ちょろくないです。ギルドでの打ち合わせ。
※少し改稿
いきなりの事にバタバタしちゃったけど、ポーラさんは一応謝ってくれました。気を取り直して、僕はソファーに座ります。
「ビビ、僕は怒ってないよ?」
「⋯⋯」
ビビは僕にちゅーをした事を気にして、申し訳無さそうにしています。ついでに顔を真っ赤に染めています。
大人は何でちゅーしたがるのかな? 僕にはわからないよ。でもビビがしたがるのなら⋯⋯良いのかな? んー⋯⋯
たまに母様が頬っぺにしてくれるのは嬉しいんだけど、ベスちゃんは目が怖いからなぁ⋯⋯でもミラさんにされるのは嫌だとは思わないな。
そうか、僕はちゅーされるのは嫌いじゃないのかも? でもそういうのは好きな人とするものなんだって聞いたから、無闇にしちゃいけないんだよ。
ビビは僕のことが好きなのだろうか? ビビは普段から本心を語ろうとしないからね。ちゃんと聞き出すのは難しいだろうなぁ。
それは置いておくとして、
「さっきは痛かったですよ? 怒りましたからね!」
とりあえず落ち着いたので、さっきいきなり噛んだ事を抗議した。首を絞めて服裂いて噛み付いて血を吸ってちゅーして舌入れてきたんだもの⋯⋯怒っても良い筈だよね?
「はは。すまないね。ケーキでも──」
「許します! 仕方ありませんね! じゃんじゃん持って来て下さい!」
そういうことならしょうがないね! 僕も大人だ。仕方ないからケーキで許してあげる。仕方ないから!
ポーラさんにベルで呼ばれ、受け付け嬢さんがケーキを運んで来た。さっき僕をここまで運んでくれたお姉さんだね。
え?
一口で食べれそうなケーキが十六種類も乗ってる!? なんて幸せなお皿なんだろう⋯⋯僕もそのお皿に乗っても良いかなぁ?
「わー。美味しそー」
「ちょろいな⋯⋯」
夢の中にいるみたいだよ。今ポーラさん何か言わなかった? 気の所為かな? このケーキは一個がとても小さいけど、ビビと全部半分こにして食べよ。
スライスしたイチゴが花開くように飾ってあるショートケーキ。ブルーベリーが綺麗に敷き詰めてあるタルト。小さなカップに入ったクレームブリュレ。クルミの乗った小さなチョコレートケーキ。マカロンもあるよ!
うむむむぅ⋯⋯どれから食べようかな。
「そこの吸血鬼がどんな奴か知りたかったんだよ。銀閃が魅了されているのなら、どうにかしなきゃいけなかったしね。でも魅了されているのは吸血鬼の方だったらしい」
「う、五月蝿い!」
ポーラさんに挑発されて、大人しくなっていたビビが立ち上がった。今度は飛びかかったりしなかったけど、顔の赤さがピークに達している。
もう⋯⋯どうしたの? ケーキの前でなら戦争だって止まる筈なのに⋯⋯僕はビビを魅了なんてしてないよ。
「えと、そもそも僕は魅了なんてスキル使えませんよ???」
「くふふ⋯⋯そういう事じゃあないんだ。なあ? ヤキモチ妬き」
「くぅ⋯⋯」
ビビが僕にヤキモチを妬いたの? 話には聞いたことがあるけど、僕は誰かにヤキモチを妬いたことが無いからなぁ。気持ちをわかってあげられないかも⋯⋯
ビビの手を引いて座らせた。さっきから話が進まないし、ビビだってケーキ食べたいと思っている筈だもの。
嫉妬ってどんな感情なのかな? 僕にもいつかわかるのだろうか?
「ケーキおかわうぃ⋯⋯もぐもぐ⋯⋯」
「⋯⋯後で好きなだけあげるわよ。まずは仕事の話からしましょうか」
「お願い致します」
ようやく話が出来そうだね。ポーラさんは結構強いと思うんだ。この人がいても解決出来てない問題ってなんだろう? ちょっと心配になってきたね。
「アルフラはイグラムのように物量で攻められたわけじゃないの。街の周りが湖に囲まれているから、今回魔物を手引きした奴も悩んだんでしょうね⋯⋯実に厄介なのを押し付けられたわ」
「もぐもぐ? もっも⋯⋯もぐもぐ⋯⋯」
「⋯⋯敵は最低でもBランクの“ヘイズスパイダー”の子供よ。小さい子供はゴブリンよりも弱いけど、親蜘蛛はB〜Aランクの上位だって本に書いてあったの。攻撃する瞬間まで実体が無いのよ⋯⋯目にも見えないし気配も感じない⋯⋯」
え? なにそれ? 幽霊みたいな魔物なの? こっわ⋯⋯
「そんなのどうやって倒すんですか?」
「それがね〜⋯⋯今考えてるとこなのよ。小さな子蜘蛛の大きさは人の頭くらいで強くはないの。だから一般人にも討伐可能だったりするわ。攻撃する瞬間だけ姿を現すんだけど、その時にしか倒せなくてね⋯⋯親蜘蛛が見つかれば良いんだけど、協力頼める?」
僕は気配拡大感知を最大限に広げてみる。確かに街には魔物らしき反応は無い。僕に何が出来るのだろうか⋯⋯
「ふん。リャナンシーには荷が重いよな? 見た目だけが取り柄の種族だもんな」
「あら? 吸血鬼の鳴き声って“血〜吸〜たろか”じゃなかったの? 変わったのもいるのねぇ」
ん? 何か険悪な雰囲気が⋯⋯ビビまだ怒ってるし。
話が進まなくなっても困る⋯⋯僕は溜め息を吐きながら、ビビをこちらへ向かせて抱き寄せた。呆けた顔になっていたけれど、膝の上に寝かせて頭を撫でつける。
「ちょ、アーク⋯⋯」
それでも文句を言いたそうな顔をしているね⋯⋯ビビがここまで怒る事は本当に珍しいよ。僕は更に首や頬、耳や背中を撫でて弄くると、ビビもやっと大人しくなった。よしよしよしよーし⋯⋯僕はビビマスターなんだ。
さて、話を戻しましょう。
「今現在ヘイズスパイダーに行っている対策はどんな感じでしょう?」
「うん⋯⋯まず、住民には交代で寝てもらうことにしているの。夜にしか動かないから、寝る時間をずらしたりする人もいるわね。一人暮らしの人とは相談して、希望にそった対応をさせてもらっているわ」
「なるほどです」
だからあの貴族の人は、毎晩魔物が襲ってくるだなんて言っていたんだね。
うん⋯⋯夜にしか現れない魔物なら、寝る時間をずらすのは被害を減らすのに効果的かもしれないね。ただストレスは溜まりそう⋯⋯だからと言っても他に良い対策も思いつかない⋯⋯住民が出来る対応はそれしかないだろうね。集団で集まれればもっと安全かもしれないけど、いきなり知らない人と仕切りの無い場所で生活するのには無理がありそうだし。うぅ⋯⋯ケーキを食べたから頭が回る〜!
良い案は浮かびませんでした。僕達冒険者は何をしたら良いのかな?
「冒険者は今のところ、街の巡回を兵士と一緒になってやっている。それと一組のBランクパーティーが、ヘイズスパイダーの親蜘蛛を探しているの」
「Bランクのパーティーなんて凄いですね。ドラグスのBランク冒険者は二人共ソロなので、パーティーで行動するBランク冒険者さんは見た事無いんですよ。僕はビビと一緒ですけど」
「普通はパーティーでBランク冒険者になるのよ? 経験を積んで独立する人もいるけど、ソロでBランクになる方がおかしいんだからね?」
んー。そういうものなのかな? でも僕が目指すのは一番の冒険者だから、そんな普通はいらないよね。
父様や母様は本当に規格外だもの⋯⋯息をするように世界を救って来たんだから。
父様が邪神の群れを宇宙に吹き飛ばした話は凄かったなぁ。実は太陽は母様が毎年作り替えてるんだよ? あれは母様の秘密の獄炎魔法らしいんだ⋯⋯“フレアプラネット”って聞いたけど、恩恵の手引書には記されていない。
「僕は何をしたら良いですか?」
「銀閃は何かあった時のために街に残したいわ。夜間警戒をお願いして良い?」
「畏まりました。Bランク冒険者さんのパーティーは何をしてるんです?」
「確か⋯⋯半分のメンバーが街の中の水路調査をしているわ。で、もう半分のリーダー含むメンバーが、街の外を探索してる。今は結果報告待ち」
そうなんだ。そういうことなら僕は街の安全パトロールをしようかな。
もう冒険者ギルドは、魔物が操られていると結論を出しているみたいだね⋯⋯誰がどんな目的でそんな事をしたのかとても気になる。でもどんな理由だろうと、それはやっちゃいけないと思うんだ。
身近な人が一人死んでしまえば、残された人のそれからは大きく変わってしまう。僕は皆に笑っていてもらいたいんだ。
「畏まりました。街の巡回、精一杯務めさせていただきます」
「アルフラへ来た日にごめんよ銀閃。疲れてるかもしれないけど、宜しく頼むな」
「大丈夫です。朝までなら平気ですから」
話し合いも終わったので立ち上がろうとしたら、ビビが目をトロンとさせた顔でふにゃふにゃになっていた。
ちょっと撫で過ぎたかな? 今日は知らないビビが沢山見れる日なんだね。猫のクレアも撫で過ぎるとそんな感じになるんだよ。
「ビビ大丈夫? そろそろ行くよ」
「う、うん」
立ち上がってポーラさんに会釈をする。夜の巡回頑張らなくちゃ!
「銀閃のアーク」
「はい?」
執務室を出ようとしたら、ポーラさんに呼ばれて振り返る。
「さっきのが演技じゃなくて本気だったらどうしてたんだ?」
さっきのとは⋯⋯僕に噛み付いた時の事かな? どうしてたんだと聞かれても⋯⋯
僕は右手の人差し指を天井へ向けると、指先だけに魔気融合身体強化を施した。
バチバチと紫電が唸りを上げて迸り、操った紫電が龍のようなプラズマを形成していく。
体をビクッと竦めたポーラさんを見ながら、その龍を部屋の中に泳がせる。
「本気でも問題ありません。何時でも倒せましたから」
笑いかけながら優しく言ったつもりなんだけど、ポーラさんがゴクリと生唾を飲み込んだ。そして少し顔色を青くすると、手と顔を小刻みに横に振る。
「やだなぁ。冗談に決まってるでしょ」
「大丈夫ですよ。わかってますから」
今後こそポーラさんの執務室を出た。これから寝ずの仕事になるんだ⋯⋯眠くなったら大変だなぁ。
「ざまあ見ろだ。最後のあいつの焦った顔は笑えたぞ」
「ビビ。そんな事言わないの。何でまだ怒ってるの?」
「アイツは私のアークを噛んだんだぞ? 許せるものか!」
「吸血鬼的なやつ?」
「そうだ。それに⋯⋯」
「それに?」
「⋯⋯」
さっきまで軽かったビビの口が、急に動かなくなってしまう。肌が雪のように白いから、赤くなると直ぐわかるんだよね。
左手が乱暴に掴まれて、また誓の指輪を弄り始めた。ビビには悪いけど、その変な行動が面白いと思ったよ。
「⋯⋯」
ギルドから外へ出ると、変な違和感に包まれる。上手く言えないけど、空気が重くなったような⋯⋯濁ったような感じだろうか?
これは何? 何かわかりそうなんだけど。
「ビビ、何か感じる?」
「いや? どうかした?」
気の所為かな? 今あんな話を聞いたばかりだから、もしかしたら変に意識しているだけかもしれない。幽霊とか嫌だからね!
でもなんだろう? この粘つくような感じは⋯⋯
「⋯⋯んー、良くわからないや。ビビにも感じないんじゃ気の所為かも」
「そうか。気になることがあれば言えよ。アークが感じた違和感はバカに出来ない」
気温が変わったわけでも匂いが変わったわけでもない。今は気にとめるくらいで良いかもね。街の巡回頑張りましょう。




