イフリート様との謁見
オンミールさんに連れられて、僕とビビは謁見の間にやってきました。
もうね、お城がめっちゃ凄かったんだよ。精霊さん達のお出迎えは無かったけど、中の広さと高い天井⋯⋯タシックナル様の宮殿と比べて遜色が無い⋯⋯うーん、豪華さで言えばそれ以上かもしれないね。
まずとても大きいんだよ。頑張って覚えないと迷子になりそうだ。
内装は赤や金がとても目立っていて、派手かと思いきや纏まりがある。
センスが良いってこういうのなのかな? もしこれが一般家庭だと、成金のイヤラシイ感じに見えちゃうかもしれない。でも、ここは精霊の王様が住むお城だから、いくら豪華でも気にならないのかな。
そして僕は今跪いているところなんだ。精霊の王様の一人、イフリート様の御前であ〜る。
「面を上げよ」
イフリート様に促されて、僕達は顔を上げた。横目でトラさんが緊張しているのが見えるね。今にも過呼吸で倒れそうだよ。
トラさんの気持ちもわかるよ? とても威圧感があるんだ⋯⋯言葉では上手く言えないけど、圧倒されちゃう感じかな?
イフリート様の体は本当に大きい。立ったら三メートル以上は身長があるのかも。
見た目はちょっと複雑な感じだよ。人間と悪魔と牛と獅子を足したようなイメージかな? 威厳があって豪華な服を着ていて、半端じゃなく強そうに見える。
はちきれそうな胸の筋肉、真っ赤な燃えるような瞳、口から覗く太い牙、鬣のような深紅の髪に、頭には立派な角が二本生えていた。
見れば見る程に怖い顔だなぁ。でも偏見は良くないよね! 底が見えない存在感⋯⋯今まで会った人? よりも、確実にイフリート様の方が強いと思う。多分⋯⋯ベスちゃんや真子ちゃんとはまた違ったタイプなんだと思うんだ。
イフリート様を見ていると、僕は雪山に刺さったマッチ棒のような頼りない気分になるんだよ。どうしてなんだろうか⋯⋯体が寒い。
「精霊界に人間が⋯⋯それも子供が訪れた事は初めてだ。あんまり堅苦しくするつもりは無い。人間の形式なぞ知らんしな⋯⋯アークにビビ、トラ、楽にせよ」
「ありがとうございます。謁見は不慣れですので、お心遣い感謝致します」
タシックナル様の時もそうだったけど、やっぱりこういう雰囲気は緊張しちゃうよ。王様の前なんだもの⋯⋯威圧感も凄いし、変にならないように気をつけよう。頑張るぞー!
イフリート様は、肘掛けに頬杖をつきながら鋭い視線を向けてくる。緊張が高まる中で、その怖い顔の口角を上げた。
「ふむ。礼儀正しいな。はっはっは! 子供とは思えん⋯⋯私は喋り方を気にしたりはせんが、礼儀を欠くやつは好かんでな。そして魔物を城に招いたのも初めてだ。吸血鬼の少女ビビよ、あの蜘蛛が街へ入らないように押しとどめていたのだろう? 礼を言う」
「ありがとうございます」
緊張した⋯⋯イフリート様は声も力強いね。低い声なのに良く通る⋯⋯お腹の底に響いてくるみたいだ。
それにしても、ビビが丁寧に言葉を返すのは珍しいなぁ。
「お前は⋯⋯妖精族と精霊のハーフなのか?」
「は、はいですにゃ! いいイフリート様にあああ会えるにゃにゃにゃんて、感動のいい至りでででですにゃ!」
トラさん噛み過ぎ。それを見たら面白くて、緊張が少し溶けてきたよ。
「そうか⋯⋯肩身が狭い時もあるだろう⋯⋯」
良く聞こえなかったけど、イフリート様が小さく呟いた。軽く目を伏せて、何かを考えているような感じになった。
さっきのイフリート様のお言葉に甘えて、僕とビビは立ち上がる。トラさんは逆に土下座のような姿勢になっちゃってるよ。
精霊さんの王様が目の前にいるんだから、それも仕方ないのかもしれないね。
きっと僕やビビなんかよりも、イフリート様の力を感じ取っているのかも。
「ふむ。今回の働き、本当に世話になったな。初動が遅れていたところへ、助勢してくれたのは有難かった。あの蜘蛛は我々の存在そのものを吸収する。力の弱い精霊には、言わば天敵のようなものだっただろう。それでな⋯⋯これからノームの国へ助勢しに行くのだが、もう少し力を貸してはくれないか?」
手助けが出来て良かったと思う。イフリート様のお願いではあるけれど、ノームって僕でも聞いた事があるくらい有名な土の精霊さんだよ?
ノーム様の国って、やっぱり土の国なのかな? ⋯⋯でも確かトラさんは水の国に戻るんだって言ってたんだよね⋯⋯
「どうしよう⋯⋯トラさん。」
「ああああの! いいイフリート様! 水の国、アルクリウスは大丈夫なのでしょうかにゃ? ウンディーネ様や国の皆は⋯⋯」
「安心せい⋯⋯とは言えん状況にある。シルフとウンディーネはまだましだが、ノームの国だけは至急助けに行かねばまずい。あいつの国は地下都市のうえに、実体をもった精霊が多いのだ」
「お、お答えいただき、ありがとうございますにゃ!」
今の話からすると、精霊界も色々な場所が襲われているんだね。トラさんの手助けを優先したい気持ちはある。
でも、イフリート様が言ったように、まずはノーム様の国を手助けする方が良いんだろうな。
でもどうしよう⋯⋯トラさんは水の国アルクリウス? そこへ行きたいんだよね。もしも助けが間に合わなかったら、僕はトラさんを裏切った事になるのかな?
それは駄目だよ⋯⋯トラさんが今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。でもイフリート様に言えなくて、我慢しているのかな?
判断が難しい⋯⋯この前のベスちゃんの気持ちに似ているかもしれない。ベスちゃんは多くの人を助けるために、知人の捜索を後回しにしたんだ。
僕はどうしたらいいでしょうか? ビビをここに残して、僕だけで水の国アルクリウスに向かうべきなのかな? それとも、とりあえずノーム様を助けに行く方が良い?
「トラよ。まずノームの所へは行くが、アルクリウスを捨てると言っている訳じゃないぞ? その後直ぐにシルフの国へ向かう。話し合いの結果、シルフの国もアルクリウスに向かうそうだ。そんなに無駄な時間はかからないだろう。最後にアルクリウスになってしまうが、ウンディーネが結界を街全体へ展開したようだ。十日は猶予があると言っていた。だから心配し過ぎる必要は無い」
「ッ!!! あ、ありがとうございますにゃ!」
トラさんが少しホッとした顔になる。
猶予が十日あるんだね。移動の時間は知らないけど、イフリート様には自信がありそうだ。
「トラさんはそれでも良い?」
「オイラだって皆が大変なのはわかったにゃ。だから、オイラにも出来る仕事がにゃいか探すにゃ!」
トラさんは決心を固めたみたい。前を向くトラさんの瞳が、とても眩しく見えたんだ。そういう事なら僕も頑張るよ! 僕はビビと小さく頷いた。
「わかりました。僕達も出来る限りお手伝いします」
「そうか。そう言ってもらえると助かる⋯⋯時にアークよ。お前は何故自然の“気”が体の中に流れている?」
「え?」
自然の“気”?
僕は自分の内側に意識を集中させた。でも何の事かわからない⋯⋯気力の“気”とは別物なのかな? 気力や魔力は感じとれるんだけど、自然の“気”なんて感知出来ないよ。
でも原因はあれしかないよね? 多分さっき“精霊体転化”を使用して、月光の力を体の中に取り込んだせいだと思う。
「確かな事はわからないのです。僕には精霊体転化というスキルがあるのですが、まだ扱いきれていないので⋯⋯自然の気とは、多分その時に取り込んだ何かなのだと思いますが」
「精霊体転化だと? 私は長い間生きてきたが、そんなスキルは聞いた事がないな。不思議な少年だ⋯⋯見せてくれるか?」
んー⋯⋯外の戦闘が大丈夫なら見せても問題ないよね? アドバイスとかもらえるかも!
「わかりました! ふー⋯⋯“精霊体転化”!」
切り替わる時には鋭い閃光が放たれる。その眩しさは一瞬で落ち着いたけど、体が薄ぼんやりとした光を纏っていた。
これはもしかしたら、月光が体の中に残っているのかな? イフリート様は僕の体を暫く観察すると、唐突に口角を上げる。
「はっはっは! 確かに精霊の体だな! 良く出来ているぞ! だが不安定だ。そんな状態では、取り込んだ自然の気のせいで魔力が流れ出してしまうだろう?」
「そうなんです! だからまだイマイチ使い方がわからなくて」
精霊体になれるスキルだけど、魔力が無くなってしまったら意味が無い。だからどうやって使えば良いのか悩んでいたんだ。
この姿になれば、多分人間の体より強力な力に耐えられると思う。でも魔力が流れ出てしまえば、魔気融合身体強化を使えば直ぐに動けなくなるだろう。
「ノームの住むグラトニアまでは移動に二、三日かかるだろう。今日は早めに休め。明日訓練をつけてやる」
「⋯⋯え?」
イフリート様が? 直々に訓練を!?
「礼は何かせにゃならんと思っていた。だが、金など渡しても意味はあるまい? このイフリートが、アークの契約精霊になってやる」
「え、えええ!?」
「私なら不満はなかろう。面白くなってきたな⋯⋯いったいどんな可能性を秘めているのやら⋯⋯はっはっはっは! 訓練は明日だ。今日から城に泊まると良い」
何だか話がどんどん進んでいくよ? しかもイフリート様と契約ですか!?
どうしてこんな事になったんだっけ⋯⋯? 精霊さんの王様と、本当に契約なんてしちゃっても良いのかな?
人間の状態に戻ると、僕達は謁見の間から外へ出た。
色々大変な事になってきたよ?




