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閑話2) 柏木沙奈良の秘密

『スキル【見極める者】を習得しました』


 私の脳裏に突然、響いた声。

 その時から私には、兄や父……あの男性とも違う世界が見えるようになりました。


 ◆


 黒川さんがオークに殺されてしまい、野田さんも逃げるのに失敗して片腕をぺしゃんこにされたあの日。

 私達兄妹を含む即席パーティは解散しました。


 そうなった後で初めて分かったことですが、兄が慕っていたのは野田さんよりむしろ黒川さんの方だったようです。

 酷く落ち込むと同時に、二度も窮地を救ってくれた精悍な顔立ちの男性に憧れを抱いたようでした。

 その背反するようでいて併存し得る感情の揺れに戸惑い、兄はなかなか再び動き出す契機を掴めずにいました。


 兄が完全に立ち直るきっかけになったのは、日用品を求めにドラッグストアを訪れる母の護衛を引き受けたことでした。

 より正確に言うならば、店の前でオーガに襲われた事件。

 三度、私達の窮地を救った男性……彼と話すことがようやく出来たからだと思います。


 彼の名前は宗像(むなかた) 英俊(ひでとし)


 その後も私たち家族にとって、非常に重要な関わりを持つことになる男性と、ようやく正式に知り合えたのが、この時でした。

 オーガを討伐してくれた後、世界が()()なる以前に私たち兄妹がバイトしていたカフェで会話をすることが出来たのです。


 飾らない人柄。

 自分の武勇や、正義感を誇ることの一切ない人でした。

 さすがの彼も、兄の明け透けな憧憬の視線にはたじろいでいたように思いますが、そこも好印象という他ありません。

 一回りは歳上の男性をつかまえて言うべきでは無いのでしょうが、何だかとても可愛く思えました。


 私たちが大学の合格祈願で訪れた神社の次男さんということを聞き出せましたので、翌日さっそく家族総出で訪れ、ようやく再三の恩義の一部をお返しすることが出来ました。


 兄がやる気満々で帰って来たのは、さらにその翌日のことです。

 武器を新調しに出掛けた兄は、またも彼と話す機会を得て、その堅実な考え方や、戦闘についてのシビアな姿勢にいたく感銘を受けたようでした。

 母が、父と同じダン協支部で働き始めたのも、この日からです。

 これで私たち兄妹が再びダンジョンに潜るための環境が、ほぼ整ったことになります。


 強いて言えば私たち以外の仲間が居ないことが問題と言えるのですが、亡くなった黒川さんや、引退した野田さんの地元にもダンジョンが有って、そちらは非常に難易度が低いそうなのです。

 もとより自衛力強化の必要性を強く感じていた私としては、兄がやる気になったこの好機を逃がすつもりは毛頭有りませんでした。


 さっそく出掛けた私たちでしたが……車をナビに従って進めるにつれ、思わず唖然としてしまいました。

 田舎だ、田舎だとは聞いていましたが、まさか自宅から車で10分も行かないところに、これほどの風光明媚な地域が有るとは思ってもいなかったのです。

 田んぼと畑と、森と林と、酷く疎らな人家。

 牛か馬の居るであろう厩舎。

 一基だけの必要性が怪しい信号機。

 その横にポツンと建っているコンビニ。


 そんな光景を見ながら、とんと変わる気配のない感応式の信号機を左折し、建て替えたばかりで廃校になった小学校が元になったというダンジョン前へと辿り着きました。

 そして、ダンジョン前の駐車場に車を停め、兄と2人でプレハブのダン協支部の方へと歩を進めていきます。

 ダン協支部前の広場では何人かの、思い思いの装備を身に付けた探索者らしい方が、互いの成果の確認や、臨時パーティの募集などをしていました。

 思ったより賑わっていて驚いたものです。


 私たち兄妹を初顔と見た何人かに声を掛けられたり、パーティ参加の勧誘を受けたりもしましたが、野田さんで懲りた私たちは角が立たないようにやり過ごし、プレハブ小屋の中に入って行きました。

 新規利用について、手続きというほどの手続きは要りませんでした。

 最寄りのダンジョンで申請……取得したダンジョンパスが有るのなら、ダンジョンへの入場は問題無いようです。

 そのまま、形ばかりのダン協を出て、まっすぐダンジョンへと向かいました。


 そして……最初の戦闘。


 初挑戦の時に背後から兄に襲い掛かって来たコウモリ……宗像さんによればイビルバットと言うらしいのですが、それを苦労しながら倒した私たちは戦利品として見慣れないアイテムを手にすることが出来たのです。

 古い洋書のような、重厚な装丁の本。

 これが噂に聞くスキルブックという物なのは疑い有りませんでしたが、一応は鑑定して貰う必要がありますし、何より今は未熟な自分たちを鍛えるためにダンジョンに来ているのです。

 幸い兄とも意見が一致しましたので、いったんライトインベントリーに本を収納し、そのままダンジョン探索を再開しました。


 ◆ ◆


 最初こそ幸先の良かった、この日のダンジョン探索でしたが、結果から言えば散々な出来でした。


 思ったよりダンジョン内に入って来ている人が多いせいか、期待していたほどモンスターが居ないのと、数少ないモンスターのうち半数は植物に擬態していて、奇襲を受けてしまうケースが多かったのです。

 大半は私たち兄妹でも倒せるレベルのモンスターでしたが、それでも楽勝とまではいかず、常に緊張を強いられるため、肉体的な疲労よりむしろ精神的に疲れてしまいました。


 それでも帰り道では、行きで苦戦したモンスターをいくらかは楽に葬ることが出来るようになっていて、ダンジョン探索で得られる力については、確かに実感することが出来たのです。


 結局、ダン協の簡易鑑定機ではスキルブックに籠められたスキルについては知ることが出来なかったのは誤算でした。

 まぁ、詳しくは知らなかったスキルブックの使用方法について職員の方から教えて貰えたので、まったくの無駄というわけではありませんでしたけど……。


 家に帰り、ささやかな戦利品について兄と相談しましたが、スキルブックを落としたイビルバットにトドメを刺したのが私だったことから、スキルブックを使用するのは私ということに決まったのです。


 そして得た思わぬスキル。


 今にして思えば私たち兄妹が、ダンジョンや宗像さん達と深く関わることになった本当の契機とはコレだったのかもしれません。


 いえ、恐らくはそう…………。

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