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【コミカライズ】人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された  作者: 溝上 良
第4章 構ってちゃん天使編

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第67話 プライド

 










「下らん」


 迫るラモンを見て、メルファは心底がっかりした。

 せっかく降りて姿を現してやったというのに、やることがこれか。


「何をするかと思えば……。結局、そういう反応しか見せないのか。ありきたりすぎて、つまらんよ」

 メルファが見たかったのは、ラモンの絶望する姿だ。


 無力を嘆き、悲嘆にくれるそんな姿だ。

 誰も、自分に対して強い殺意を持って襲い掛かられても、面白いはずがない。


 まあ、目新しさはある。

 天使である彼は、敵意や殺意を向けられることはほとんどない。


 人類は彼らを崇めるものだし、魔族とはそもそも関わらない。

 だから、人間……それも、教皇国の人間が自分に歯向かうのは、新鮮味がある。


 だが、面白くはない。

 飼い犬に手を噛まれることを嬉しいと思える天使ではなかった。


「人間風情が、天使である俺に傷をつけられるとでも? 愚かしいにもほどがある。そんなことは不可能だ」


 なかなかの瞬発力だ。

 だが、ラモンは満身創痍。


 メルファは身体をひねることで、その直情的な攻撃を避ける。


「そもそも、この俺に剣を向けるなど、不敬だろう。下等な虫風情が!」

「がふっ……!」


 無防備な身体を思いきり蹴り上げてやる。

 口から血を吐き出し、地面を何度も転がるラモン。


 その際に手から剣を離してしまう。

 倒れたまま何とかそれに手を伸ばそうとして……その手を踏みつけられる。


「ぎっ、ぐぁぁっ!?」


 ギリギリと体重をかけて踏みつけられる。

 骨がきしみ、激痛が走る。


「人間は愚かだ。俺の言うことを何の疑問もなく受け入れ、従う。そんな連中がいると思えば、お前のように感情的に行動し、死にかけるバカもいる。こんな種族が世界で繁栄していることが、不思議でならない……なっ!」

「――――――!!」


 ボギリ、と嫌な音が鳴った。

 メルファがさらに力を込めて踏みつけ、ラモンの腕が折れたのだ。


 声にならない悲鳴を上げるラモン。

 もだえ苦しむ彼を見て、メルファは高笑いした。


「くははははっ! ああ、いい声だ。このまま放っておけば、直に死ぬだろうし、止めは刺さないでいてやる。ゆっくりと死に近づく恐怖を味わうがいい」


 楽しくて仕方ない。

 自分に歯向かった愚かな人間が、誰にも看取られることなく、たった一人で苦しみながら朽ちていく。


 ああ、死に際はどれほどの絶望を味わうのだろうか。

 メルファは気になって仕方なかった。


「なに、聖勇者のことは心配するな。俺も魔族が嫌いだ。奴らが絶滅するまで、使いつぶしてやるさ。しかし、あれほどの力を持つ女だ。うまい具合に交配させれば、あれが死んだ後も俺の手駒に有能な奴が残る。全部使わせてもらうさ」


 わざわざ言ったのは、ラモンの精神を傷つけるため。

 しかし、すべてブラフではなく本気だった。


 アオイの力は強い。

 歴代の勇者の中でも、最強だ。


 あれだけの力は、努力で身に着けたのではなく、先天的な才能だ。

 そして、才能は子供に受け継がれることがある。


 天使の魔法を使えば、それをより確実に行うことができる。

 未来永劫にわたって自分たちの手駒を作るために、アオイを優秀な能力を持つ男と子をなさせる。


 メルファの計画だった。


「……なあ、天使さん」

「なんだ、命乞いか? 無様にふるまって俺を笑わせたら、考えてやらんこともないぞ」


 かすれた声で話しかけてくるラモンに、天使は嗜虐的な笑みを浮かべて見下ろす。

 もちろん、生かすつもりは毛頭ない。


 ただ、希望をチラつかせているだけだ。

 アップダウンが激しいほど、感情は強く出る。


 助かるかもしれないと思わせておいて、殺されれば、どれほどの反応を見せてくれるだろうか。

 だから、ラモンがどのような反応をするのかを知るため、踏みつけていた腕から足を離せば……。


「くたばれ」

「ぎゃっ!?」


 折れた剣の刃が、メルファの足に突き立てられた。

 血を噴き出し、美しい彼の身体が汚れる。


 今まで苦痛とは無縁だったメルファは、その激痛にもだえ苦しむ。

 メルファがこんなにも余裕を見せていたのは、ラモンを見下していたこともあったが、彼が反撃できないと思い込んでいたからだ。


 満身創痍で、放っておけば死に至るほど弱っている人間。

 しかも、周りに武器はない。


 ここから反撃をされるとは、微塵も思っていなかった。

 だから、まさかラモンが折れた剣の刃を素手で握りしめ、自分の手から血が噴き出させつつ足に突き刺してくるとは、想像もできなかった。


「ぎひゃっ!?」


 さらに、その勢いのままラモンは跳ね起きる。

 刃を握ったために血だらけとなった手を固く握りしめ、メルファの顎を打ち上げた。


 歯がおかしな嚙み合わせでぶち当たったことにより、何本も折れる。

 口から大量の出血をして、メルファは倒れ込んだ。


 もちろん、ラモンもそこまでが限界。

 彼もまた倒れ込み、もはや動くことはできなかった。


「く、くひょ……人間風情がああああ! こにょ俺に血を……! 歯を……! お前ええええええええええ!!」


 先に立ち上がったのはメルファ。

 彼も重傷だが、死にかけているラモンよりははるかにマシである。


 舌を一部噛んでしまったこともあり、うまく話せなくなっている。

 目は血走り、鬼の形相でラモンに近づいていく。


 彼の手に集まる魔力が膨大で、一人の人間を殺すには過剰なほどだった。

 それほどの怒りが、ラモンに向けられていた。


 メルファが怒りのままにその攻撃を行おうとして……。


「あぁっ!?」


 バッと振り返る。

 そこには、人間の軍勢が援軍として近づいてきていた。


 もちろん、天使であるメルファがここにいるとは知らず、怨敵である魔王軍と戦うために。

 近づいてくる人間の軍勢を見て、メルファは悩む。


 このままラモンを殺すことはできる。

 それを見られたとしても、天使に逆らったと言えば、誰もメルファを責めないだろう。


 だが、今の自分の姿が問題だった。

 口から大量の血を流し、歯は何本も抜けている。


 美しい白い翼は倒れ込んだことで汚れてしまっている。

 そんな姿を見せることは、プライドが許さない。


 しかも、ありえないとは思うが、天使がこのような姿だと誤解されれば、信仰心が薄れることもあるだろう。

 めったに人の前に姿を現さないことが、悪い方向に働いていた。


「くひょ……! クソクソクソ! 絶対に許さにゃいからな! お前は俺が! ありとあらゆる苦痛を与えてから殺してやる……! 覚えておけ!」


 メルファはプライドを取った。

 ラモンを殺さず、ありったけの呪詛を吐いて、彼はどこかへと消えていった。


 人類軍が近づいてくることも、メルファに呪われたことも意に介さず、ラモンはただ泣いていた幼馴染のことを思い出していた。


「アオイ……」




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