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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウとハル、リク編

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普通に

今回はお話の区切りの関係で本文短めです。

 ショウもハルと同じように感じたのだろう。


「ただ普通に、生きていこうよ」


 ショウは誰にともなく言った。


「私にとっての普通は、できる力があるならちゃんとやること。大切な人を大切にすること」


 ショウらしい、まっすぐな言葉だ。ハルはそう思い自分の心の中の思いを探した。


「私にとっての普通は、大切な人をちゃんと守ること。そして大切な人のために、自分自身も大切にすること」


 ハルは思うのだ。人を守るだけでは足りないのだと。


 自分を投げ出すこと、無理をしてでも尽くすことを求める人は、いくら努力しても、ハルを大切にはしてくれなかった。


 でも、ショウもレオンも、ハルが何もしなくても大切にしてくれる。そして、ハルが幸せでいることを何よりも喜んでくれる。だから、自分を大切にすることが当たり前であるべきなのだと。


「俺の普通は」


 リクはショウとハルの言葉を聞くと、それだけ言って、止めてしまった。


 リクは農業のための生産の力を欲していた。それはのんびりスローライフを送りたいという、疲れた現代人の希望であったことは確かだ。


 ハルは何を考えているのかと思い、リクをちらりと見た。


 リクもハルを一瞬見返すと、口の端をほんの少し上げてにやりとした。


「サイラスの隣で、のんびり暮らすこと。それで成人したら、今度こそちゃんと恋人を作って、幸せに暮らすことだな」

「え、リク、それずるくない?」


 ショウが笑いながら指摘する。


「なんでさ」

「私たち、すっごい真面目なこと言ったのに」

「ずるくないさ。そもそものんびり暮らしたかったんだよ、そもそも。それに、今からなら恋人だって夢じゃないし」


 リクが何かを吹っ切ったように明るい声になり、立ち上がった。


 今回は、深森のペースに巻き込まれて本領を発揮できなかったけれど、元々はこんな風に明るくてさばさばした人なのに違いない。


「まあいいや」


 ショウも立ち上がった。ハルものんびりと立ち上がり、ズボンに着いた草を払った。


「少なくとも、将来の大切な人がもういる分だけ、私の方が一歩進んでるし」

「え、ショウ、そんな人いるのか?」


 リクがショウの言葉にショックを受けた顔をした。


「予定ね。でも絶対大丈夫だから」


 ふふっと笑って嬉しそうにしたショウは最高にかわいかった。


「え、誰だよ。俺の知ってる人? な訳ないし、ずるいのはどっちだよ!」


 知ってる人なんだけどなとハルはくすくす笑ってしまった。


 知らないのは当のファルコくらいのものだろう。


「俺は負けないぞ! いや、負けてもいいけど、俺だってきっと。うん、きっと」


 サイラスもほっとして笑っているし、皆の足は自然と宿屋に向いた。




 確かに、何か大きいことが起ころうとしているのかもしれなかった。それは、女神が地球からもって来た魂のせいなのだろう。


 だとしても、自分たちはできることをするしかない。


 とりあえず、カナンに向かおう。


 不思議な巡り合わせで増えた仲間と一緒に。


「ハル、置いてくよ!」


 いつの間にか先を歩いていたショウに大きな声で呼ばれた。


「急ぎすぎだよ。のんびり行くんじゃなかったの?」

「そうだった」


 あははと笑うショウがいれば。


 そしてきっと、二人が帰ってくるのを待ちきれなくて宿の前で待っているレオンとファルコがいれば。


 なんとかなる気がするのだ。


「さあ、カナンへ!」


 小さく胸の前でこぶしを握る。


「ハル?」

「なんでもない!」


 旅立とう。



(ここでちょっと一区切りです)


「異世界でのんびり癒し手はじめます」3巻準備中です。お楽しみに!


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