会敵
ミネルヴァの声が、静かに響いた。
穣の視界の端に、スクリーンが投影される。ミネルヴァの視界――量子コンピューターの解析映像が映し出されているのだ。
無数の点が密集して蠢いている。まさに、蛇の姿だ。
「これがウロボロスか」
ブレイドも同じ映像を確認している。床にまいたモンスター肉と映像の蛇を、注意深く見比べる。
餌である肉に食いつく一瞬、ウロボロスはこちらの次元に姿を現すはずだ。その隙を狙い、頭部をブレイドが、尾を穣が壁か床に縫い止める。
ミスしたらどうなるか――考えるだけで腹が冷える。
少し離れてこちらの様子を実況しているウグイスの声が、ぼそぼそと聞こえる。
ウロボロスが、接近してくる。穣たちの一〇メートルほど先で、一旦動きを止めた。いつもはここにない肉に警戒したのかもしれない。
だが、すぐにまた動き出した。身をくねらせ、今度は迷うことなく肉の前に移動し、そして――。
穣とブレイドは、同時に飛び出した。
スクリーンと本当の視界両方に、同じ姿が見え始める。
距離は三メートルほど。気配に気づいたか、ウロボロスはとうとうはっきりと具現化した鎌首を、穣たちに向けた。
ダンジョンに設置されたライトと、穣たちで持ち込んだ光源に照らされた、群青色の巨体。目はバスケットボールほどだろうか。ぬらぬらとした鱗に覆われた、穣とブレイドでようやく抱えられるかという太さの身体をずるりと動かし、ウロボロスは大きく頭をもたげた。
「おらあっ!」
その頭に向かって、かぼすが後ろから投擲する。ブレイドの頭上を飛んで命中したそれは、ウロボロスの頭部に当たるとべちょりと弾けた。
『フレイザー社の新商品、べたべた鳥もち(仮名)です! 強力なべっとべとの液体がまとわりついて、ちょっとやそっとじゃ取れません! あと呼吸も困難にします!』
『CMすんな。でもすげー』
『ブレイド、いけー!』
スクリーンに文字でコメントが流れる。オフにしておくのを忘れていた。が、かまわず穣はウロボロスの尾を目指す。
「ジョーさん!」
ミラーが叫んだ。それとほぼ同時に、穣は後ろへ跳躍した。ウロボロスが尾を叩きつけようとしてきたのだ。
「下がって!」
ミラーがマシンガンを構える。狙いは尾の少し内側、腹に近い部分だ。
『ブレイドさん、危ない!』
コメントが飛ぶ。
ブレイドの姿を探すと、頭部を粘着液で覆われたウロボロスが、尾に受ける攻撃にもいらだってかむちゃくちゃに頭を振り回していた。天井や壁に当たり、瓦礫が飛ぶ。
その一つが、ブレイドに向かっていた。穣は思わず叫びそうになったが、シールドが動く方が速かった。
彼女は左手の巨大な盾を振りかざし、瓦礫に向かって思い切り薙いだ。瓦礫が粉々に砕ける。
『これもフレイザー社が今後販売する予定の、最新型の盾です。超軽量なのに丈夫、まさに岩をも砕く!』
「サンキュー、姉さん」
「早く頭を固定してきな」
『さすが剣盾姉弟! 息ぴったり!』
この二人が姉弟というのは、穣は少し前に知ったばかりだった。




