星迎えの祭り(平原)
「ショウ、ハル、きれいよ」
「そうしていると、本当に平原の人みたいねえ」
ショウとハルの周りをくるくる回って嬉しそうに手を叩いているのは、デリラとアウラだ。
「よく言うよ。来てるなら来てるって早く言ってよ、もう」
ショウはこの数日、魔物の襲来から導師の治癒と、忙しく過ごしてきて、アルフィはともかく、アウラが北の森一行と一緒に来てるなんて思いもしていなかったのだ。
アウラはアウラで挨拶にも来ず、商談で走り回っていたというのだから恐れ入る。
「私が来たときはショウもハルも倒れてて会えなかったし、ベル商会に行ったら、そこで泊めてくれるって言うし」
アウラは悪びれもせずにニコニコしている。
「どうせデリラと気が合って、服談議してたら私たちのことなんてすっかり忘れちゃってたんでしょ」
ショウはぶつぶつ言いながらも、長めのチュニックのすそをゆらゆら揺らしてみている。もちろん、中にはズボンを履く深森仕様だ。
「せっかく平原にきたんだから、二人の服は平原風にしようかと思って用意してたんだけど」
デリラが頬に片手を当てながら首を傾げる。
「そんなことしてくれてたなんて知らなかったよ」
ねえ、とハルを見ると、ハルはにこにこしているだけだ。
「え、ハルは知ってたの?」
「うん。一応服担当だからね。アウラから頼まれたものをベル商会におろした後も、ちょくちょくデリラとは連絡を取ってて」
「ショウに余裕がなさそうだから、ハルと相談して二人分用意してたのよ」
ハルも忙しかったと思うのだが、そんなことをしていたとはショウは気がつかなかった。
「でもアウラにね、深森の服が似合う子が二人もいるのに、深森の服を広めないのはおかしいでしょって言われてね」
「アウラ……。それで伝統的な深森のデザインなんだね、これ」
ショウはまたチュニックのすそを揺らしてみた。普段よりひらひらしていてやっぱり楽しい。
「でも、いったんノールダムに行ったんだよね。よく用意してたよね」
「ぬかりはないわ。何のために収納ポーチがあるのよ。何でも余分に用意していたから、北の町の補給がばっちりだったのよ」
ふんと胸を張ったアウラは、相変わらず金の髪がキラキラと日に輝いて、宝石のような緑の瞳が美しい。ショウの自慢の友だちだ。
町の人も、ライラ以来の深森美人が来たと言うことで、ショウの知らないところでひそかに盛り上がっていたらしい。
「今日の星迎えの祭りは、私はデリラと一緒に町のそばの丘に行くつもりだけど」
「私はリクのところの丘に行くつもり。ちょっと町から離れてるけれど、あのあたりでは高いほうだから、結構な人が来るんだって」
「なら、ちゃんとその服、宣伝してきてね」
「アウラだけで十分だよ」
ショウは苦笑した。
ベル商会で着替えさせてもらって、ショウはハルと宿に向かいながら、この数日のことを思い出していた。
魔物騒ぎで、一時町の半数近くが避難したカナンの町は、結局実質的な被害はほとんどなかった。
途中の町や集落も、狩人が魔物の行く方向を調整していたせいで、被害は軽微だったという。軽微だったというのは、やはりすべての農地は守り切れなかったということだ。
また、魔物が倒れ、そのままになっている土地は、しばらく荒れ地になり、農地として利用することはできない。
今回は、いつも前線で狩りをしている者たちの先見の明と行動力のおかげで、大きな被害が出ずに済んだが、これからは四領が協力して対策を立てるということで、やっと領主会議が開かれるらしいと聞いた。
「かかった費用は持ち出しかよと思っていたが、魔物の被害を受けるかもしれなかった各町から報奨金のようなものが出るらしくてな。ま、疲れたが収支は大幅なプラスになりそうだ」
導師が回復してすぐ、北の町だけで集会を開いた時、ガイウスはそう言ってにやりとした。
「ガイウスは持ち出しと言ってるけど、ノールダムで良心的に儲けたお金、それから魔物の魔石の回収、肉の販売などで、実質プラマイゼロ、持ち出しはなし。つまり報奨金の分だけプラスってことね」
アウラが胸を張った。
今回はアウラの修業と言うことで、いわば北の町の倉庫番の役割を果たしていたのだという。
「北の町の子どもたちは、生意気でやんちゃなやつばかりだが、本当に役に立つ」
ショウもハルも、アルフィも、ガイウスの言葉に胸を張る。生意気だって言われたって、役に立つのは嬉しいものだ。
「おそらく導師を始め、アルフィもショウも、そしてハルもあちこちから引き合いが来て忙しくなるだろう。治癒師も魔術師も大忙しだぞ。北の町の狩人の評判も上がってしまったし。深森だって魔物が増えて、それどころじゃないんだがな」
ガイウスがぼやく。
「それでも、やるべきことはやった」
そう言うとガイウスは立ち上がった。
「星迎えの祭りの翌日だ。帰ろう、北の町に」
思いもかけず長い依頼となったが、今日の星迎えの祭りが終わったら、明日はもう帰るのだ。
「あ、ファルコとレオンがいるよ」
ハルのほうが先に保護者の二人を見つけた。
「あーあ、ここでも女の人に囲まれてる」
ショウは苦笑した。
今日はお祭りだから、カナンのおしゃれした女の人たちにキャーキャー言われている。深森でもノールダムでもよく見る光景だ。
「ま、どちらかと言うとレオンのほうが優勢かな。やっぱり、明るい金色の髪とかいろいろあるけど、あの甘い優しい感じはもてるよねえ」
「ショウったら。あれ、見て、ガイウスもあっちで囲まれているよ。ちょっと年齢層上だけど」
さすがに一〇〇歳を超えているので、若すぎる女子は寄ってきていないみたいだが、冬の空のような灰色の瞳と頬の傷が何ともワイルドなガイウスも、見た目だけならかなりかっこいい。
「っていうか、ジェネとビバルがもててるなんて」
深森では優秀な狩人なのだが、なぜかもてないジェネとビバルまで女子に囲まれている。
「ショウ、どうする?」
ハルは騒ぎが鎮まるまで静かに待つタイプだが、ショウは違う。
普段ならあきれて、ハルを引っ張ってさっさと先に行ってしまうショウなのだが、そろそろそういう子どもっぽいことから卒業してもいいかなと思っている。
「そうだねえ、学校の男子に協力してもらうという手もあるんだけど」
ショウはちらりと宿から少し離れたところに目をやった。
学校の女子たちまで、きゃあきゃあと深森の狩人のところに行ってしまっているから、手持ち無沙汰でつまらなそうにしている。
「ファルコに嫉妬させる作戦?」
「うん。でも、がらじゃないや」
ショウは肩をすくめた。ハルもくすくすと笑った。
「私も、今回は待っているだけはやめようかな」
「よし、行くか!」
「それ、好きな人のところに行く乙女感ゼロだよ」
「うっ」
つい気合が入りすぎてしまった。ショウはハルに向かって、にっこり微笑むとチュニックのすそを揺らして見せた。
「こう?」
「そう。私も」
ハルもふわりと笑うと、同じようにチュニックの裾を揺らして見せる。
そうして二人で花のように笑うと、ファルコとレオンのほうを向いた。
「あれ」
「あらら」
背の高いファルコとレオンは、取り巻きの女子なんて見ずに、まっすぐにショウとハルを見ていた。
「見られてた」
「恥ずかしいね」
でもこの際だから、追加で追い打ちだ。
ショウとハルは頷きあうと、ファルコとレオンに向かってにっこり笑って首を傾げて見せた。
「あざとい?」
「アリだよ」
二人が笑い転げている間に、ファルコとレオンは一瞬で目の前に来ていたのだから、効果ありだったと思うショウだった。
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