第100話
フォートレスロブスターが遺した宝箱の下敷きになっていながらも、それに劣らない存在感を放つ物。
それは重厚な装丁が施された洋書風の本。
そう……スキルブックだ。
中に籠められたスキルが何であれ、確実に役に立つアイテムだと言えるだろう。
宝箱は中身を回収した後、さっさとどける。
下に有ったアイテムは、スキルブック以外は全て魔石だった。
他にも部屋のあちこちに色んなドロップアイテムが落ちているが、まずはスキルブックの内容を確認する。
『アナライズ』
スキルブックを手に取り、心の中で念じてから本の背表紙を見ると、今まで読めそうになかった文字が何故か読めるようになった。
【状態異常耐性】
おぉ……これは、かなり良いスキルじゃないだろうか?
そもそも耐性スキルというものを持っている人自体が少ないらしいのだが、たまに聞くのは【毒耐性】や【麻痺耐性】のように、何かしらの状態異常に限定されたスキルだった。
字面を見る限り、恐らく汎用性に優れたスキルだろう。
こうした汎用性に優れたスキルは、特化したスキルには効力が及ばないことが知られている。
だが、それでも色々な事態に対応しやすくなるのは魅力的だし特化型のスキルとも重ねて取得が出来るうえ、その場合は効果もちゃんと重ねて発揮されるため絶対に無駄にはならない。
ちょうど妻の持つ【長柄武器の心得】と【薙刀術】との関係が、まさにそれだ。
これはさすがに持ち帰って協議しなければ、マズいだろうなぁ。
そう結論づけたオレは、階層ボスの部屋に残されたドロップアイテムを拾い集め一息ついた後、第6階層へと歩を進めていく。
また磯のエリア……最悪の場合は大半が水没しているようなエリア……そうした想定は見事に裏切られた。
第1層と同じような人工的な建築物の中を進むような造りだ。
ダンジョン内の空間としては、最もクセが弱い部類に入る。
しかしここがどこか厄介そうな印象を受けるのは、この階層から妙に通路が広いことと、間引きどころか全くの前人未到なエリアだというのに、いまだに1匹もモンスターが接近して来ないことが原因だろう。
何しろ情報が全く無いエリアなので、敵が来ないからといってこちらからガンガン進んでいくわけにもいかない。
かといって、ただボーっとしているのは時間の無駄だ。
突き当たりまでかなり距離が有るし、ここは慎重に進んでいくか。
幸いまだフォートレスロブスター戦で使ったフィジカルエンチャントも、エンチャントウェポンも効果時間内だ。
最悪の場合、まっすぐ走って逃げれば良いだろう。
……細心の注意を払いつつそろそろと進んでいくが、なかなかモンスターは現れない。
ついに突き当たりまで来てしまった。
ちょうどアルファベットのTの形の通路なので、マッピングも楽だった。
そうそう、言い忘れていたがこの階層からは地図が無いので、自分でマッピングをしなければいけないのだ。
マッピング専用のホワイトボードと極細のマーカーを、ミドルインベントリーに入れて持ってきている。
敵が来たり【危機察知】に反応があったりした場合は、すぐに収納すれば良いだけの話だ。
幸い方向音痴でこそないが、全くの地図無しでのダンジョン探索はオレも無理だと思うし、後に続いてくれるだろう妻達にも酷な話だろう。
閑話休題……
ここまで来たのに、モンスターが全く出ないのは明らかに異常だ。
それでもここまで来て、ただ引き返すというのも芸が無い。
恐る恐る突き当たりから顔を出し、左右を確認する。
左はすぐに行き止まり。
小部屋の類いも無いようだ。
右はまたも長く広い通路。
見渡す限りモンスターの影は無い。
……なんだ、この階層?
まっすぐボス部屋まで来いというのだろうか?
仕方なく右に折れ、しばらく進む。
左側は単なる壁がずっと続いている。
右側には複数の分岐が見える。
この通路を基点にして、分岐を一つずつ確認していくしか無いかな……と思ったその時、左側の壁しか無いところから染み出すように、半透明な人影が現れた!
それを視認してようやく【危機察知】が発動、ささやかな警報を鳴らす。
ゴーストだ。
ご多分に洩れず、まるでロールプレイングゲームの世界から抜け出して来た村人の様な格好をしたゴースト。
枯れ木の様な老爺の亡霊……と言いたいところだが、本当の意味での亡霊ではなくこれもダンジョンが造り出したモンスターとしてのゴーストなのは疑い無かった。
こんな今にも倒れそうなお爺さんがダンジョンに挑んで、あえなく死んでゴーストになる?
まず有り得ないし、そもそもガッツリ欧米系の顔立ちだ。
ビックリはしたし、ゆっくりと恐怖を煽るかのように浮遊しながら近づいて来ているが、時間に余裕が有ることで何だか妙に落ち着いてしまった。
慌てず騒がず対処することにしよう。
一応、お清めの塩も分けて貰って来てはいるが、まずはワールウインドの出番だ。
旋風の魔法は酷くアッサリと、老人のゴーストを白い光に包み、それはそれは小さな魔石へと変えてしまった。
……うん、よく効くようで何よりだ。
しかし【危機察知】が直前まで反応しないとなると、この何の変哲も無いように見える壁は、何らかの特殊性を持っていると見るべきなのだろう。
壁自体が一種のトラップのようなものだ。
この壁にゴーストの組み合わせは、地味に厄介な組み合わせだと思う。
相変わらずこのダンジョンには、初見殺しの精神を色濃く感じる。
あまりに広い通路に戸惑い、オレは知らず知らず壁沿いを歩いていたようだが、ここからは勇気をもって通路の真ん中を歩くべきだろう。
そして最初の分岐点、細心の注意を払いながら右手の通路を見ると道の先に大きな岩が見える。
……え?
いや、あからさまに怪しいだろ。
あまりの不自然さに躊躇し、しばらく立ち止まっていると、またもいきなりゴーストが現れた。
今度はよりによって背後の床から突然だ。
お化け屋敷の送りオバケみたいなものか。
インベントリーから塩を取り出すヒマさえなく、咄嗟のことに思わず鎗を振るう。
失念していたが、まだ鎗は緑色の魔法光を灯していた。
中年女性の姿をした幽霊は、アッサリと魔法を宿した鎗に貫かれ消えていく。
そうか……ゴーストの対処は、これで良かったのか。
鎗に魔法を付与しておけば、いちいちワールウインドを放ったり塩を取り出したりするより、こうした急なゴーストの出現に対応しやすい。
そんな思わぬ発見に一瞬だけ気を良くはしたものの、オレの足を止めた原因の大岩は依然として通路に転がったままだ。
……うーん、アレどうしようかなぁ?




