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第49話

 ダンジョンを出て、普段通りにダン協の建物に向かおうとしたのだが……道路向こうのドラッグストアの駐車場が何やら騒がしい。

 利用客の車が出口方面に殺到しているようだし、悲鳴や怒号の様な声も聞こえる。


 もしかしたらモンスターでも出たのだろうか?

 しかし、ゴブリンやスライム、コボルトやイビルバットなどでは、こんな騒ぎにならないだろう。

 あるいは……オークか?


 猛烈に嫌な予感に襲われたオレは、折良く横断歩道が青だったのもあって、普段ダンジョン外では出さない猛スピードで、一気に現場に向かって疾走した。

 じきにドラッグストア正面に到着というところで、遠目に大きな人影が見える……やはり、オーク?

 いや、オークにしては大きすぎる!

 オークなどよりも明らかにデカいソイツは、オレも直に見るのは初めてのことになる鬼のような魔物……オーガと呼ばれるモンスターだった。


 逃げ遅れた初老の女性へと、今まさに襲いかからんとしているオーガと、彼女を庇うように、怯えながらも武器を構え、女性の前に出た2人の若者の元へと駆け寄る。


「貴方はっ!」

「危ない!」


 まるでハモるように悲鳴を上げた2人の声には、なんだか妙に聞き覚えがあったのだが、今はそれどころではない。


 オーガの振り降ろす棍棒は、ちょっとした電柱のようなサイズだ。

 まともに受けてはベチャっと潰されてしまいかねないので、自分は勿論のこと勇敢な兄妹にも当たらないように慎重に受け流す。


「今のうちに逃げろ!」


「でも……」


「悪い!邪魔なんだ!少なくとも、そちらの女性を連れて下がっていてくれ!」


 彼ら2人や、女性を庇いながらでは、有るか無いかすら曖昧な勝算は、全く無くなってしまうだろう。


 幸い、今度は聞き分け良く、足を(いた)めてしまったらしい女性を助け起こして、巻き込まれないだろう位置まで下がってくれた。


 渾身の一撃をオレに受け流されたオーガは、そのことに警戒心を呼び起こされたのか、すぐにまた襲いかかって来るようなことはなかったが、恐らくそれも時間の問題だ。

 守勢に回って勝てる相手でも無いだろうし、今度はこちらの全力を受けて貰おう。


 頭部や胸部など、分かりやすい弱点には鎗が届きそうにない。

 シックスパックどころか、それ以上に割れてガチガチに見える腹も、まるでドラム缶の様な太腿も、針金のようなスネ毛が林立している脛も、どれもこれも異常な硬さを感じさせるものだが、それでもヘルスコーピオンの甲殻をも容易く貫く今の愛鎗ならば、傷つけられないということは無いだろう。


 そうしたオレの予想は幸い正しく、短鎗を振るうたびに、オーガの脚から、腹から、どす黒くさえ見える血液が吹き出していく。

 既に日は沈み掛けていて、これが違う場所での戦闘なら、或いは視界の悪さが不利に働いたことだろう。

 オーガと対峙する不運を嘆くより、街灯や車のヘッドライト、さらには店舗からの照明で照らされているこの場所で良かったのだと思おう。


 ちょこまか動き、チクチクと刺し続けるオレに、苛立たし気に振り降ろされるオーガの棍棒は、時に空振りし、時に受け流されては、アスファルトで舗装された駐車場に歪な穴や、亀裂を増やしていく。

 いまだにオーガの有効打はゼロ……というより、一撃でもマトモに喰らったら一巻の終わりだと思う。

 一方的に攻撃しているように見えて、常にギリギリ……薄氷の上を歩く心地だ。

 そうしているうち、オーガの棍棒を受け流し続けた経験が身を結んだのか……


『スキル【パリィ】を自力習得しました』


 やけに硬質な【解析者】の声が脳内に響き渡る。


 せっかくだからと、直後の横薙ぎに繰り出された棍棒に、パリィアミュレットのアシストに頼らないパリィを試したが、先程までより明らかにスムーズに受け流すことが出来た。


 そして生まれた大きな隙……後ろに回り込み膝の裏の鍛えようの無い部分に、鎗を連続で突き刺す。


 ……倒れないか?

 ならば!

 大きくバックスウィング……からの全力で殴打!

 狙いは勿論、膝の裏側。

 ガクッ……と、力が抜けたように片膝を付くオーガ。

 有り体に言ってしまえば、膝カックンっていうヤツを狙ったのだ。


 今度は素早く正面に回り込み、今まさに棍棒を杖代わりに起き上がろうとしている、オーガの右目を突き刺す。

 そして続けざまに左目、喉、眉間を鎗で突くが、喉は筋肉なのか腱なのか、何やら硬い物に阻まれ深くは刺さらなかったし、眉間への刺突も骨で止まってしまい、有効打にならなかったようだ。


 しかし、両目を潰されたオーガは棍棒を取り落とし両手で顔を押さえて、傷の痛みに大音量の咆哮を上げる。

 地面に突っ伏し、イヤイヤするかの如く頭を振る仕草は、さながら泣き崩れているようにも見える。


 ここが勝負の決めどころだと見たオレは、地面に放り出された、見るからに(いか)つい棍棒を足場に高く跳躍し、落下の勢いそのままに、思い切ってオーガの後頭部の下側……いわゆる盆の窪に、手にした鎗を全身のバネを使って思いっきり投げ込む。

 狙い(あやま)たず、深く……深く埋め込まれたオレの得物は、店舗照明に照らされて鈍く輝いている。


 そして……鎗が急所に突き刺さった瞬間、一際高く咆哮を上げたオーガは、しばらく痙攣した後、白い光に包まれて消え失せた。


 後に胸甲らしきアイテムを遺して……。

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