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第87話

 妻の提案とは……何のことは無い。


 ここまで暇を持て余しているように見えたのだろうオレの、いわゆる()()()()だ。


 確かに思っていた以上に妻も父も強くなっていたし、オレのやることは少なかった。

 デスサイズ戦や第4層の探索中こそ多少の口出しや手出しはさせて貰ったが、言ってしまえば、それだけだったのでフラストレーションが溜まっているのも事実ではある。


 有りがたく妻の提案に乗り、石距(てながだこ)に、ストレス解消の相手をして貰うことにした。

 父と妻には、基本的に自分の身を守る以外の手出しは控えてもらう。

 つまりは、オレのボス戦の見学といったところだ。


 いつもと違い、大力のブレストプレートや、蒼空のレガースといった主要装備は無しな(今は妻や父が装備している)ので、基本的には翠玉の短杖を持っての魔法攻撃が主体となる。

 万が一に備え、魔法の命中率を上げるために、新緑の靴だけは使わせて貰うことにした。


 さて実戦……いつものように邪魔で仕方ないフライングジェリーフィッシュ(クラゲ)から、魔法で片付ける。


 遊撃を担うグラトンコンストリクター(ヘビ)も、優先的に排除。

 こちらは魔法だけでなく、時には引き付けて鎗で倒すことも並行して行う。


 タンク(壁)役のジャイアントタートル(カメ)は、取り敢えず今のところ無視。


 先に、石距のタコ足を魔法で落としていく。

 自分でも驚いたのは、魔法の威力の向上だ。

 今までタコ足を1本落とすのに、悪い時で3回ほど【風魔法】を放つ必要性が有ったのだが、今日は常に1発で1本のタコ足を落とせている。

 おかげで予想以上にマジックポイントが温存出来てしまったので、事前の戦闘プランを一部修正し石距の本体やジャイアントタートルにも、遠慮なく【風魔法】を使って攻撃していくことにした。


 結果として、極めて短時間……そして、敵本隊のまともな接近さえも許さずに完勝。


 妻と父は呆れたような顔で、しかし称賛の拍手をしてくれていた。


 ……少し照れ臭い。


 一番最後に光に包まれて消えた、ジャイアントタートルが落とした魔石を拾おうとした時のことだった。


『スキル【風魔法】を自力習得しました』


 すっかり聞き慣れた【解析者】の声が、脳内に響いたのは……。


 そのうち来るだろうと思っていたが、このタイミングというのは少し意外だった。

 まぁ、1回の戦闘で放った魔法の回数としてはフォートレスロブスター戦の次に多かっただろうし、熟練度が上がるスピードも思った以上だったので、少しばかり想定より早かったというだけの話ではある。


 いずれは来ると思っていたことも有って、何食わぬ顔のままでいられたとは思う。

 そのままドロップアイテムの回収を済ませ、休憩もそこそこに撤収に掛かることにした。


 今日の夕食は妻が先日(オレが新しい鎗を作って貰った時)仕込んでくれた、ミートソースを使ってパスタの予定だ。

 長時間煮込んだ時の妻のミートソースの味は絶品。

 大量に作って冷凍してくれているので、パスタにドリアに、グラタンに……今後たびたび登場してくれるだろう。

 少しスパイシーな味付けに整え直して、ピザにしても良い。

 あの魔力式の製パン機なら簡単にピザ生地も作れるだろうし、つくづく良い物を拾ったものだと思う。


 そんなことを考えながら、引き返していたからだろうか?


 来た時に確実に通った道なのに、来た時には絶対に無かった宝箱が有った。


 通路の真ん中にデンっと鎮座していたのは、かなり大型の宝箱だ。


 妻が嬉しそうに駆け寄ろうとするのを、オレと父とで慌てて制止する。


 その宝箱の寸前には、超薄型のゼラチナス・キューブが網を張っていたのだ。

 もはやキューブですらない。

 ペラっペラだ。


 何、その巧妙な罠……。


 魔杖はインベントリーの中に仕舞っているが、わざわざ取り出すのも面倒だ。

【風魔法】で、いつもの光輪の魔法ではなく、つむじ風を起こす魔法を選択……行使する。


【風魔法】をスキルとして得た時に初めて覚えた魔法だが、何ら問題なく発動。


 薄い壁型をしていたゼラチナス・キューブは、旋風に巻かれて、あっという間に光に呑まれた。


 他にも使えるようになった魔法は色々とあるが、最も低燃費かつ低威力の魔法がコレだったのだ。

 杖を構えず魔法を使って見せたのは、単にオレのイタズラ心が顔を出したというだけの話だが、父も妻も目を丸くして驚いていた。


 すぐに理由(ワケ)を話し驚かせたことを詫びたが、苦笑している父はともかく、頬を膨らませてポカポカと殴ってくる妻のネコパンチが、地味に痛い。


 いや、痛い。


 本当に、痛い。


 改めて真面目に謝って、ようやく許して貰う。


 ……さて、そろそろ宝箱を開けようか。


 中に入っていたのはドライヤーだった。

 コードレスだ。


【鑑定】すると、やはりマジックアイテムだった。


 探索や戦力増強に利する物では無かったが、コレはコレで地味に嬉しい。


 いつ電気が来なくなるか分からないということもあるが、このドライヤーの優れた点は、あっという間に髪を乾かす速乾能力もさることながら、尋常では無いぐらい髪の(ツヤ)を良くしてくれる能力をも兼ね備えている点だろう。

 さらには、縮毛矯正が要らなくなるぐらい髪の毛をサラサラストレートにしてくれるし、反対にボタン一つで瞬時に形状が変化し、巻き髪、パーマも自由自在。

 コレが有れば、ヘアアイロンやコテが全く要らなくなる。

 そして……頭皮自体の血行も恐ろしく良くしてくれるという。

 男女を問わず、前々から非常に人気のある代物だ。

 数自体は、製パン機などのレアなマジックアイテムと比べると出回っていたが、それでも新車で軽自動車の良いヤツが買えるぐらいの値段は、常に下回らなかった人気の品ではある。


 妻の機嫌も一気に良くなってしまっていた。


 コレ、宝箱を開けてから種明かししといたら、殴られなかったんじゃないだろうか?


 その後は、特に何事も無く帰宅。


 ダン協の倉木(お姉)さんに、機嫌が恐ろしく良い妻を怪訝に思われただろうなぁ……というぐらい。


 夕食時……ミートソースを掛けたおチビ用の太麺パスタを機嫌良く頬張る息子の顔が、とても可愛かった。


 あぁ、頬っぺたがミートソースまみれに……。

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