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taste, bite, chunk, or fuck

 ホテルに到着するとすぐに部屋に案内された。

 予想より綺麗なホテルと丁寧な案内にそわそわするぼくを見た妻は

「まるでこどもみたいね」

 と言って笑った。

 きみだってさっきまで不安そうだったじゃないか、と言いかけて飲み込んだ。

 なにも諍いをしにきたんじゃない。

 ……いや、ここでならそれも楽しめそうだけれどやめておこう。


 

 ボーイに気前良くチップを払って追い返すと、ようやくリラックスできる気がした。

 空港で買ったミネラルウォーターを電気ポットに注いで温めた。

 配給以外は初めてで、スイッチを理解するのにしばらくかかったけれど、その不便さを楽しみに旅行に来たのだと思うと笑ってしまった。


 ベランダに出ると、アフリカ特有の乾燥した甘い匂いの風が吹きつけてきた。

 最上階ではないものの見晴らしの良い部屋で、ぼくはその眺めに満足した。

 タクシーから見ていると分からなかったけれど、やはりエメラルドグリーンだとかクリムゾンレッドの建物が見える。

 いつの間にか横に並んだ妻も満足そうに外の景色を眺めている。


 これだけでも忙しない日本を離れた価値がある。

 妻の柔らかい肩を抱きよせて

「ここまでこられて良かったよ」

 と耳元でささやいた。

「なぁに、急にそんな風にして。くすぐったい」

 妻が身を捩るが、硬さはない。

「うん、もうすぐだからね」

「そうね。景色を見に来た訳じゃないですものね」

 妻がふと遠い目をした。

「さぁ、準備をしよう。ぼくはシャワーを浴びてくるよ。君はエステを受けてくると良い」

 ぼくは妻の背中をとん、と押した。

 


 テーブルには蝋燭が灯されていた。

 初めて見るその火の光は思ったより明るく手元を照らす。

 机に並べられたナプキンを胸元に挟んで両手にナイフとフォークを握る。

 手に汗が滲む。

 いよいよその時がきた。

 蝋燭の揺れ動く、それでいて芯の強い火が照らす卓上に並べられた肉は、とても豪華だと感じた。

 給仕のボーイからは部位ごとに切り分けられていると説明を受けたが、興奮のあまり内容は殆ど覚えていない。

 初めて飲む赤い葡萄酒にも興奮したが、それでもやはり本物の肉をナイフとフォークで切り分ける感触には震える程の感動を味わった。

 フォークで抑えた肉の繊維をナイフが断ち切っていく。

 中の血や油が溢れ出て白い皿を汚していく。

 ナイフが硬い皿に触れたとき、肉が切断された事を意味すると知る。

 ぼくは夢中で頬肉や胸肉、もも肉などと切って、噛んで、飲み込んだ。

 煮込み料理だという細い骨付き肉をしゃぶっていると見覚えのある指輪が見えた。

「これは要注意のチェックリストに記載しておかないとな」

 ぼくは手帳にメモを記した。

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