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67.目が離せない模擬戦



 元の席に戻った後、すぐにテイラー嬢を連行した護衛騎士も帰ってきた。


「レリオーズ様。あの場を収めていただき誠にありがとうございます。我々では対応が難しいところでした」

「当たり前のことをしただけですから」

「いえ。我々ではできない、とても素晴らしい追い詰め方だったかと」

「ありがとうございます」


 全護衛騎士がビシッと頭を下げた。


(といっても、ギデオン様の話を思い出せたからできたんだよな)


 ここに来る前彼が言っていた、申し出のない貴族というのが、恐らくテイラー嬢なのだとわかったからこそ、最終的に強気に出れたのだ。ギデオン様に感謝するかのように、私も深々と頭を下げ返した。


(……ん? 頭を上げないのか?)


 向こうが上げたら上げようと思っていた。少しの沈黙の後、貴族と騎士の立場を思い出したので、急いで顔を上げたのだった。




 模擬戦が開始された。

 初めは役職のない騎士が中心となっていた。組み合わせは、若い者同士や歳の離れた者同士など様々なものだった。

 中でも目を引いたのは女性騎士の活躍で、洗練された無駄のない動きで相手を圧倒していた。


(かっけぇなぁ……‼ もしかしたらエミリアは、彼女を見て騎士に憧れたのかもしれないな!)


 私も彼女の剣さばきを夢中で見ていた。もちろん、他の騎士の実力も高く、互角な戦いは特に見ごたえがあった。


(私も剣を持ってみてぇな……駄目だ、うずうずしてきた)


 ぎゅっと手のひらに力が入った瞬間、ギデオン様が公開訓練を開催している理由に、改めて納得した。


(私がアーヴィング領の民だったら、間違いなく速攻で騎士に志願してるな。それだけかっけぇもん)


 さすがはアーヴィング公爵家騎士団。基本的に騎士の実力が高く、どの騎士も魅力的な者しかいない。それは剣筋であっても、人柄であっても。


(勝っても負けても相手を讃える気持ちが、どの騎士からも感じられる……最高の騎士団だな)


 彼らを見てると、ふと前世自分が所属していたチームを思い出してしまった。仲間思いのやつが揃った、居心地のいいあの場所。


(……同じだ。アーヴィング公爵家騎士団は)


 似ているものを見つけたからか、心の中は一気に温かくなっていた。胸に手を当てて笑みをこぼしていると、一気に歓声が上がった。


「ギデオン様……!」


 訓練場に現れたギデオン様は、先程の礼装とは異なり、騎士の制服をまとっていた。団長ということもあって、他の騎士と比べて特別感のある衣装だった。


(いや、カッコよすぎるだろ!)


 貫禄のある立ち姿は、強者の雰囲気を感じさせた。あまりの良さに見惚れていると、ギデオン様はチラリと私のいる方を見た。目が合うと、彼は小さく頷いた。私はすかさず頷き返した。


(頑張れ、ギデオン様)


 声に出す手段もあったが、彼の集中を邪魔しないためにも、最小限の応援方法で気持ちを伝えた。


(相手は誰なんだ?)


 ギデオン様が領民に挨拶をしている間に、気になる対戦相手がどこにいるのか見回していた。すると、見たことのある顔を見つけた。


(あれは確か……副団長‼)


 団長対副団長という組み合わせに、領民はもちろん騎士達も高い関心の目を向けていた。


(すげぇな……まだ向かい合ってるだけなのに、覇気を感じるぞ)


 瞬きすることも忘れるくらい、二人の模擬戦をじっと見ていた。歓声が静まり、静寂が訪れたかと思った瞬間、二人の剣が混じりあった。


「‼」


 凄いと言うよりも前に、ギデオン様が剣を振り直した。それを当然のように受け止める副団長。目にも止まらぬ早さで、彼らは打ち合っていた。

 全ての剣筋を追うことはできなかったが、ギデオン様の真剣かつ覇気のある騎士としての姿を、じっくりと見続けていた。段々ギデオン様の目は細くなっていったが、それも含めて惹き付けられていた。


(あれがギデオン様の本気……初めてあった時に見た睨みなんて可愛いくらいだな。今の表情のほうが真剣で、最高にカッコいい)


 鼓動がかつてないほどに速まっているのがわかった。そして、ギデオン様が副団長の剣を弾き飛ばした。その瞬間、ギデオン様は勝ちを確信したからか、僅かに片方の口角を上げた。


(……ギデオン様)


 副団長は「参りました」と口にした。ギデオン様が剣を収めた。


「すまない、怪我はないか?」

「はい、団長。お手合わせいただきありがとうございました。……まだまだですね」

「そんなことはない。良い剣さばきだった」

「ありがとうございます」


 終わった後の立ち振舞いも凛々しく、最初から最後まで目が離せなかった。

 ギデオン様の戦いが最終戦だったこともあり、彼は再び領民へと挨拶をしに向かった。その後ろ姿さえも、目で追ってしまった。


 もう模擬戦は終わっていて、楽しみにしていた騎士も十分すぎるほど見終えた。その上、ギデオン様も剣を収めた。


 それなのに、私の鼓動は静まりそうになかった。


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