございます。

 2巻は完全書き下ろしであるため、もしご興味ございましたらぜひ覗いてみてください。

 どうぞよろしくお願いいたします。

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