第120話
さすがに先ほどの津波擬きには肝を冷やしたが、何をどう考えてもダンジョンから生まれているであろう海水がこのスタンピードの影響で、モンスターと同様に異常増殖したのだとしたら一応は辻褄が合ってしまうのが何とも嫌らしい。
そうなるとダンジョン前のアスファルトに敷き詰められた塩も、もしかしたら食用に適さないのでは無いかと思い【鑑定】をしてみることにした。
結果的にはシロでむしろ不純物の少ない良い塩らしいので、安心して掻き集める。
その他のドロップアイテムは、海産物系の食材(むきエビや、ウニなど……)も多かったが、中には素晴らしいアイテムも含まれていた。
『スプラッシュラリマーの指輪』などはその代表格で、身に付ければ水属性魔法の使用を可能にする。
【剣術】や【敏捷強化】のスキルブックも嬉しいし、今すぐに役に立ってくれるものだが、それより何より【調剤】というレアスキルを内包したスキルブックがドロップしたのには驚かされた。
【鑑定】や【鍛冶】と並んで超稀少スキルとされている【調剤】は、材料さえ揃えば様々なポーション類を作れるスキルだが、オレは更なる可能性を秘めているとさえ睨んでいる。
……レベルさえ上がれば、さらに色々と作れてしまうのでは無いだろうか?
例えば……いまだに見つかっていない魔力を回復するポーションや、何だったら腕力向上剤などのドーピングアイテムさえも。
まぁ……あくまでも可能性の話で、そんなことを言い出したら不老不死の霊薬や、ゲームなどで見られる生き返りの薬、どんな病気もたちどころに治す薬、完全に死滅した毛根すらも復活させる薬、ノーリスクで瞬時に痩せ二度と太らなくなる薬……と、まぁ話がどこまでも広がっていってしまう。
さすがにそこまでの期待を本当にしているわけでは無いのだが、これは今後を考えると有用かつ必要なスキルだろう。
本来的な意味での調剤も製剤も、今後は困難を極めるだろうから……。
閑話休題……
アイテム回収が終わり、ピョンと跳ねてバリケード内に戻った瞬間に【解析者】の声が脳内に響いた。
『スキル【跳躍力強化】を自力習得しました』
オレ、そんなに跳び回ってたっけ?
……などと一瞬、考え込んでしまったが、何のことはない。
ホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)にしても、バレットバーナクル(弾丸フジツボ)にしても、ヤツらが高速で飛来してくる原理は突き詰めて考えれば、跳躍に他ならない。
【存在強奪】が仕事をしたとみて良いのだろう。
貯まりに貯まっていた熟練度が、先ほどのジャンプをきっかけに、スキル化したというだけの話なのだと考えられる。
まだ後続の敵は姿を見せない。
この間に簡単に戦利品の分配をして、陣容の強化を図ることにした。
簡単な話し合いが行われ……【剣術】スキルは右京君と佐藤さん(この戦いでは敢闘賞ものの働きを続けていた上田さんグループのガテン系チョイ悪オヤジ)が使用し【敏捷強化】は父が使用することに決まった。
他にもドーピング剤だとか能力強化系アクセサリーなどは全員にそれなりの量が行き渡り、既に沙奈良ちゃんや右京君などは、能力的には少し前のオレよりもよほど強いぐらいだろう。
それこそ今の2人なら、自力でオーガにも勝てるかもしれない程だ。
まぁ……能力やスキル、装備などは良くても、実際の多様な戦闘経験は足りていないと思うので、例えばカシャンボや石距などの変化球タイプと戦わせるには、いまだに不安が残るのだけれど……。
◆
海棲生物系モンスター達を殲滅してから暫く経つが、そのボスである筈のフォートレスロブスター(要塞エビ)の移動速度は、とことん遅いのか……まだ来ない。
よくよく考えると、そもそもがあの巨体だ。
逆侵攻して来ようにも、通り抜けられそうに無い場所が幾つも有る。
来ないという可能性は……先ほどの津波を見てしまった以上、考えないようにしている。
何が起きてもおかしくは無い。
まだフォートレスロブスターは来ていないが、
もうリポップしたというのか第1層や第2層に出現するモンスター達が、先ほどから断続的に出撃して来ている。
ギガントビートルまで出てきた時には皆が驚いていたが、幸い出現したのは1体だけだった。
妻が単独でこの巨大なボスモンスターを皆の面前で葬って見せて、大いに皆の士気を上げるのに成功する。
エンドレスで朝と同等……もしくは同等以上のモンスターの大群が現れ続ける訳では無いと分かったことも大きい。
皆、一様に表情が明るさを取り戻している。
【危機察知】で背後を脅かす可能性の有るモンスター達の出現を、いち早く察知出来ているのも士気を保てている要因かもしれない。
クリーニング屋を営む早川さん宅を今まさに襲撃しようとしていた、コボルトとオークの混成部隊の側面を衝いて壊滅した時に、上田さん、佐藤さん、鈴木さんら地元青年団パーティを連れて行ったことも功を奏した。
救えなかった星野さん一家の代わり……というわけでは無いが、彼ら自身の手で早川さんを救って貰ったことが、結果として好影響を齎したのだ。
実際オレばかり活躍している状況は好ましくないとも思っていたので、こうした余裕のある状況下ではなるべく出しゃばらず後方に控えたり別の働きをするようにしていた。
例えば……早川さん宅の件では、迂回して逆側に立ちはだかり、モンスター達の退路を絶つことなど、裏方仕事を率先してこなしている。
今も先陣をきってバリケード前で戦っているのは父だし、討ち洩らしの排除でも沙奈良ちゃんや森脇さんらが活躍している。
背撃防止の遊撃も上田さん達が主力部隊で、オレは察知と上田さん達の護衛が役目だ。
先陣は状況によって交代していて、再び出現したヘルスコーピオンは柏木兄妹が……。
デスサイズを父が……。
石距は父と妻とが協力して、それぞれ討ち取っている。
時刻は既に16時を回った。
肉体的にはともかく、精神的には皆が疲弊している。
今この時、皆の士気が高く保てているのは良い傾向だろう。
そして……また少しの間、モンスターの進撃は中断している。
恐らくはそろそろ出てくるのだろう。
長きにわたりこのダンジョンを難攻不落の城塞として君臨させ続けていた、堅牢かつ強大な階層ボスが群れを成して…………。




