24.明日への高鳴り
「ん、…っ…」
有無を言わさぬお姉様の舌が歯列を割って、強引に口内へと侵入し、私の舌を絡み取る。お姉様の口内に含まれていた血が少しずつ、私の中へ入ってくる。鉄のような、舌がちりちりと焼けそうな独特な血の味に涙がにじむ。
「…っほら、飲むのよ」
お姉様が顔を離し、私が嚥下するのを促すように頷いて見せる。私は涙目になりながら、思い切ってお姉様のそれをごくり、と飲み込んだ。喉を鳴らす音が響き、お姉様が満足げに目を細める。
「あ…」
(な、なにこれ。すごい…!とろけるような…不思議な味…)
飲み込んだそれが、喉を伝い、乾ききった体を癒すように体中へとしみ渡っていく。
「喉で味わうの。お酒みたいにね」
(お酒っ!?)
思わずびっくりした私に、お姉様が茶目っ気たっぷりにウィンクして見せた。
そして、お姉様が指南するその言葉通り、口に含んだ時のあの違和感は既に消え去り、後に残るのは初めて味わう、痺れるような美味しさだけ。
「どう?私の味は」
「…ええと、その…」
ぽーっとしたまま恍惚の表情を浮かべる私に、馨お姉様がにやりと笑って言う。私はまごまごとしながら、けれど、なるべく思ったままに感想を述べる。
「こんなの、初めてで…でも、嫌いな味じゃない、です」
「そういうときは美味しいって言うのよ」
すかさずお姉様が優しく指摘する。
「お、美味しいです…」
「よくできました」
馨お姉様はにこりと笑って私の頭を撫でた。
「これからも、私が有栖ちゃんの色んな初めての相手になってあげるわ」
「え?それってどういう…」
聞き返した私に馨お姉様は意味深な笑みを浮かべる。
「ふふ。有栖ちゃんのハーフヴァンプとしての学院生活は、始まったばかりなんだから…退屈だなんて言わせないくらい、楽しませてあげるわ。身も心も、私なしでいられなくなるくらいに、ね」
小声で囁かれた内容に、私はよからぬ想像で頭をいっぱいにし、ぼんっと顔を赤くさせた。
「で、ですから、それってどういう意味ですか!」
「ご想像にお任せするわ」
「お、お姉様―っ!」
私の悲痛な叫びを聞きながら、馨お姉様はちっとも動じない様子でにこにこと微笑みを浮かべていた。その姿を見て、私はこれからの前途多難な未来を予想し、何故だか高鳴りだす胸の鼓動を感じていた。
*
あの日、馨お姉様が私の上に落っこちて来たその瞬間から、私の人生は大きく変わってしまった。咲き乱れる花のように美しいクインテットに囲まれ、どういうわけか、その一員となってから、様々なアクシデントを乗り越え、友情と愛情が絡み合った末に辿りついた今、このとき。ただ純粋に幸せだと思えるこの現実の中で、美しいミストレス達に囲まれながら、ハーフヴァンプとしてはまだまだひよっこな私の新しい未来がゆっくりと動き出した。




