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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウとハル、リク編

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そのころのファルコとレオン4

4巻、6月12日頃発売です!

「……その通りだ。なぜ狩人のお前がそれを理解しているのだ」


 ファルコの言葉に、初めてオーフの表情が大きく動いた。


「すでに平原の国境の町で、それを経験してきたからだよ」

「なんだと!」

「ハネオオトカゲの小規模な群れが、深森から国境を抜けてアンファの町の横を通ったんだ。たまたま俺たちはそこにいた。ハルが自分から魔物を引き寄せ、町に来ないよう、俺たちが魔物を防いだんだ」

「ハルが……」


 レオンが魔物に八つ当たりし、少し落ち着いて戻ってきた頃には、狩りに参加するのはもちろんだが、ノールダムの町の代表のゲイルも含めて、もっと大きい作戦を立てなければならないという話がまとまっていた。


「はあ? どうなってるんだ」

「怒りはいったん納めろ、レオン。下手をすると、平原のショウとハルが危ない」

「ハルが……。わかった」


 夏の狩りも、一筋縄では終わりそうになかった。




 起きて食事をし、クロイワトカゲを倒す。ちょっと時期が早いとはいえ、毎年夏の狩りにやっていることだ。人数が少ないとはいえ、ジェネやビバル、それにファルコやレオンなど、北の町の精鋭がそろっているから、狩り自体にもそう苦労はしない。


 だが、いつもと何かが違う。ファルコは体が何となくだるいような気がする。ちゃんとアルフィに毎日体をチェックしてもらっているのに、なぜだろう。


「何かが違うんじゃなくて、ショウがいないだけでしょ、まったく」

「やめたほうがいい、ライラ。真実は時に人を傷つけるものだ」


 ドレッドのほうがむしろ俺を傷つけているんだがと、ファルコは目立たないようにため息をついた。


 ショウが森に落ちていた日から、もう三年と半年が過ぎている。その間、こんなに長い時間離れていたことはなかった。離れそうな時があっても、ショウが工夫し、あるいはファルコが考えて、常に一緒に行動するようにしてきたからだ。


 だが、この非常時にそんなことは言っていられない。


 言ってはいられないのだが、なぜ自分だけが損をしなくてはならないのかとも思う。


「それはねえよ、ファルコ」

「なんでだよ、ビバル」


 昼を食べながら、元気のないファルコを皆がからかっていた時のことだ。


「確かに、俺なんて独身だから損もしてないが、そもそも得もしてないからな」

「そうだそうだ」


 ジェネがとなりではやしたてる。


「ここに狩りに来てる家族持ちの狩人は、たいてい家族を町に残してきてるんだぜ。ついてきているショウとハルが珍しいんだって」

「そんなものか」

「そんなもんだ。今までがぜいたくすぎたんだよ」


 そうは言ってもやる気は出ない。


 それでも、今度ショウに会った時にさぼっていたとは言いたくないファルコは、仕方なく立ち上がった。


「さて、午後の訓練か」

「ああ。だいぶさまにはなってきたか」


 オーフの言っていた魔術師一行がやってきて、各狩人の群れに配置され、一日の半分の時間を、魔術師と狩人が連携する訓練に当てている。


 ファルコとレオン、それにドレッドとオーフは、午後は経験者としてあちこちの指導に当たっているというわけだ。



 町の代表のゲイルも、最初はオーフの話に半信半疑だったが、この魔物の多さに、最終的には決断した。決断したら動くのは早かった。


 しかし、逆に不満を示すものもいた。


 平原からの商人だ。


「平原だって魔物が増えて、ただでさえ肉がだぶつき気味なのに、こうやって買い入れに来てるんですよ、わざわざ平原からね」


 恩着せがましいことこの上ない。


「それもこれも、二〇〇年も前の大発生の時のことを引き合いに出して、平原に魔物が来ないようにするためと言われてきたんですがねえ」



 商人の言葉は止まらない。


「なのに結局魔物の大発生が起きるかもしれない、そしたらここで止めきれないから、結局は平原方面に誘導するって、私たちに何か得なことがあるんですかねえ」


 その言葉に、他の平原の商人たちも頷いている。


 北の町のようにわざわざ遠くからきている狩人もいる。誰のためだと殴り掛からんばかりの空気になったが、腕を組んでいたゲイルは落ち着いていた。


「それなら仕方がないな。あなた方にはもう期待しない。何もしなくてかまわないよ」


 反論、あるいは説得されると思っていた商人たちは、逆にあっけにとられた。


「もう魔物の買い付けに来てくれなくてもかまわない。その代わり、私たちも来年から夏の狩りのやり方を変える」


 これには狩人側も驚いた。


「クロイワトカゲなど、何もこのノールダムの町で狩らなくてもいいんだ。町の外まで魔物を移動する経路さえ作ってやれば、魔物は自然に町の外に出る。深森の草原は壊滅するかもしれないが、もともと深森は麦など作っていない。草原が荒野になったところで、だれも困らない」


 ゲイルの言葉に、だれもが魔物が草原を移動する様を思い描いた。確かに、深森は別に困らないだろう。


「そして、魔物は数を減らしながら平原にたどり着くだろうな。その先は俺たちには関係ない。そういうことだ。では、これで解散!」

「ま、待ってくれ!」


 青くなったのは平原の商人たちである。


「なんだ。もしそうなったとしても、俺たちは町の外で魔物を狩って、魔石を取れば十分暮らしていける。肉など捨て置いてもいい。それに、夏の狩りで人が集まらなければ、麦が余分に必要になることもない。したがって、あなた方ももう来なくていい。万々歳ではないか」


 ちょうどショウたちが来たあたりから、魔物が増え始めた。もう今年で四年目、いつもより多い魔物を倒すのにも、夏に一時的に増える狩人や商人の起こす騒ぎにも、ゲイル達ノールダムの住人は飽き飽きしていた。


 文句を言わず、新しい戦法や治癒のやり方を提供してくれる北の町のような狩人たちばかりだといいのだが。


「わかった! わかってはいたんだ」


 商人はうつむいた。


「しかし、定期的に深森や湖沼に荷物を運ぶ我々のような立場でなければ、平原ではこの苦境は全く理解されないことは覚えておいてくれ」


 おそらく魔物をとどめられず、平原へ誘導することで非難されるだろう、それを覚悟しろと言うことだ。


「そんな先のことまで、知るかよ」


 ゲイルは言い捨てると、今度こそ誘導の作戦を立て始めた。


 まず先行して魔物の移動経路沿いの町や村に使者を出し、魔物の移動の危険性と、その時の対策、人手や物資を出してほしいことなどを連絡していく。


 記録によると、魔物の移動は人が馬でついて行ける速さだという。


 夜に狩りをするという手もあるが、魔物は夜は動きを止める。移動に同行する狩人の疲れを考えると、夜は寝て、無駄に魔物を狩らないようにしたほうがいい。


「馬の手配はどうなった」

「北の町の商会が既に手配を終えていました」

「小さな治癒師のお仲間のお嬢さんか。本当に北の町の子どもは優秀だな。小さい治癒師殿が子どもたちに教えてくれたスライム狩りと薬草採取のおかげで、夏の狩りに慌てることがなくなったんだよ」


 ゲイルの表情がやっと和らいだ。


「平原で頑張っていると聞いたが。まだ見習いにもなっていないのに、平原で治癒の力を尽くしている深森の子どももいるんだぞ。わざわざカナンまで行ってな」


 なぜゲイルが平原の商人にショウの自慢をするのかと、少し不満に思うファルコだった。しかしそんなのんきなことを言っている暇もなく、魔物の動きが変わったのは、その作戦会議のすぐ後のことだった。


「異世界でのんびり癒し手はじめます」4巻、6月12日頃発売です。

ここまでの話と、ここから先の話、そしておまけの話も入っています。

相変わらず挿絵も素敵ですよ!

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[気になる点] ちょっと時期が早いとはいえ、毎年夏の狩りにやっていることだ。人数が少ないとはいえ、ジェネやビバル、それにファルコやレオンなど、北の町の精鋭がそろっているから、狩り自体にもそう苦労はしな…
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