撤退ですか?
焦げ臭い匂い、灰だらけになった地面を見れば、ここで何があったのか想像は出来る。
熱で溶けてガラス化した地面と、干上がった池がその壮絶な火力を物語っていた。
きっと炎を司る大精霊さんが、加減無しに暴れたんだろうね。多分ヴォイドさんがやったんだと思うけど、こんな大規模な攻撃はイフリン以外に見た事が無いよ。
僕はイフリンとの訓練で、もっとえげつないものを見てきたからね⋯⋯
あの訓練の日々は大変だったなぁ⋯⋯でも、そのお陰で、
「はあ!」
──ゴァァアアア!
ドラシーが激しい青い炎に包まれた。これくらいの炎なら、意識しただけで操れるようになったんだ。
「Sスタンダードレベル2」
髪の毛が銀色に変わり、紫電が僕と背中のビビを包む。
「雪月虎、足止めして」
「畏まりました。アーク様」
雪月虎、今考えた愛称のせっちゃんが、前足を地面に振り下ろした。何をしたのかと思ったら、ヘイズスパイダーの動きが明らかにおかしい。
「足を凍らせました」
「え? 今の一瞬で?」
せっちゃんがコクリと頷いた。
「凄いなぁ」
精霊さんって、下級で力が小さな個体でも、Cランク冒険者には負けないと思う。
中級精霊になれば、B〜Aランク冒険者以上の働きが出来るだろうね。間違いなく⋯⋯
大精霊さんになれば、Sランク冒険者を遥かに凌ぐ力を持っていると思うんだ。ただ戦闘経験が無いだけで、鍛えればすっごく強くなりそうだよ。
その大精霊さんの中でも強い個体は、もう人間では太刀打ち出来ないと思うんだよね。ヴォイドさんがドラグスを攻撃すれば、父様と母様しか残らないと思う⋯⋯
ドラシーに銀の奔流を纏わせると、青い炎を巻き込んで紫電を迸らせた。
そろそろこの技にも名前をつけよう。
「今じゃないけどね! はっ!」
少し助走をつけてから、踏み込んだ足を軸に横薙ぎの一閃を放つ。固まったヘイズスパイダーの群れに、銀色の刃が通り抜けていった。
輪切りになったヘイズスパイダー達が、瞬く間に燃えて塵になる。
「お見事です。アーク様には敵いませんね」
「え? せっちゃんのお陰だよ」
足止めしてくれたからね。当たらなきゃ意味が無いもの。
「“ホーミングレーザー”! “ウィンドプレス”! “サンドクラッシュ”! “ファイアボール”! “ブリザード”!」
ホーミングレーザーで足を潰し、ウィンドプレスで頭を潰す。地面から生えた砂の巨人の腕が、ヘイズスパイダーを捕まえて握り潰した。威力を高めたファイアボールが、ヘイズスパイダーの群れを吹き飛ばす。
全ての魔法がアップグレードされていて、中級魔法なのに凄い威力になっていた。ファイアボールは初級魔法だしね。
ブリザードの威力も凄い事になっているよ。流石に雪月虎には勝てないけど。
「殺ってやるのです! 私、蜘蛛以外には負けた事が無いのですよー!!」
「待ってマリー! お願いだからちょっと待ってよー!」
僕の目の前を、マリーとボーネイトが走り抜けて行った。
あの二人は何をしているんだろう⋯⋯と、とりあえず、ボーネイト頑張ってね! 何でかわからないけど、マリーにはボーネイトだと思うんだ。
背中のビビが身動ぎする。ちょっと激しく動いちゃったからなぁ⋯⋯
*
三人称視点
ノームとヴァンパイアロードのレバンテスは、現在地中で激しい戦闘を繰り広げていた。
レバンテスにはノームを傷つける手段が無く、ただ一方的にやられているだけだが⋯⋯
「しつこいぞ爺!」
「お前に言われたくないわい」
地中はノームのテリトリー。ノームもレバンテスに決定打を浴びせる手段が無かったが、地中のマグマを利用する事を思いついた。
ノームはレバンテスに超重力をかけて、マグマの海へと沈めていく。
「おらあ!」
「ふんっ!」
レバンテスが血晶魔法で赤黒い槍を投げる。ノームには避ける必要も無く、つまらなそうに手で弾き飛ばした。
いくら再生を繰り返すレバンテスでも、ずっとマグマに浸かっている訳にはいかない。足掻くように槍を投げ、何とか超重力から脱出を果たす。
『レバンテス。一旦戻って〜』
気の抜けたようなユシオンの声が、レバンテスの耳に届く。
『目標達成か?』
『そうじゃないんだけどねぇ〜』
煮え切らないユシオンの言い方に、疑問符を浮かべるレバンテス。
「なんじゃい。内緒話か?」
「どうだろうな」
ノームにはユシオンの声は聞こえていない。しかし、魔術の気配がノームには掴めたらしい。
通信魔術の小さな波動にすら反応したノームに、レバンテスは冷や汗が止まらなかった。魔術の気配だけならまだわかるが、どんな魔術かまで判別するのは化け物の領域だ。
『俺がノームを止めている間に、アルフレッドがマウンティスを落とすんだろ? そうすりゃ目標達成になるって言ってたじゃねえか』
『そのねぇ〜。アルフレッドの反応が無くなっちゃってるんだよねぇ〜』
『は?』
ユシオンの言葉の意味がわからず、動揺したところをノームに戦斧で切り裂かれる。
「ぐぇ⋯⋯痛え⋯⋯」
胴体と下半身が泣き別れになり、レバンテスは直ぐに霧化した。
『それじゃ俺の足止めって意味無くね? アルフレッドがやられるなんて、イフリートでも出て来たってのか?』
『わからないんだよねぇ〜。ずっと計測器見ててさ、気がついたらどっか行っちゃってたんだよ』
『逃げたとは思えねえし⋯⋯加護持ちで期待されてたんだがなぁ⋯⋯じゃあどうするんだよ?』
霧化から実体化すると、タイミングを合わせたように何かが腹にぶっ刺さる。
「くっ⋯⋯てめぇ⋯⋯」
「注意散漫なんじゃよ」
それは普通の岩槍だった。また霧化する事になり、レバンテスはうんざりした気分になる。
ついでなのでこっそり逃げる事にした。
『とりあえずデータは取れたよ。世界コアからじゃないけど、ノームが沢山力を使ってくれたからねぇ』
『無駄骨じゃなかったんなら良かったよ。流石にしんどかったわ』
普通ならしんどいで済む話ではない。ノームの前に霧を作り、十五秒後に仮初の体が作られるようにした。
(そいつと何時までも遊んでろクソ爺)
本体は地中から脱出を試みる。ゴツゴツした岩肌をすり抜けて、地上で実体化する事に成功する。
『ヘイズスパイダーもかなり殺られたねぇ。何処で計算狂ったんだか⋯⋯』
『失敗したもんは仕方ねーだろ』
レバンテスは上空へ飛び上がると、マウンティスの入り口付近を見渡した。
かなりの数のヘイズスパイダーが殺られている。溜め息を吐きながら、食欲を誘う香りに気がついた。
「なんだ? あれは⋯⋯人間か? 何故精霊界に人間がいる⋯⋯? しかも子供だと?」
ここのところずっとノームと殺りあっていたせいで、無性に腹が空いている。それに何て良質な匂いをさせているのか⋯⋯
「なかなか味わえない上物⋯⋯ん?」
その子供の背中には、同族の女が張り付いていた。
「クックック⋯⋯クハハハハハ! いっぺんにお宝が二つも! ハッハッハッハッハ! 欲しい⋯⋯今直ぐに欲しい!」
──ズゴゴゴゴゴゴ⋯⋯
地面が激しく鳴動した。レバンテスも馬鹿ではない。ノームが自分のダミーに気がついたのだと理解した。
「お預けか⋯⋯」
『どうかしたのか?』
『⋯⋯いーんや。何でもねーよ。直ぐ戻る』
『うん。あ、帰りに何かの卵でも取ってきてくれる? ミルクも』
『お前は俺の嫁かよ⋯⋯』
レバンテスはもう一度アークへ振り返ると、名残惜しそうにしてから飛んで行った。
*
side アーク
大地が激しく鳴動し、思わずバランスを取る。ビビもピクリと動いたよ。
「“ブルードラゴンブレス”!」
横向きの細い竜巻が、ヘイズスパイダーを凍らせていく。広範囲を攻撃する場合、この技とホーミングレーザーは頼りになるね。
黒溶岩砲も強いけど、準備にかかる時間と燃費の悪さが使いにくい。
マウンティスの頂上には、いつの間にかフレイガースが到着しているみたい。今頃下級精霊さんの収容が始まっているのかな?
ベスちゃんがいない事が気になって、アイセアさんから事情を聞いた。
「そっか」
「うん。だから心配無いよ」
中にクオーネさんはいたのかな? ベスちゃんとクオーネさん、再開出来てると良いなぁ。
空が曇り始めたと思ったら、いきなり雨が降ってきたよ。
って! これ雨じゃない!? 鉄の玉!? 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い⋯⋯
Sスタンダードでシールドを張り、何とか弾く事に成功した。
もう精霊界って無茶苦茶だね⋯⋯とりあえず収納しまくろう。何かこれ綺麗だし。
それから約五時間後、救出作戦が無事に終了したと報せが届いた。色々大変だったけど、これでノーム様の国は一段落かな。
シルフ様の国は、確かウンディーネ様の国の近くへ向かってるんだよね。
トラさんのためにも、精霊さん達のためにも頑張ろう。
マウンティスが一段落です。次も頑張ります\( 'ω')/




