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第204話

 げ……思ってたより領域が広い。


 管理すべき領域は精々、仙台市の一部ぐらいの話だと思って引き受けたのだが、それはとんでも無く甘い認識だった。

 なんとその領域は仙台市を含む宮城県の南側全てと、一部が隣接する山形県、福島県にまで及んでいたのだ。

 そしてオレが直接その影響下に置いたダンジョン以外は全て『委任』という状態になっていて、現状では何も干渉が出来ない。

 何をするにもコストとして魔素を対価に支払わなくてはいけないのに、オレが膨大だと思っていた魔素収入量はどうやら雀の涙にしかならない量だったようだ。

 要は完全に予算が足りないので、干渉したくても出来ないという話だった。

 しかも、管理者になったことで実際に自由に扱える魔素は半減しているのだから、これでは実質的に何も変わらないどころか、損をしてしまったような気分にさえなる。

 まぁ、あくまでも遠隔での干渉が出来ないという話であって、これまでと同じくダンジョンを直接訪問する形で干渉しに行くこと自体は可能なようだし、今後は【交渉】を拒否されること自体は無くなるらしいから、かなり楽にはなるだろう。

 収入が減った分は、何ならまた増やせば良いのだし……。


 推定亜神の少女がくれた管理者用のマニュアル。

 オレはそれを兄の運転してくれている車の中で閲覧していたわけなのだが、形状は本なのに機能的にはむしろノートパソコンやタブレット端末に近い。

 これさえ有れば、各地のダンジョンの守護者や領域産出魔素量を、簡単に閲覧することが可能だ。

 もちろん、ダンジョンの仕様変更方法などの管理者として必要な知識も参照出来る。


 そして……これはこのマニュアルが無ければ知り得なかった情報だと思って間違い無いのだが、この地域ごとの産出魔素量がスタンピード発生による人口激減以前と、以後を比べてみると減っていないどころか、むしろ増えているようなのだ。

 詳細な原理は残念ながら分からない。

 本来なら魔石をエネルギー源とした道具を使う人が減れば、魔素の産出量も減るというのが筋だと思う。

 今やインフラと呼べるものは全て、魔石を動力源とした施設や道具に置き換えられている。

 いまだに電力供給が絶えていないのも、水道水や下水処理、ガスや電話なども取り敢えず問題無く使えているのも、そうした各技術力の急速な発展や、高度に自律化されたシステム構築のおかげらしい。

 とは言うものの、それも消費する人間が居てこそ活きてくる話で有って、スタンピード後の生き残りが全く居なさそうな都市部においても、魔素の産出量が減らないどころか増大しているというのは、全くもって理屈が合わない話だ。

 考えられるとすれば、ダンジョンの外をモンスターが闊歩するような状況の方が、周辺の魔素が濃縮されていく……とかだろうか?

 推理するにも、いかんせん情報が足りない。


「ヒデ、着いたぞ」


 兄に声を掛けられて我に帰ると、既にそこは見慣れた最寄りのダンジョンの駐車場だった。

 ここからは、兄とマチルダは別行動。

 それなりに難易度は高いものの、出現するモンスターとの相性的に二人には持ってこいなダンジョンに、今から遠征して貰うことにしたのだ。

 一応は盾兼魔法担当としてカタリナにも兄と共に行って貰うが、恐らくカタリナの出番はあまり無いだろう。

 攻略した後に【交渉】する役がカタリナだ。

 このため、カタリナには改めて温泉街のダンジョンの守護者になって貰った。

 本拠地のダンジョン以外は改めて守護者を配置可能なので、エネアの本体のアルセイデスにもド田舎ダンジョンの守護者として復帰して貰っている。

 あまり難易度の高くないダンジョンは、こうして手分けして支配下に置いていくことも、今後は必要になってくるだろう。

【ロード】スキルを得たことで、配下になって貰ったカタリナやアルセイデスには、もはや裏切られる心配が無くなっているのも、この場合はとても都合が良かった。

 まぁ、そんな保証が無くとも大丈夫そうな2人では有るのだが……。


 ◆


 兄達と別れた後、オレとエネアは守護者が暮らすための部屋(ダンジョンのコントロールルームとでも呼ぶべきかもしれない)に来ていた。


 そしてマニュアルを見ながら、各階層の造りを変えていく。

 第1層は見た目の気持ち悪い虫系モンスターは排除し、獣系モンスターや鳥系モンスターのうち、食肉系アイテムのドロップ率が高く、さほど強くも無いモンスターに入れ換えていった。

 ボスだけは護符が優秀な防具強化用アイテムとなるギガントビートルのままにしておく。


 第2層も虫系やスライム系はお役御免。

 人型モンスターとの戦闘に慣れるための階層にするべく、亜人系のモンスターをメインにして、引き続きお肉の美味しいモンスターも登場させる。

 ボスはヘルスコーピオンのままにしておく。

 理由はギガントビートルと、ほぼ同様。

 さらに、この階層から採取や採集のポイントを設定していくことにしたが、これが驚くほど高コストだった。

 モンスターのリポップ率を限界まで下げる必要があるほどだ。

 戦闘経験と食料。

 どちらも得られるダンジョンって実は割高なんだな。


 さて……


「エネア、ちょっと聞いても良いか?」


「……何かしら? 答えられることなら何でも答えるわよ?」


「どうしてオレが【交渉】しにいった時、断らなかったんだ? 実際あの時のオレとアルセイデスの力関係なら、君の方が強かった筈だろ? ……いや、何なら今でも簡単に勝てるとも思っていない。どうしてオレに従ってくれているんだ?」


「……意地悪なことを聞くのね。あなたの【交渉】に理が有ったから、じゃ駄目かしら? どうして今も従ってくれているのかっていう質問の答えは簡単よ。あなた見ていて飽きないんだもの」


「飽きないから、か。それはどう捉えれば良いのか反応に困るなぁ。それと、オレの【交渉】に利が有ったとも思えないから、聞いたつもりだったんだけど……」


「あ、それはニュアンスの違いよ。利益じゃなくて理。誠実さに胸を打たれたとでも言ったら良かったのかしらね。あなたには明確な目的が有って、私にはそうしたものが何も無かった。だから協力したいと思ったし、見守ってみたいと思った……っていうところかもしれないわ」


「……そっか。悪かったな、答えにくいことを聞いて。でも、さすがにあの精霊魔法の奥義みたいなのを見ちゃうと、不思議に思えてさ」


「奥義、ねぇ。……アレ、まだ本気じゃないわよ?」


 マジか……。

 いや、それもそうか。

 あの時に目にしたエネアの姿は中高生ぐらいだったわけだし、アルセイデスの見た目は妙齢の美女だった。

 アルセイデス本体が放つ同様の魔法は、比較にならない威力だったとしても、別に不思議では無いのだ。

 今の問答で疑念が全て晴れたわけでは無いのだが、何にしてもエネアが一緒に行動してくれるのが心強いことは間違いない。


 オレはダンジョンの設定を変更する作業に、再び集中することにした。

 こういう作業、実は嫌いじゃないんだよなぁ。

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