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第10話

「この辺りって実は安全なのかもしれないわね~」


 息子をあやしながら、もうすっかり普段の調子を取り戻した妻が言う。


「あぁ……オレも同じ意見だな」


 兄も渋い顔をしたままだが、少し明るい調子の声で肯定する。


 皆、同じように考えていたのかもしれない。

 このあたりは、祖父が生まれた頃は仙台市内ではなく、単なる農村だった。

 いや、まぁ……日本国内でも指折りの名村とやらだったらしいが、現代的な価値観で言えば、ど田舎の農村であったことに変わりは無い。


 つまりだ。

 いまだ都会化しきれていないエリアなのだ。

 田舎に有りがちな大型スーパーと、それに連なる商店群が有る一方、その裏手にはすぐ田んぼや畑。

 真新しい大型ドラッグストアやファミリーレストラン、ホームセンター、コンビニ、病院、老人ホーム等が立ち並ぶ中、すぐ脇の道をシーズンになるとトラクターがのんびりと走る。

 老人達の茶飲み話で、あそこの栗林にクマが出ただの、屋根裏にハクビシンが入っただの、裏山でイノシシが獲れただの……野生動物の影もチラホラ。

 オレ自身、車に()かれたタヌキなんかは、しょっちゅう見るし、カモシカ、ホンドキツネ、テンなんかを目撃したことも有ったものだ。

 それもまた良さだとは思うのだが、都会に住む人からすれば、何そのド田舎……と、絶句したくなることだろう。

 子育てするには、ちょうど良い環境にも思えるのだが……っと、今そんなことは良いんだ。


 こうした環境に置かれたエリアに、ドラゴンやなんかの大型だったり、高位なモンスターは現れにくいんじゃないか……という推測が成り立つというものだろう。

 もちろん、万が一ということは常に念頭に置かなくてはならないが、石橋を叩いて叩き壊すほどの慎重さは、生憎(あいにく)と持ち合わせていない。


「オレ、ちょっと買い出ししてくるよ」


 まだ身動きが取れないでいる人が多いだろう今のうちに、少しでも備蓄を増やしておくのは良いことに思える。

 下手をすると、この事態に動揺した商店側が臨時に休業するかもしれないし、そうでなくとも、遅かれ早かれ同じような考えに至った人々が大挙して買い物に走るだろうことは、想像に難くない。


「あ、じゃあ子供用の歯ブラシお願い。なんでか忘れちゃったみたいで……」


 のんきな注文をしてくる妻と……


「うーん、危なくないか? オレはまだ動かない方が良いように思えるんだけど……何ならオレが行こうか?」


 顔に似ず、慎重で過保護な兄……


「気を付けてね」


 口数は少ないが何なら最も冷静な母……

 父や義姉も心配そうでは有るが、特に反対というわけでは無いようだ。


「うん、車ちょっと借りるね。兄ちゃんは引き続き、このへんの警戒を頼むよ」


 まだ引き留めたそうな顔をした兄にも役割を振ると、渋々ではあるが頷き返してくれた。

 オレにはダンジョン産のライトインベントリーが有るので、買い出しに行くとなれば人選としては最適だ。

 兄の方が強いのは強いのだが、なればこそ兄にはココを守って貰わなければならない。

 父も腕っぷしは強い方だが、ダンジョンは未経験なのと年齢も年齢なので、外に買い出しに送り出すのは不安が残る。

 女性陣、ちびっこ連中は言わずもがな。


 行くならオレしかない。


 とても長い時間を過ごしたように思えたが、時刻はいまだ11時になったばかりというところ。

 順調に買い出しが済めば、昼飯にはちょうど良い時間だろう。



 オレは実家の玄関を開け、今日三度目の外出に赴く。

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