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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウ編

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北の町での異変

7月から8月の夏の狩りも終わり、のんびり北に帰ると、もう9月だ。


「9月にも祭りがあるんだよ」


アルフィが教えてくれる。


「月祭りだよ。元は一番月の大きい日に、収穫を祝う平原の祭りなんだって。北の町では、岩場に集まって月を愛でるんだ。髪飾りはその時使えるからみんな喜ぶよ」


ちなみに男の子たちには、ベルトにつける根付けのようなものを買ったらしい。クロイワトカゲの銀細工で、目のところに小さな色石がはまっているやつだ。


ショウもファルコにこっそりお揃いのあいいろの石の根付けを買って、後で渡したらしばらく抱えられて離してくれなかったので、もうプレゼントは買わないことにした。暑苦しい。


「早くみんなに会いたいね、アルフィ」

「そうだな。俺はもう見習い組だから、ずっと一緒ではないけど」

「すぐみんなが追いつくよ」

「そうだな」


ショウとアルフィは北の町に帰るのを楽しみに旅を過ごした。


やがて北の町が見えてくると、狩人一行30人分の家族だけではなく、北の町中が迎えに来ているんじゃないかと思うほどの大騒ぎだった。そんな中、ショウとアルフィは年少組を探したが見つからない。


「導師!」


リックだ。


「すみません、こちらに」

「リック!」

「ショウ、アルフィ、君たちは後で。とにかく導師は、こちらに早く!」


リックは小走りで、導師は落ち着いて悠然と歩いていく。


「なんだろう」


アルフィがぽつりとつぶやく。よくない予感がする。あれ、あそこの通路……カインだ! 来いって合図してる。


「アルフィ、あれ」

「カインだ。何か知ってるかも、行こう!」

「うん」


角を曲がると、年少組の男の子たちがいた。


「アルフィ、ショウ、アウラが……」


アウラだって!


「どうしたんだ!」


アルフィが詰め寄る。


「俺たちにも詳しいことは知らされてないんだけど、10日くらい前に、岩場の下の草原でケガをしたらしいんだ」

「ケガか」


少しほっとした。女の子たちは単身で薬草取りに行ったりしないし、ポーションも持っている。治癒師も残っていた。


「それが、スライムを踏んだらしくて、驚いたところに別のスライムがいて……」


なんてことだ。


「でも、すぐに助けられたんでしょ」

「それが、ひどい痛みで気絶して、しばらく誰も気づかなくて」

「どうなった!」

「わかんないんだ。気づいた子はショックで出てこないし、アウラも姿を見せない。俺たちの親も、怖がって俺たちを外に出してくれないんだ」


いつも力強いカインが弱々しく言った。


「俺たちはいい。けど、アウラが……」

「行ってみる!」

「けど、何度行っても会えないんだ……」

「とにかく、行ってみる」


ショウとアルフィはアウラの家まで走った。息を切らしてドアを叩こうとすると、ちょうど導師が出てきた。厳しい顔をしている。あ、アウラのお母さんだ!


「アウラは!」

「アルフィ、それにショウも」


アウラのお母さんは疲れた顔で声をかけてくれた。


「アウラね、ケガをして、今誰とも会いたくないのよ、ごめんね」

「でも、お土産を、髪飾りを買ってきたんだ!」


そう言うアルフィに、アウラのお母さんは苦しい、悲しい顔をして言った。


「ならなおさらね。もう髪飾りは使えないもの」


え?


「ヨナ、投げ出すな。手は尽くしてみる。母親が諦めるでない」


導師が静かに言った。


「すみません……」


お母さんはうつむいて家に戻っていった。


「アルフィ、ショウ、おいで」

「セイン様」

「おいで」


導師とリックは私たちを教会の導師の部屋に連れていった。


「さて、どう話したものか……」

「導師、彼らは友だちで、治癒師でもあります。全部話しましょう」

「リック、そうだな」


導師は話してくれた。カインの言った通り、スライムでケガをしたこと、スライムの酸が頭と顔にかかったこと。気絶して時間がたっていて、ポーションでも治癒でも治りきらなかったこと。ショウのやり方でできるだけは治したが、左も右も等しく怪我をしている部分は治らないこと。


つまり、アウラの頭は酸でやられて、もう髪はほとんど生えない。目は見えるけれど、顔の上半分は酸でただれて元の顔ではない。導師の治療でも、わずかしか改善しなかった。


思ったよりひどい話に、ショウとアルフィは何も言えなかった。アルフィは髪飾りを握りしめた。誰よりもおしゃれで、誰よりも気が強くて、正義感にあふれていて、誰よりもキレイなアウラが。


「俺、行ってくる」

「会いたくないそうだ」


リックが言った。


「私たちにでさえ仕方なくだ。部屋に閉じこもり、食事さえほとんど取らずにベッドの中にいるだけなんだ」

「それでも!」

「私も!」


2人はとにかく駆け出した。


もちろん、会えなかった。


スライムは退治しないとダメだ。心配して年少組を閉じこめていた親は子どもたち自身で説得した。必ず組で行動すること、ポーションを持つこと、ショウかアルフィを伴うことを条件に、許可をもぎ取った。


そしてスライムを徹底的に退治して回った。もう2度と女の子たちがやられないように。狩っても狩ってもわいて出るけれど、やりきれない気持ちをぶつける所はそこしかなかったのだ。


そして毎日、アウラの元に通った。1週間目で、お母さんが折れた。部屋には入れなかったけど、アウラの部屋の前まで通してくれた。ショウは、アルフィは毎日ドアの前で今日あったことや、ノールダムの町のことを大きな声で話して聞かせる。


ファルコが迎えに来るまでそうしてアウラのところにいる。それがアウラのためになるかどうかわからない。でも、1日だってアウラのことを忘れてはいけない気がしたのだ。


しかしそれはショウの気力と体力を否応なしに奪っていった。ファルコは心配そうに、しかしなにも言わずに見守っていた。


そうして月祭りも近いある日、ついにアウラの部屋のドアが開いた。



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