勇者のいる国
*サブタイトル変更
ビビは僕の横に来ると、クルリと一回転した。そう言えば猫耳メイド喫茶で練習したなと思ったけど、ビビに普通のメイド作法を教えた方が良いかもしれないね。ちょっと考えておこうかな。
「私はビビ。ご主人様のメイドだ。にゃん」
スカートの裾を摘み、優雅なカーテシーをするビビ。色々混ざってると思うけど、男性冒険者さん達の顔が赤くなっていた。
お婆さんは小さく頷くと、ビビの頭を撫でている。
なんだか珍しい感じがする。ドラグスにいた時は、ビビは自分の存在感を消していたよね。でも今は表に出て行動をしているんだ。それがちょっと嬉しく感じる。
ビビの中で何かが変わったのかな? 僕に出来る事なら応援するよ。
「僕はアークです。Bラン⋯⋯」
んっ⋯⋯待って⋯⋯Bランク冒険者と名乗ったとして、この世界で僕のカードは有効なのかな? ちょっと危なそうだから、そこら辺は伏せておく事にしよう。
「ビビと二人で旅をしています」
「おんやまぁ。こんなに小さいのに旅だなんて⋯⋯辛い思いとか沢山したろうな⋯⋯」
お婆さんの目が潤んじゃった。僕達の苦労を想像しちゃったんだね。って、他の冒険者さん達も目が潤んでるよ?
優しい人達に会えたみたいで、なんだかちょっと嬉しいな。
騙してる訳じゃないけど、でもちょっと悪い事しちゃった気分になるや⋯⋯ごめんなさい。
「メイドを連れての旅⋯⋯アークは貴族だったりするのかい?」
「いえ、平民です」
どうしよう⋯⋯あんまり突っ込んだ話をされると、沢山嘘言わなきゃいけなくなっちゃう⋯⋯そういうのは嫌だなぁ。でも何て言ったら良いのかな?
「ちょっと⋯⋯色々ありまして」
「わかる。わかるよぉ⋯⋯無理して喋る必要は無いさね。向かう場所が同じなら、そこまで一緒に行かないかい?」
「はい! よろしくお願い致します!」
「致します。にゃん」
僕とビビが頭を下げると、お婆さんは笑顔を向けてくれた。
「俺らの対応とまるで違くね?」
「黙ってろ、とばっちり受けたくねーっての」
「聞こえてるよあんた達」
「「すいませんでした!」」
お婆さんに睨まれて、冒険者の二人が頭を下げる。
僕達を見る時は優しげなのに、冒険者さん達を見る時は眼力が凄い⋯⋯でも面白い人達だね。きっと仲も良いんだろうな。
「お嬢さん。俺と一緒にチキンサンドでも食べないかい?」
「おい気をつけろよ。デールはロリコンなんだ」
「⋯⋯チキンに罪は無い。それだけもらう。にゃん」
デールと呼ばれた人は、短剣を装備した冒険者さんだ。リーダーっぽい人は大太刀を装備している。
「俺はペッパー。痺れる名前だろ?」
「レイジだ。器用貧乏な魔法使いをしているよ」
「おりゃデール。それと、ロリコンじゃないからな! 尊い美少女を愛でているだけだ! ゴノドン!」
「⋯⋯違いがわからんわ! ゴノドンだ。パーティーリーダーをしている。よろしくな。アーク、ビビ」
「こら! お前達! 依頼主の自己紹介が先だろう! わたしゃミズリだ。こいつらの事は忘れてくれて構わんよ」
あはは。何だか凄いね。ちょっと圧倒されちゃった。楽しそうな人達で良かったと思う。
「チキンサンドに罪は無い。早くよこせ。にゃん」
「ビビ、ハウス」
「⋯⋯」
僕達は馬車へ戻った。横倒しになっていたけど荷と馬車は何とか動かせそう。
ロリコンじゃないデールさんが指笛を鳴らしたら、馬が戻って来てくれたよ。スケルトンが出た時に、殺されないように逃がしたんだって。馬車は倒されちゃったらしいけどね。
僕達は全員で馬車に乗り込むと、ゴノドンさんが御者をするそうだ。軽く鞭を振るうと、馬は重そうにしながらも何とか歩き出した。
ミズリさんは行商人で、今はデナートロスへ魔石を運んでいるところだったんだって。
これから大きな戦があるらしく、魔石が高値で売れるんだとか。
「アーク、ビビ。どうしてこの時期にデナートロスへ行くんだい? 旅ならもっと治安の良い場所へ向かったら良いさね」
「ちょっと頼まれまして」
「そりゃまた気の毒になぁ」
デナートロスが危うい状況だから、黒狐様が行かせたがってるんじゃないかな?
「そんなにデナートロスは危うい状況なんですか?」
「あくまで噂だけどね、勇者様が呼ばれたらしいさね。そこまでしたって事は、戦いが迫ってると考えて当然じゃないかい?」
勇者様が? それはまた凄い話になってきたね。
「その話は後にしようかね。街で昼食にでもしようじゃないか」
「⋯⋯そうですね」
僕はぎこちなく笑った。
そうだよ。お金だよ! 僕が持ってるのはヴィシュラリア王国のお金になる。どうなってるのかわからない世界で、この貨幣が普通に使えるかどうかわからない。
どうしよう⋯⋯流石に無一文は怪しまれる。
そんな時、街の中から懐かしい気配を感じた。これは間違い間違えようもない⋯⋯
「真子ちゃん⋯⋯?」
(*-人-)




