初夏:変わり目の花たち(藤・つつじ)
藤が咲くともうこんな季節か、と思う。
しかし、この街で暮らしはじめてから毎年感じる違和感…… いやアナタ、どっちかというと5月最初でしょ?
瀬戸内でもかなり温暖な、海の近くであるせいか、藤は4月の末頃に盛りを迎え、5月最初にはもう散ってしまう。
カテゴリー的には晩春にするべきだが、そこで異議を唱えるのが子供の頃の記憶である。
子供の頃に居た街では、近くの公園に見事な藤棚があって、5月が盛りなのだ。
薄紫の雲のような花、今でも記憶に残る甘い香り…… そして、飛び交う熊ん蜂への恐怖。
どれも、今住んでいる街に咲く野生っぽい藤にはないものである。
写生に連れていかれて、花よりもむしろ蜂を一生懸命描いたのを今でも思い出す。
そしてもう1つ、記憶の季節とずれる花がこれ。
こちらも今の街では4月半ば頃から咲き始め、5月始めにはしぼんだ花が目立つようになってくるが、やはり記憶の中の季節では5月最初が盛りである。
このツツジを見る度に思い出すのが、別種のミヤマツツジ。
季節になると母に連れられて、神社の裏山にあるツツジの森へピクニックに行っていた。
正直言えば大して楽しいイベントではなかったが、 「普通のツツジと違う、珍しいツツジなのよ」 と我が事のように自慢する母の口調と、透き通るような赤紫の花は、今でもはっきり思い出せる。
思い出しては、 「だから何だっていうんだろうね?」 と自分ツッコミを入れる。
だから何なのか、答えはまだ、出てこない。




