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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウとハル、リク編

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そのころのファルコとレオン3

「ファルコ、そしてレオン。こちらが元魔術院院長、オーフだ。例の、ハルの面倒をちゃんと見なかった男だ」


 この説明に、ファルコはなんだか力が抜けた。


 もし湖沼に落ちたのがショウだったらとファルコは考えたことがある。素直だが、自分のやりたいことがはっきりしているショウは、おそらく自分の力でちゃんとした境遇を勝ち取ったとは思う。


 ハルは素直だが、自分のことより他人のことを優先するところがある。それは優しいとも言えるが、いいように扱われかねない危険はある。落ちたところが競争社会である学院というのは、非常に運が悪かった。


 そんなふうに冷静に見ているファルコだが、だからと言ってハルに同情していないわけではない。そして、落ちてきたショウから幸せをもらっているファルコとしては、一番損をしたのはこの学院長だろうと思っているから、レオンほど怒りを抱いてもいない。


 それでも、ドレッドと元院長が親しげなのには何となく腹が立っていたので、ドレッドが、元院長がちゃんとしていなかったことを認め、それを皆に示したことにほっとしたのだ。


「お前、どの面下げて北の町に交じってやがる。ハルにしたことを忘れたのか!」


 レオンがつかみかかろうとしたので、それを予測していたファルコはレオンを後ろから羽交い絞めにした。


「ファルコ! なんで止める!」

「ケンカする元気があるのなら、狩りに力を入れて、できれば怪我をしないでくれ、と」

「ファルコ?」


 レオンの力が抜けた。


「忘れたのか。ショウがついてきた最初の夏の狩りの時、アルフィが言った言葉だ」

「ああ、ビアンカともめた時のことか」


 レオンは少し考えるそぶりを見せた。思い出すのに時間がかかったようだ。


「俺たちの手は、剣を持つためにあり、その剣は、魔物を倒すためにある」


 ファルコの言葉に、ふと周りを見ると、北の森の仲間はみんな頷いている。


「それに、湖沼を出るとき、ハル自身がちゃんと自分で始末をつけてきたはずだ。レオンが復讐するのは筋違いだろう」

「くっ」


 レオンはファルコを振り払ったが、ファルコはもうレオンを抑えようとは思わなかった。レオンが落ち着いたのがわかったからだ。


「湖沼では結局導師にしか会わなかったから、お互い初めてだな。オーフだ」


 元院長は、距離を縮めるでもなく、手を出すわけでもなく、離れたところからそのまま声をかけてきた。


「ハルのことについては、心からすまなかったと思っている。今、幸せにして過ごしていると聞いた。嫌になるほどな」


 どれだけ周りから聞かされたのだろう。ふっと苦笑するオーフにレオンがまた怒りをたぎらせそうになったが、ファルコがポンと肩を叩いて気をそらせた。


「で、なんで元院長がここにいる」

「元院長ではあるが、オーフと呼んでくれ」


 ファルコの質問に、オーフはすぐには答えなかった。


「俺が説明しよう」


 代わりにドレッドが説明するようだ。


「とりあえず、オーフが、ハルのことをきっかけに、学院の仕組みをだいぶ改善してから辞めたということは頭に入れておいてくれ」

「仕組みをいじっても人に無関心で心が冷たければ何も変わらねえよ」

「レオン、今は黙れ」


 ファルコはため息をついてレオンを抑えた。こんなレオンは初めて見るかもしれないと思いながら。


「オーフは学院を離れた後、俺と同じようにふらふらとあちこちで狩りに参加していたらしい。湖沼の狩場で偶然会った時に、ハルの考えた魔法を使う機会があって、そこからの付き合いなんだ」


 ということは、今年の冬の狩りの時はもう知り合っていたのだろう。


 だが、そのことを言わなかった。


 今のレオンを見ていたら、それが正解だったとファルコは思った。


「俺は個人でその力を伸ばすことしか考えなかったし、現にそうしたんだが、オーフはハルの応用魔法が使える人を増やさねばならないと言ってな、それから湖沼に戻って指導に当たっていたらしい」


 ドレッドは、オーフと知り合って付き合うようになったという割には、オーフに関心を見せなかった。


「魔法にはまだ可能性があるという喜びがまず先にあったのは確かだ。ただ、今はそれどころではない。湖沼でも魔物が増えているし、深森でも、そして岩洞でもこの通りだ」


 オーフは先ほどまで狩りをしていた岩山を指し示した。


「このままでは魔術師が魔法だけで魔物を狩っているのでは間に合わない時期が来る。そのためには、自分が魔物を倒すのではなく、狩人を生かす魔法の使い方を考えねばならぬ」


 同じようなことをどこかで聞いたことがある。ファルコは眉を寄せて思い出そうとした。


「そんなことはな、ショウが初めて魔法師であるドレッドに会ったときに、もう思いついているんだよ!」


 そうだった。自分なら魔法をどう工夫するかとショウが口に出していたんだ。


「まだ一〇歳の時だ。おそらく、同じ状況にいれば、ハルだって同じことを考えられただろう。それだけ賢い子をあんたは放置して苦しめたんだ」

「レオン」

「くそっ」


 どうやら自分でも止められないらしい。レオンの手は怒りで震えていた。


「ここから先は俺が聞いておく。お前はいったん下がれ。他の狩人の邪魔にならないところで、クロイワトカゲでも狩ってこい」


 ファルコに冷静に言われ、レオンは怒りの気配をまき散らして岩山に向かった。


「ハルがちゃんと甘えられる子どもに戻るのに、相当苦労したんだ。わかってほしい」

「何を言われても仕方がない。気が済むのならいくらでも」

「これがショウだったら冷静ではいられなかったくせに。大人になったものね」

「ライラは黙れ。オーフ、続きを」


 ショウがいないと殺伐とした親子であった。


「時にはドレッドとライラに手伝ってもらいながらも、新しい魔法の使い方、狩人との連携など、数十人には訓練できたと思う。特にドレッドや私のように、あちこち行きたいと思うタイプの魔術師には人気でな」


 それはよいことだと思うが、それがどうしたというのも本音である。


「その魔術師たちが、こちらに向かっている。今年はそれが必要になるだろう」

「必要になる、だと?」

「大発生が起きる。戦線は維持できず、おそらく魔物は平原へ向かうことになる」

「っ、ショウ!」


 ファルコは思わず平原のほうを振り返ったが、もちろん平原など見えるはずもなかった。


「ここで食い止められればそれでよい。しかし食い止められなければ、途中の町や村に魔物を寄せないようにしながら、平原に魔物を誘導し導くことになるだろう。その間に自然と魔物は力尽きて減っていくはずだ。そこで生きるのが魔術師の力だと予測する」


 アンファの町で、ハネオオトカゲの大発生にあった時、ハルのしたことがそれだった。


「町に魔物が来ないよう、大きい魔法を使って町の外に魔物を集める。そして後は、町に来ようとする魔物だけを倒し、移動する魔物の本流を妨げない」

「……その通りだ。なぜ狩人のお前がそれを理解しているのだ」


 ファルコの言葉に、初めてオーフの表情が大きく動いた。


「すでに平原の国境の町で、それを経験してきたからだよ」


ステイホーム週間ですが、この機会に、カヤの話を読んでみませんか?

既読の方は、ぜひもう一度!


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