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晩春:りら(ライラック)
りら。
なぜか、ひらがなで書くのが好きだ。個人的には少女趣味な憧れの極致のような花である。
原点は、立原えりかの童話だった。
―――― いつかフランスに行き、りらの並木の下を歩いてみたいと願う少女がやがて、疲れたオバサンになりトボトボと道を歩く。
その上に咲くのは 『ライラック』 の花。それが 『りら』 だと彼女に教えるものは誰もいない……。
え? これ童話?
そう、立原えりかさんといえば、こんな話ばっかり書いてる方なのだ。
子どもの心に響くのは、優しい話や楽しい話ばかりじゃない。
大人になってみると、多分に教訓を含む地味な話のようにも思えるが、子どもの頃の私は、確かに物語そのものを楽しみ、少女の憧れに共感していたのだ。
あの頃は、想像の中で何度となく、りらの並木を見上げて歩いた。
大人になって住んだこの町で見掛けた時、「たぶんコイツだ!」 と直感できるほど、何度も何度も。
…… けれど、毎年、この花を見ると首をかしげてしまう。
確かに美しいが、本当はもっと美しかったはずなのに、と。




