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第167話

『先ほどまでの威勢はどうした? 我の寛大な提案を無下にしたのだ。とうに死ぬ覚悟は出来ているのだろう?』


 余裕綽々の態度で嗤う吸血鬼。

 見た目は眉目秀麗な青年……と言いたいところだが、そうした下卑た表情が全てを台無しにしている。

 バンパイアにしては、さほど青白い顔色でも無い。

 そもそも魔力が満ちた空間であるダンジョンに居るうえ、オレがモンスター達から奪った魔力を横取りしたせいかもしれないし、マチルダの血液を大量に吸ったせいかもしれないが、いずれにしても腹立たしい限りだ。


 今回は長々と吸血鬼と話しているつもりは無い。

 ヤツと話していると、何故かヤツの言っていることが正しく思えてくるのだ。

 これは何も、この腐れバンパイアの言っていることが、本当に正しい主張だなどとオレが感じたということでは無い。

 吸血鬼の眼、言葉いずれかに恐らくは魅了の呪力でも籠められているのだろう。

 先ほどにしても、瀕死だったマチルダを思いやる気持ちと、そうした状況を生み出したバンパイアへの強烈な怒り……そのどちらかが欠けていたなら、嬉々としてヤツの言うことに従っていた可能性は否定しきれなかった。


 無言で槍を振るうオレに対抗すべく、バンパイアも血紅色の細剣をどこからともなく取り出し、意外なほどに流麗な剣さばきを見せる。

 鋭く突き出された血のように赤いレイピア。

 しかし今さら反応出来ないレベルの刺突でも無い。

 剣先が向かう先は、充分に眼で追えている。

 突き出される過程の細剣に、槍の柄を思いっきり叩き付けるようにして振り降ろす。

 狙い違わず細剣を捉えたかに見えた槍は、しかし不可解なことに空しく地面を叩いた。

 そしてオレの二の腕に深く突き刺さるレイピア……を横目で見やったオレは思わずギョッとしてしまう。

 剣の表面が生き物の様に脈動しているのだ。

 それに伴い、不意に立ち眩みのような症状に襲われた。

 ……剣先から血を吸われている!

 堪らず槍をカチ上げるようにして吸血鬼の股間を狙うも、これは難なく躱されてしまう。


『むさ苦しい男の首筋に、我が牙を埋める趣味は無いのでな……フフッ、有り難く頂くぞ? 貴様の修練の結晶を!』


 不敵に嗤う吸血鬼……先ほどにも増してヤツの放つプレッシャーが強大化している。

 より一層けたたましく危険を告げ始めた【危機察知】の警報。

 ヤツに吸われてしまったのは、どうやら血液だけでは無いようだった。


 ……エナジードレイン。


 アンデッドモンスターが持つ特殊能力の中でも最も厄介な部類に入るものだ。

 同じ能力でも、それがゴーストなら接触が長時間に及んだ場合に、ダンジョン探索で培った能力が吸われていく現象を指す。

 これがレイスやスペクターなど上位のアンデッドモンスターになると、接触が短時間でも同様の現象を引き起こすという。

 最終的には生命そのものをも吸い尽くされてしまうわけだが、このバンパイアの()()は少々特殊なようだった。

 アンデッドモンスターが登場し始めてからまだ日が浅いうえ、マスコミからの情報もスタンピード以来すっかり途絶しているため、バンパイアについては、全くと言って良いほど情報が無い。

 それでも漠然とだがエナジードレインは、バンパイアも持ち合わせている能力だろうといった予想は立てていたのだ。

 ……とは言うものの、せいぜいが接触によるものか、あるいは吸血によるエナジードレインを想定していたオレは、バンパイアに触れられること自体かなり警戒していたのだが、まさか武器による吸血と同時のエナジードレインが可能だとまでは、さすがに予想出来ていなかった。


 さらに問題となるのが、先ほどの目を疑うべき現象だ。

 確実に叩き落とした筈の細剣が、まるで実体の無い物かのように、オレの槍をすり抜けて来ていた。

 確かにバンパイアの剣の腕は思っていたよりは達者なものだったが、それにしても先ほどの現象は不可解この上ない。

 本当に実体が無いのだとすれば、オレの身体を傷付けることも出来ない筈なのだ。

 残念ながら謎解きをしている余裕は無いため、もうそういうものとして扱うべきだろう。

 つまり……オレの得意の受け流しや、武器を叩き落としたりする技は封印して戦うということになる。

 幸い武器戦闘だけに限って言うならば、それ無しでも決して劣ってはいない。

 敵の攻撃を徹底的に回避している分、圧倒するところまではいかないが、それでも徐々にバンパイアの身体を傷付ける場面は増えていった。


 むしろ不利だったのは魔法戦だ。

 せっかく序盤で盾役のミラークラブを排除したというのに、バンパイアの魔法抵抗力は圧倒的で、まるで機械の女神を最初に相手どった時のように、オレの魔法が殆ど効いていない。

 さらにはバンパイアの魔法行使能力は、オレが想像していたより遥かに高かった。

 ヤツが得意としているのは明らかに闇魔法なのだが、その他の属性魔法も恐ろしく威力があり、そして目を瞠るほど瞬時に放たれる魔法の数々……。

 とても全てを回避するまでには至らず、徐々に無視出来ないレベルのダメージが、オレの身体のあちこちに蓄積されていく。


 武器戦闘ではオレが優位で、魔法戦ではバンパイアが有利。

 一見すると互角の戦いの様相だろう。

 しかし……オレは手数の幾らかを割いて魔法で傷を癒しているというのに、バンパイアにはその様子が見えない。

 驚異的なまでの再生力を有し、挙げ句の果てには貫いた筈の眼球まで復活してしまった。



 どう考えても、このままでは勝てそうに無い。

 再び撤退が頭を過るが、今さらそれを許してくれるほど甘い相手では無いだろう。


 脳をフル回転させて、逆転の一手を探す。

 もちろん簡単には見つからない。


 しかし考えるのを止めるわけにもいかない。

 こんな下劣な相手に負けてやるわけにはいかないのだから……。


 何か無いか……見落としている……なにか。

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