第75話
留守番中……合間にネコに癒されたり、おチビ達に引っ張りだこにされたりしながらも、今日のオレは巡回と鍛練の時間をこそ増やすよう心掛けていた。
午前中の探索は各階層ボスとの再戦に加えて第5層の間引きも行うことにしたため、それなりにハードではあったのだが、それでも今のオレには少しばかり物足りないものだったのも事実だ。
それというのも、年齢とともに少しずつ……ジワジワと衰えて来ていた各種身体能力が、ここ数日で明確に向上してきており、ピーク時よりむしろ今の方が身体能力が高いぐらいだからである。
あまり強化に重点を置いていない筈の持久力においてもそれは顕著に表れていて、重りの少な目なバーベルのような鎗を振り回して鍛練していても、さほど疲れを感じたりはしなくなっていた。
それから、これは巡回に出た時の話だが、オレも複数体のモンスター同時出現を実際に目にすることになった。
ウチの敷地を出てすぐのところにワーラットとジャイアントセンチピードが、ほぼ同タイミングで現れたのだ。
にわかに黒い光が収束しワーラットが現れたので、それを倒すべく駆け寄っている最中そちらへ走るオレの真横に黒い光が発生……ワーラットを一突きで倒し振り向くと、そこには既にジャイアントセンチピードが、魔素から生まれ落ちているところだった。
長い胴体を高く持ち上げギチギチとその鋭い牙を打ち鳴らす様に怯むことなく、即座に正対し月牙を一閃すると五月蝿い音を立てていた頭部が、ボトリと地面に落ちる。
それでも白い光に包まれて消えていく最後の瞬間までギチギチと音を鳴らしていたのは、さすがの生命力といったところだ。
その後はコボルト、ジャイアントスパイダー、オークらがそれぞれ単体で現れたぐらいで、再び複数体同時出現を目にすることは無かった。
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そうこうするうち夕刻になり、ダンジョンに出掛けていた兄達が帰宅する。
今日の夕食は豪勢だ。
何と言っても『ホッパーシーアーチンの肉』がある。
つまり、今夜のメインは雲丹ということ。
もちろん何も付けずとも美味いぐらいの贅沢品だが、オレはワサビ多めのワサビ醤油をお行儀悪く上から直接かけて食べるのが大好きだ。
兄は1合だけという約束で、日本酒と生ウニ。
わずかに醤油を散らして、旨そうに食べている。
父も飲みたそうにしていたが、最近めっきり酒に弱くなってきているのを自覚してか、大人しくウニ丼。
おチビ達は生ウニはまだ早いだろうということで、母がハンバーグを作ってくれていた。
むしろ喜んでいたので、これはこれで良し……といったところだろう。
いつもより多く、つい腹一杯になるまで食べてしまったが、オレはこれからダンジョン探索だ。
……やってしまった感がすごい。
まぁ出かけるのは報告会の後だから、僅かながら食休みの時間は有るのだが。
今回の兄達の探索結果についてだが、その報告の前に語られたのは、新調した父の武器についてだった。
【杖術】スキルを活かすために、父と柏木さんとが知恵を絞り、最終的には両端に短めの穂先のついた槍……ということに落ち着いたのだという。
実際に見せても貰ったが、柄の長さは今まで貸していたオレの予備の槍より、僅かに長くなっている。
穂先は円錐状で両端に同じ大きさの物が付けられているので、どちら側で突いても同等の効果が期待出来るだろう。
柄に使われた素材は、これも兄が提供したダンジョン素材の魔木。重さはそうでもないが、硬さは鋼鉄並み、弾性は普通の木材並みという逸品だ。
穂先はオレの槍と同じくミスリル(魔銀)製だが、その円錘という形状もあって、両側を足してもオレの槍より使われたミスリルの量は少なく済んでいるという。
確かにこの武器ならは、穂先という概念が本来なら無い【杖術】スキルを十全に活かせるというものだ。
妻の薙刀は、オレの鎗や父の槍ほど魔改造品という感じではなく、普通にバージョンアップ。
柄の素材は魔木で刀身にはミスリルが使われているものの、見た目には普通の薙刀ではある。
いや、石突き側の柄の部分を魔鉄を薄く伸ばした金属板を巻き付けて補強して有るので、そこそこ見た目には派手かもしれない。
兄の刀については、家祖から伝来の御神刀というだけあって、無銘ながら相当の業物らしい。
二代目の和泉守兼定(通称、之定)の造りに棟や鎬などの特徴が非常に似ているらしく、それを模して弟子や家人の手で造られたものか、本人の初期の習作では無いかと言われている。
オレが【鑑定】すれば明らかになりそうなものだが、兄も父も良い顔をしないのでさすがに自重しているのだが……。
柏木さんにメンテナンスして貰った宝刀は以前より明らかに輝きを増していて、見るからに良く斬れそうになっていた。
三者三様に満足気な表情を浮かべていることから予想は出来ていたが、その後の探索は非常に捗ったらしい。
その結果と戦利品だが、階層ボスこそオレが昼前に軒並み倒してしまっているので、質はもう一つだったものの量はかなりのものがある。
もちろん大半は魔石やポーション類なので、売却してきた分も多いらしいが、その売却益を聞くだけでも思わず少しばかり呆れてしまうほどの金額だった。
モンスター同士の連携意識の改善は、兄達にも確かに厄介なものに思えるものだったらしいが、新しい武器や【風魔法】の恩恵がこれに勝っていたというのが、嘘偽りない感想のようだ。
そんなわけで、今回の探索で新しく発見したマジックアイテムは特に無し。
それでも、ラックの指輪(幸運上昇アクセ)、技巧のタリスマン(スキル熟練度にプラス補正)、耐痺のミサンガ(麻痺耐性上昇)、鷹のピアス(視力向上)といった既知のマジックアイテムは入手していたし、スクロール(魔)も7つ得ていた。
スクロール(魔)の振り分けは、兄達3人が2つずつで、オレが1つ。
ドーピングアイテム類は、腕力向上剤と敏捷向上剤が2つずつ。
持久力向上剤は3つで、幸運向上剤が1つ。
今回は、腕力向上剤がオレと妻。
敏捷向上剤は父と兄。
持久力向上剤はオレ以外の3人。
幸運向上剤は、今から探索に出るオレ……ということになった。
ポテンシャルオーブは、今回3つ。
オレ以外の3人が使用。
その分お菓子系のアイテムをオレに多く振り分けようという話になりかけたが、満腹を理由にこれは固辞した。
結果的に手元に来たのは、いつもの割り当て程度の量だが今すぐは入りそうにない。
ダンジョンに持ち込んで、休憩時にでも食べるとしよう。
……やはり運動前に、あまり食べるものでは無いなぁ。
まだ少し重たく感じる腹をさすりながら、オレはダンジョンへと続く夜道を、トボトボと歩いていたのだった。




