雲海ズベーラと雑巾おじいちゃん
ちょっと小走りからジャンプして、長い下り階段の手摺りに飛び乗りました。
「それ〜。あははは」
この道がどこに続いているのかわからないけど、こんなの見たら我慢出来ません。だから僕は悪くないと思うんだ。
本当に本当に長い下り坂。どこまで下りていくのかわからなかったけど、手摺りが長く続いているんだよ。
いくつかのカーブを抜けた先で、手摺りが切れて終点になっていた。
「ほっ」
綺麗に着地すると、僕は直ぐに振り返る。
「わ、アーク」
「おいでビビ」
ビビも僕の真似をして手摺りを滑ってきてたんだ。両手を広げて構えると、ビビも両手を広げて飛び込んで来る。
「えへへ。つっかまーえた」
「⋯⋯アークは私の事好き過ぎじゃないか?」
「うん。大好きー」
僕を軸に体をクルクル回しながら、ビビとその場で何回転かする。
耳元で、ビビが小さくバカと呟いた。
バカって言った方がバカなんだって聞いたんだけど?
「聞いた私を恥ずかしくさせるな⋯⋯」
つまりはそういう事らしいです。
階段を下りた先にはアーチトンネルがあり、そこから強い風が吹き抜けてくる。
「ふわわ」
「なんだ?」
飛ばされないように支え合い、風が吹き抜けて来た方向を見た。
黒く長いトンネルがあり、その先には光が見えているみたい。
「何だろうね?」
「さあな⋯⋯どんな場所へ繋がっているのか⋯⋯行ってみるか?」
トンネルの中はレンガ造りになっていたよ。歩くと足音が反響して、とても二人の足音とは思えないくらいに増幅される。
響く音を楽しく思いながら、僕とビビは光の先へと歩いて行ったんだ。
くぐり抜けた先で見たものは⋯⋯
「凄い! 外に繋がってたんだ!」
「そうらしいな⋯⋯外の景色が一望出来る」
転落防止の柵があり、走り寄って手をかけた。流れる雲が薄ピンク色で、何だかモコモコして美味しそうだよ?
「木の棒刺したら食べられないかな?」
「ふっ、雲に棒が刺さる訳ないだろう?」
「えい!」
ぼふんと手を突っ込んで引き抜いてみた。モコモコのふわふわだ。
「は⋯⋯? え?」
「どうしたの? ビビ」
僕のちぎった雲を見て、ビビが目をまんまるにしていた。
美味しそうな雲ゲットしちゃった! どんな味がするんだろう。
パクっと一口食べてみると、口の中で甘く溶けだしてくる。
美味しい! 信じられないくらいのふわふわスポンジケーキみたい!
「美味しいよビビ! 雲ってこんなに美味しかったんだ!」
「食べて平気なのか?」
「うん! はいビビもあーんして」
ビビの口にも入れてあげると、その美味しさに感動しているのがわかった。
やっぱりこれ美味しいよね? 超びっくりデリシャスビクトリー!
「これは凄いな⋯⋯こんなのは食べた事が無い⋯⋯」
「いっぱい集めよう。ミラさんやシェリーさんが喜びそう!」
「食べたらびっくりするだろうな」
やっぱり冒険は楽しいよね。こんなに素敵な雲があるなんて知らなかったもの。
これでもかってくらいに収納したよ。摘み食いしながら頑張った。
何かが雲の下から上がって来る。いったい何事かと思っていたら、それは綺麗な魚群でした。
「ふわぁ〜⋯⋯凄い魚」
「凄い数だ。あれも食えるのだろうか?」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ」
トンネルの方から、ふわふわとおじいちゃん精霊さんが近づいて来た。いきなりで少し驚いたね。
「噂のアーク様だわな」
「おはようございます」
「あれは雲海ズベーラの群れじゃ。物凄く美味いんじゃよ? 食事が趣味でしかない我々精霊でも、食べたくなるくらいに美味いんじゃ」
「そんなに!?」
それは⋯⋯是非とも捕まえたい!
「だがのう⋯⋯あんなに沢山いるんじゃが、逃げ足が超速くて捕まらんだわなぁ」
そうなんだ。超美味しい逃げちゃう魚⋯⋯興味があるね。
「どうにか捕まえて、アーク様に食べさせたいだわなぁ」
体を捻り、絞った雑巾のようになったおじいちゃん精霊さん。
その感情表現が面白かったから、ちょびっと笑っちゃった。
ビビは話を聞いた瞬間から、血晶魔法の準備を始めているみたい。
「そんなに美味しいんですね! それなら僕が捕まえて来ます!」
「捕まるかのう? 捕まったら嬉しいだわな」
「頑張ってみますね」
ビビが2ミリくらいの小さな玉を沢山作り出していた。それを見た僕は、ビビが何をしたいのかを理解出来たんだ。
「考えたね。ビビ」
「上手くいくと良いがな⋯⋯」
僕もこうしちゃいられないよ。
イメージするのはあれにしよう⋯⋯Sスタンダードに変わると、髪の毛がふわりと銀髪になる。
そして何故か精霊さんが更に捻れ始めた。大丈夫かなぁ⋯⋯?
ビビが放った血晶魔法弾が、魚群の鼻っ柱で小さな爆発を起こす。それにびっくりした先頭のズベーラが、方向を変えて先導し始めた。
思った通りだね。
「アーク、まだか?」
「もう少し⋯⋯」
僕はビビに自分が何をするのかを言っていない。それでも分かり合えてしまうんだね。
「むむむ⋯⋯“オーロラカーテン”」
空中に、巨大な光の筒を作った。イメージしたのは長いトンネル。ここへ来た時に通ったトンネルみたいにしたんだ。
ビビが魚群を操って、そこに頭を突っ込ませた。
「今だアーク」
「うん⋯⋯はぁあ!」
通り抜けるつもりだったのだろうけれど、僕はトンネルの先に蓋をする。それにびっくりしたズベーラ達が、目を疑うような速度で引き返し始める。
「残念でした」
勿論入り口も塞いじゃったからね。それを見ていた精霊さんが、これ以上無いくらいに捻れている⋯⋯
「だ、大丈夫ですか?」
「びっくりしただわな⋯⋯もっと捻れたいだわな!」
「あはは⋯⋯程々にね?」
捕まえた魚の数が凄すぎる。トンネルを二つに分けて、半分逃がしてあげる事にした。
蓋を開いた瞬間、ズベーラは目に見えない程の速度で逃げて行く。
あれは確かに捕まえられないかも⋯⋯魔法で広範囲に罠を仕掛けないと、あの速度で逃げられたら大変だもんね。
僕とビビは観光を満喫出来ている。朝から楽しい事がいっぱいだよ。
飛んでオーロラカーテンの上に立ち、体を中にすり抜けさせた。
後は“タイムロック”して収納するだけだね。直接触れなきゃ使えないけど、追いかける必要も無い。
オーロラカーテンを縮小させて、どんどん逃げ道を狭めていく。
虹のように綺麗な鱗だなぁ。近くで見るとかなり大きい⋯⋯小さいのでも五十センチはありそうだな〜。
収納は一瞬で終わった。飛んでビビ達の元へ戻ると、捻れるおじいちゃんを心配そうに見ているビビがいる。
「ただいま」
「おかえりアーク」
「いや〜⋯⋯凄かっただわな⋯⋯凄くて凄くてちょっと苦しいだわな⋯⋯」
「「捻れてるから苦しいんだと思う」」
収納からズベーラを二匹取り出して、タイムロックを解くと同時にブリザードで凍らせた。
「これ食べておじいちゃん」
「嬉しいだわな嬉しいだわな。ありがとうアーク様」
「どうやって食べるのが美味しいの?」
「焼くのが一番良いだわな」
なら単純に塩焼きにしようかな。ビビとトラさんと、お昼に食べてみようと思う。
「ありがとうおじいちゃん」
「自分は何もしてないだわな」
最後に握手をしてトンネルへ引き返す。
「精霊界って面白いね」
「空を飛ぶ魚群は向こうには無いな。食べるのも楽しみだ⋯⋯だけど⋯⋯」
「だけど?」
「アークが魚臭くなってしまったな」
ビビが僕のおでこに張り付いていた鱗を剥がした。
トンネルを抜けた先で、それを太陽に透かしてみたらすっごく綺麗だったんだよ。
もっと⋯⋯もっと捻れたいのだわな(っ´ω`c)




