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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウとハル編

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学院都市

そうして野宿と町泊とを繰り返して、10日目には湖沼に入った。少しずつ秋も深まっていく。ほんのりと色づき始めた赤や黄色の木々が深い緑の木々の間から顔をのぞかせ、見上げれば秋の空が青く広がる。街道沿いにも小さな湖がいくつもあり、そのそばで天幕を張り終えたあとじっと見ていると、水面で跳ねる小魚の下方に大きい魚の影が行き来する。


「魚がいるな」

「どうやってとるのかなあ」

「まあ、店で売られている魚はもっと大きい湖で漁をするのだと思うぞ。こんな人の住んでいないところでは誰も魚など取らないだろう」


導師とショウは湖を眺めながらのんびりそう話していた。


街道は深森から湖沼に続くが、湖沼に入ってから広い草原がなくなった分、見通しがきかず、魔物の接近に気付かない時もある。のんびりしているといっても、警戒は緩めないようにしている。


また、湖沼と深森の間のこの街道は利用者が多いとも言えず、その分魔物も多い。


話しながらも、導師は何体も魔物を倒しているし、ショウもスライム棒などと悠長なことは言わず、やはりしっかり剣を持っていつでも対処できるようにしている。


「剣の修業をしていてよかったです、セイン様。治癒しか出来なかったら、こうして旅について来ても足手まといだったもの」

「うむ。治癒師はアルフィのように穏やかなものも多いから、無理することはないのだが、自分も剣を扱えると自由度が違うのだよ。私も若いころは無茶をしたものだ」

「どんなことを?」

「む、それは、また機会があったらな」


導師は話してくれなかったから、きっと女性がらみだと思う。大人になる楽しみがまた一つできたとショウは思うのだった。長い寿命の国に来ると言うのは、待てるようになるということなのかもしれない。


湖の傍には昼食のために立ち寄っただけで、ショウたちはまた馬車に乗り込み最寄りの町へ急ぐ。湖沼の街道沿いでは安心して野宿はできないので、なるべく宿を取るか、町か村の中の広場で天幕を張らせてもらうかするのだそうだ。


「それにしても、ここは濃いな」

「濃い?」


レオンがそうつぶやき、ショウはそれを聞き直した。


「そう、まず湿気が濃い。森が濃い。生き物の気配が濃い。何もかも凝縮されたような、ドレッドには悪いが深森育ちの俺には少し息苦しいな」


と答えるレオンに、ドレッドはわらってこう答えた。


「私はやはり落ち着くな。深森はからっとしすぎて、少しさみしい気配がする」


今はファルコが御者をしており、ライラが隣で何かを話しかけている。残りは馬車の中で、向い合わせの座席に寄りかかって話をしていた。


「ここも狩りさえしていれば食べ物に困ることはないが、平地が少ないので穀物は平原頼みだがな」


それがこの街道に人が少ない理由でもある。深森と湖沼は産物が似ていて、交易が少ない。岩洞に行くのに深森を経由した方が早いので、その馬車が行き来するくらいなものだ。


そろそろ町に着こうかと言うころ、レオンはショウにこう言った。


「帰りは急ぐかもしれないから、小さい町でも買っておけるものは買っておけよ、ショウ」

「わかった!」


宿屋に荷物を置くと、ファルコをお供に小さい町を駆け回った。魚を売っているお店は午後にはしまってしまうし、馬車が出る前にはまだ店を開けないので、学院都市に寄るならそこでまとめて買った方がいいと店の人は親切に教えてくれた。


みんなドレッドのような深緑の髪をしていて、ライラやレオンの金髪はとても目立つ。一方でファルコとショウの黒髪は緑にまぎれてしまうように見えた。


ショウとファルコは目を合わせ、


「黒髪でよかったね」

「目立たねえな」


とにやりとするのだった。


緑の髪に紫の瞳もショウからすると不思議な組み合わせで美しいが、薄い金髪に灰色に近い青の瞳のレオンや、緑の瞳のライラは湖沼の人にとっても魅力的に映るのだった。


しかし、ショウとファルコが地味だと思っている黒髪と明るい茶色の瞳も、湖沼の人にとっては十分に魅力的なのだ。特に青白くない、はちみつ色のつややかな肌、そして濃いまつげが明るい瞳を縁取っているさまは目を引く。しかしそもそもが鈍いショウとファルコと、社交的でない湖沼の町の人はすれ違ったままだった。


ショウにとって幸運だったのは、沼ぶどうがちょうど収穫の時期を迎えていたことだ。沼ぶどうと言っても、水の中に生えているわけではなく、水辺に育つことからそう呼ばれる。ぶどうにしては大粒なそれは干しぶどうとして有名だが、そのまま食べても大変おいしいのだった。


と同時に去年の干しぶどうの在庫が安く手に入る。そんな風に町に泊まりつつ、深森を出発して二週間、ようやっと学院都市に着いたのだった。


学院都市といっても、魔術院が一つあるだけだ。しかしその魔術院の規模が大きい。要は湖沼の魔術師は全員ここに所属しており、ここから湖沼のあちこちに派遣されていく。学生はそのほんの一部にすぎない。


読み書き計算はどこの町でも教会を中心に子どもたちに教えているから、それ以上の勉強をしたいと思う者が少し、そして主に魔力量が多くて魔術師を目指す者などが魔術院にやって来る。試験はなく、教会か町の推薦状があればよい。各国がそれなりに寄付をしているので、学生は無料で寮に入り、学ぶことができる。


魔法に関しても各国で学ぶことはできるのだが、教師がついて実戦で学べるということは何よりの魅力だったため、魔力量が多く進路に悩む各国の子どもたちはここに送られてくるのだった。


そんなわけで、町の規模はこの世界に来てショウが初めて見る大きなものだった。


山と山に挟まれた狭い街道を抜けると、低い岩山に囲まれた盆地に出る。南寄りに魔術院があり、そこを中心に町が広がり、北の岩山の裾野まで続いている。裾野には転々と小さい湖が見える。レオンに濃いと言われた空気も、ぽっかりと広がった空間の中では息苦しさはまるでなかった。


「教会は町の真ん中だ。直接向かうぞ」


ドレッドの言葉にみんな頷いた。





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