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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウとハル、リク編

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スライム狩り青空教室

 今日は町長に言われて、年少組を中心に子どもが二〇人ほど集まっている。男女半々、みんながレオンとファルコに興味津々だ。


 もちろん理由はわかっている。狩人を見るのが珍しいからである。


 一方で、今日の主役であるショウとハルは少しだけ戸惑っていた。


 深森では、ショウとハルの黒髪は珍しいので、よくも悪くも、まず注目されるのは二人だったからだ。視線が自分たちにあまり来ないということに戸惑うのもおかしな話だ。でも、それならそれで、この狩人の二人をうまく使うしかない。


「レオン、お願い」

「俺か?」


 突然指名されたレオンは驚いていたが、ファルコに喋らせるわけにはいくまい。状況を見て納得したレオンは、もともとコミュニケーションをとるのがうまい男だ。さっと片手を上げると、すっと自分に注目を集めてしまった。


「さ、皆、今日はなんで集められたか、ちゃんと親から聞いてきただろうな」


 レオンの言葉に、子どもたちは小さく返事をして、右を見たり左を見たりしてお互いを確認し合った。レオンは満足そうに頷いた。


「今日やるのは、薬草採りとスライム狩りだぞ」

「えっ! スライム狩りは聞いてませーん」

「なんだって?」


 レオンはショウのほうを見た。昨日町長に、「年少組にも薬草採りとスライム狩りを学んでもらう」と説明していたような気がするのだが。ショウも首を傾げた。


「母さんは、薬草採りを教えてもらえるらしいけれど、危ないことは断っていいからねって言ってました」

「うちも」

「うちもでーす」


 子どもたちから次々と声が上がった。どうやら、子どもを心配した親の判断らしい。その中でも、


「俺のところは、安全な狩り方があるなら、スライムの狩り方を教わって来いって。最近畑の周りにスライムが多くてかなわないからって父さんに言われました」


 という声もあって、少しはスライム狩りに目の向いている子もいてレオンはほっとした。

レオンはやれやれと肩をすくめたが、深森でもスライムについては危険なので、女の子でもやらない子も多い。無理強いすることではない。


「それではー、薬草の見分け方を教えながら移動するぞー。ついてこい」


 レオンとファルコと先頭にして、ぞろぞろと移動が始まった。


 町から少し離れた畑麦沿いで一行は止まった。ファルコが指で左の畑の手前を指す。


 水色のスライムが静かに揺れている。


「スライムだぜ」

「あれがスライムなの」


 子どもたちの中には初めて見る者もいるようだ。皆こわごわと、そして好奇心を持ってスライムを見ている。一人の少年が近くに寄ろうと動き始めた。ショウは思わず止めようとした。しかし、ファルコのほうが早かった。


「待て」


 そう言うと共に静かに左手を上げたファルコに、その子どもは動きを止めた。


「スライムは酸を吐く。安易に近寄るな」


 無表情に言われたその言葉に、子どもたちは説得力を感じたようだ。しかし、止められた子どもは少し反抗的な目でファルコを見ている。ファルコは何も言わず、そのままゆっくりとスライムのほうに進んだ。右手でベルトからポーションを取り出すと、左手をゆっくりとスライムに伸ばす。


「ファルコ!」

「大丈夫だ」


 大丈夫な訳がない。案の定、スライムはファルコに酸を飛ばした。


 じゅっ、と。


 手の甲が酸でただれていく。


 スライムの酸で怪我をする瞬間を、ショウもハルも、もちろんリクも初めて見た。


 痛いはずなのに、ファルコは表情を変えないまま、酸でただれている手をゆっくりと子どもたちのほうに向けた。


「ひいっ」

「いや!」


 子どもたちは恐怖で次々と叫び声を上げた。前に出ようとしていた少年も、引きつった顔をしてそれを見ている。


 治癒に走ろうとしたショウをレオンが止めた。


 そのショウの目の前で、ファルコは右手に持ったポーションの瓶のコルクを口でくわえポンと外すと、左手にゆっくりとかけていく。


 一瞬煙のようなものが上がると、ただれた手は見る間に戻って行った。


「すげえや。怪我をしてもポーションさえあれば治るってことだな!」


 叫んだのはさっき前に出ようとした子だ。ファルコは空のポーションの瓶をベルトに差し込むと、黙ってその少年の頭を拳でガツンと殴った。


「いってーな!」

「黙れ」


 ファルコの低い声は少年を黙らせるのに十分な迫力だった。


「スライムが危険なのは、このように酸を吐くからだ。ちなみに、ものすごく痛いぞ」


 まったく痛そうな顔はしていなかったが、ファルコの顔には脂汗が浮いていた。怪我のようすを見ただけでも皆どのくらい痛いかはわかっただろう。


「ショウ」

「ファルコ」

「お説教は後で聞くから。あれを」


 ショウはしぶしぶとだが、腰のポーチからスライム棒を出した。それを見て、ハルもリクも棒を出した。リクとハルは顔を見合わせて、お前もかという顔をした。考えることは同じだったようだ。 


 ちなみに、この際だからショウは桶も箸も出した。桶に魔法で水を注ぐと棒と桶を持ち、箸を腰のベルトに差してスライムの方へすたすた進む。


「危ないわ!」

「やめろ!」


 子どもたちが止めるが、ショウはギリギリのところまで近づくと、皆によく見えるようにしゃがみこんだ。そして棒でスライムをつつく。


 ぴゅっ、と。


 スライムが酸を飛ばすが、ショウには届かない。ショウはもう一度スライムを棒でつつく。


 スライムはもぞもぞするが何も出さない。


 そこで立ち上がってスライムを腰のナイフで切り裂く。


「ええ?」

「酸はどうしたの?」

「スライムがとけていく!」


 ショウは箸を使ってスライムをつまむと、桶の中にポン、と落として、それからスライムの魔石を手で拾って皆に見せた。


 子どもたちはわらわらと寄ってきた。


「これ、五〇〇ギル。お小遣いになるよ」


 子どもたちはざわめいてお互いとスライムの魔石とショウを代わる代わる見ている。


「さあ、いいか」


 そこでレオンがまたみんなの注目を集めた。


「スライムは酸を出すから危険、それはわかったか!」

「はい!」

「わかった!」


 子どもたちはファルコのようすを見ていたので、すぐに素直に返事をした。


「酸を受けて怪我をしても、すぐポーションを使えば怪我は治る。だから、スライム狩りや薬草採りの時は、必ずポーションを持ち歩かなくてはならない。それもわかったか」


 それもわかった。子どもたちは熱心に頷いた。


「では、なぜショウは、簡単にスライムを倒すことができた?」


 今度は子どもたちは戸惑った。棒でつついてスライムを切り裂いただけのようにしか見えなかったからだ。しかし、一人の少女が手を上げた。


「私、見てたの。二回目につついたときは、スライムは酸を吐かなかったわ。もしかして、スライムって一回か二回しか酸を吐かないのじゃないかしら」

「正解だよ!」


 ショウはその少女を称賛の目で見た。よく観察している。


「正確には、スライムは二回酸を吐いたら、しばらくは酸を吐かないの。だから、安全なところからスライムをつついて、二回酸を吐かせたら、素早く近くに寄ってスライムを切り裂く。そして、魔石を水で洗って酸を落とせば、魔石も手に入るってわけ」


 そんな簡単なやり方があったとは。子どもたちはざわめいた。


 どうやら子どもたちに興味を持ってもらうことはできそうだと、ショウは心の中で胸をなでおろしたのだった。


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筆者の他の作品「転生幼女はあきらめない」2巻、7月中旬発売予定です!

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