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34.“次”があるっていうのは最高だ




 ギデオン様の元へ戻れば、優しい声色で迎えられた。


「おめでとうございます、アンジェリカ嬢。圧巻の走りでしたね」


「ありがとうございます。凄く楽しかったです。……何よりも、ティアラが満足そうなのが嬉しい限りです」


 頂上を取るからティアラという名前にした。今日はその名通りの走りを見せてくれた。


「お疲れ様でした。見ている方も気持ちの良くなるくらい、素敵な走りでした」


「ティアラ、良かったな」


 ギデオン様からの賛辞をティアラと一緒に受け取ると、私は笑みをこぼした。


「飛び入り参加を提案してくれた運営委員の方が驚いていました。優勝するとは思っていなかったようで」


「あっ……それ気になっていたんです。今回のレースって王女様のためのものというか、王女様の走りを楽しみにしてきた方が多かったと思うので、私が優勝して大丈夫だったのかなって」


 実は唯一不安に思っており、まだ心の片隅に残っていたことをギデオン様に伝えた。


「何も問題ないですし、素晴らしい判断だったかと。忖度が発生した瞬間、それはレースではなくなってしまいます。アンジェリカ嬢が勢いよく走ってくれたからこそ楽しめた方も必ずいるはずです。私はその一人ですから」


 私の不安を感じ取ったからか、ギデオン様は熱を込めて説明してくれた。その思いやりが嬉しくて、優しさが心に染み込んだ。


(……王女様に勝って、本当に良かった)


 ギデオン様と二人で話せば話すほど、譲らなくて良かったと感じるのだった。



 私達はレースの感想を話しながら、会場を離れた。


「初めてのレースはいかがでしたか?」


「ずっと高揚していました。ただ、レース中はもうティアラに全て任せていたので、乗っている身ではありますがティアラを応援してました」


「信頼しているからこそ、ですね」


「はい。出遅れた時も、気にならないくらい走ることに夢中でした。ゴールテープを切る前は、まだ終わらなければいいのにって思ってて」


 それくらいのめり込んでいた。まだ走り続けられる、走りたいと思ったのはきっとティアラも同じことだろう。私はそっとティアラを撫でながら歩き続けた。


「それなら今度は、レースをメインに出掛けませんか? 大会に参加することを目的とするのもよいかと……ただ、頻繁に行われているわけではないのですが」


「えっ……いいんですか?」


「もちろん。私もアンジェリカ嬢とティアラさんの走りをまだまだ見たいと思っているので」


 ギデオン様の提案は私からすると言葉に表せないほど嬉しいものだった。


「ありがとうございます……! 帰ったら早速、他のレースについても調べてみます」


「私もお力になれるよう調べてみますね」


 次ティアラと走れるのがいつになるかはわからないものの、次回があるということは私にとって胸が高揚するものだった。


「よい時間ですので、そろそろ帰りましょう」


「はい」


 レースを最後に、私達は帰路に着くことにした。ティアラは体力があり余っているのか、ペースを落とすことなく走り続けてくれた。


 並走したり、後ろを走ったりしたが、間違いなく行きよりはギデオン様と親交が深まったと思う。


 屋敷が近付いてくると、名残惜しさを感じ始めた。


(……まだギデオン様と走りたい)


 今までは別れに躊躇いを感じることはなかったのだが、今日はもっと一緒に居たいという気持ちが生まれた。


 そして屋敷に到着すると、私はすぐにギデオン様へ尋ねた。


「ギデオン様。次はいつお会いできますか?」


 これを聞くのが早かったのか、ギデオン様は少し驚いたように目を丸くしていた。


(しまった。お疲れ様でした、とかが先だったかな)


 先走り過ぎたかと不安になっていれば、ギデオン様は口元を緩めながら答えてくれた。

 

「予定がわかり次第、すぐにご連絡します」

 

「はい、よろしくお願いします……!」


 答えをもらえると「お疲れ様でした」等の言葉を交わした。屋敷の前に居座るわけにもいかず、名残惜しさを残しながらの別れとなった。


「それではアンジェリカ嬢。また、お会いしましょう」


「はい。また」


 ギデオン様の背中が屋敷へと見えなくなるまで見送った。


(……今までで一番楽しい一日だったな)


 今度は私がギデオン様が楽しめるような一日にしよう、そう決意しながら屋敷の中へと入るのだった。





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