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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウとハル、リク編

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意外なところから

★ガーシュ視点


「なんだよ、あいつ」


 ガーシュはぶつぶつつぶやいた。カナンは大きい町だから、親について引っ越してくる子どもは少なくない。たいていの子どもは大きな町に来られたことに喜んで、すぐに町に溶け込んでいく。でも、リクは違った。


10歳でこの町に来た時、自分には学びは必要ないと思っていることはすぐわかった。町を見る目も冷めていた。ずいぶんな田舎から来たらしいという噂だったが、たいていの奴らは大きな町に来たと言って楽しそうにしているのに、まるで大したことないと言わんばかりだった。


ガーシュは面倒を見てやろうと思ったが、さりげなく距離を取られる。


何となく気に食わない存在になっていった。


 それが、同郷だという深森の子どもを連れてきて、カナンの子どもたちに危険なスライム狩りをやらせようとする。薬草採取なんて大人に任せればいいのに。


 結局、カナンの町のことなんて、あいつにとってはどうでもいいことなんだとガーシュは腹を立てていた。


「ガーシュ、リクは悪い奴じゃないぜ」

「わかってる。けど」


 本当は、子どもだって大人の役にたてるんだという考えに、ガーシュだってわくわくしている。でも、何となくわだかまりがあって、むしろ邪魔してしまう自分が嫌だった。


「なあ、ガーシュ。俺も別に自分の家が貧しいとか思ったことないけど、仲のいい奴の親が流れ者だからさ。そいつがおやつとか食べれてないのは知ってるんだ」


 ガーシュは驚いて隣の子を見た。学校が終わった後、時には一緒に菓子屋に行って、おやつを買って食べたりする仲なのに。


「だから、そいつの前では絶対におやつは食べないことにしてる」


 さっき薬草採取をしていた子どもたちは、ガーシュが普段、あまりかかわらない子たちだ。特に女子はそうだ。


「その、着てるものとか」

「ガーシュは気が付いてなかったか。まあ、そういうことで差別しないお前はいいと思うよ、俺は。リク以外には農場の子って言ったりしないしな」


 少なくとも、情けない自分でも、そうやって認めてくれる友だちがいることにほっとした。


「俺はお前が町長の子だからって別にどうでもいいけど、そうじゃない奴もいる。お前の顔色をうかがって、リクに手伝えない子は多いと思うぜ」

「そんなことは」

「ないって言えるのかよ。俺も今日まで何もしてなかったから、言う権利はないけどな。何となくついてきただけだけど、今日の大人たちには腹が立ったし、自分が情けなかった。明日からは、薬草採る手伝いってのに行ってみるよ」


 自分はどうするべきだろうか。リクにごめんと謝って、薬草採取の手伝いをすればいいのだろうか。


 ガーシュは生まれて初めて、自分のすべきことを真剣に考え始めたのだった。


 ★


 次の日、ショウがいつものように出かけようとしたら、珍しくハルから提案があった。


「今日から私たち、学校に行かない?」

「学校に? でも、ハルは学院卒業しているし、私ももうとっくに学び終わってるけど」

「それでも、深森でも教会に行って、小さい子に教える係だったじゃない。こっちでもう一度学び直してもいいし、小さい子に教えてもいいし。授業の様子を見るだけでも面白そうだと思うの」

「確かに面白そう」


 もともと、薬師に教えた後は、子どもたちが来るまで二人で薬草採取をして時間を過ごしていただけなのだ。授業の様子を見るために、学校に行ってみてもいいのではないか。


 そう思うと、今から昼過ぎが楽しみでたまらない。


 にこやかにおしゃべりしながら麦畑を通り抜けていったが、いつもの場所を見て思わず二人は立ち止まった。


「人がたくさんいるよ」

「大人の人もいる」


 今まで見たことのない人たちががやがやと集まっていた。そのうちの一人が二人に気づくと、


「おーい!」


 と手を振った。一斉に注目が集まる中、ドキドキしながらそちらに向かうと、話しかけてきたのはサイラスと同じくらいの壮年の男性だった。


「サイラスから聞いてきたんだ。子どもにあれこれ教えてるって聞いたんだけど、大人にも教えてもらえるかなあ。俺の農場、町から結構離れたところにあって、スライムが多いんだよ」

「もちろんです。あの」


 ショウは話しかけてきた男の人の顔が気になった。


 顔の左側に点々とやけどのような跡がついているのだ。


「それ、もしかしてスライムに?」

「ああ。いつまでもいなくならないんで、見つけたら遠くから叩き潰してるんだが、やっぱりたまには酸が飛んでくるんだよ。ガハハ」


 ガハハじゃないよとショウはあきれたが、逃げてばかりで何もしない人たちに比べたら実に頼もしい。


「鋤や何かで叩くと、だいたいは安全に倒せるんだが、それでいいのかね」

「いいんですけど、もう少し工夫したらもっと安全ですし、魔石もきれいなものが取れますよ。それにちょっと手を出してもらっていいですか? 私治癒師なので」

「この傷かい? もう結構たっているからな」


 導師は、ショウのコピーの治療法も治癒師には教える予定だと言っていた。最初の頃こそ慎重に使っていたが、魔物が増えている昨今、技術を広げることのほうが大事だと判断したのだろう。


 ショウはその人の両手を軽く握ると、魂の輝きを見た。


 足首、腰の光が少し弱い。そして顔の跡のところは完全に輝きが消えている。


 一生懸命働いた人の体だ。ショウは気合を入れて治癒を始めた。足元から順番に、古い傷は反転させながら。


「はあ、治癒は久しぶりに受けたけど、あったかいなあ」

「今薬師がポーションをたくさん作る体制に入ってます。あまり町に来ないようなら、家族分、でなければせめて一個はポーションを持って帰ってください。スライムの酸にもちゃんとききますから」

「そんな状況になってたか。たまには町にも来ないとなあ」


 ショウはその壮年の人ににこりと頷いた。顔の傷跡も治っている。


「ショウ、人数が多いから、二手に分かれよう」

「そうしようか」


 ショウはハルの提案にうなずき、心が温かくなった。少し人見知りで引っ込み思案なハルだが、いざというときはこうして頼りになる。元気になってよかったと、今でも思うのだ。


「もう皆さん、感覚的にはわかっていると思いますが、スライムは二回酸を吐いたら、しばらく酸を吐きません。その後でつぶしたり切り裂いたりしたほうが、怪我がなくきれいな魔石が取れます。こういう棒と小さいナイフがあれば、子どもでも女性でも大丈夫です」


 自分のうちの周辺を守ろうとしている人たちだ。聞き方にも気合が入っている。ショウが簡単に安全にスライムを倒して見せると、顔が明るくなった。


「それに、これ売れますからね? 一つ五〇〇ギルはどこでも同じです。ここら辺では、薬師ギルドが買い取ってくれると思いますよ。売れば、台所のコンロや暖房に使われて役に立ちます。遠慮せず売ってくださいね!」


 おおとか、そうなんだなという声が耳に入り、ショウは楽しくなってきた。


「ショウー」


 少し離れたところから、ハルが呼んでいる声がする。


「なあにー」


 返事をすると、意外な言葉が返ってきた。トカゲ狩りだ。


「スライム狩りを一通り教えたら、トカゲ狩りと薬草採取と二手に分かれようかー」

「わかったー」


町の外からきている人には、トカゲ狩りが大好評だった。狩るトカゲが見当たらなくなるほどだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] トカゲ ちっこいけど後ろ足と尻尾が食べられる、でしたね 素揚げにして頭からバリバリとか、酒に漬けて、とかは誰も試さなかったか、試して美味くなかったか
[一言] ほうほう、お坊っちゃまの周りにちゃんとモノを考えられる子がいたとは…お友達は大事にしたまえよ、坊っちゃん!実に良い友人だ……ちゃんと苦言を呈してくれる…(* ̄ー ̄) むくむくと起き上がった…
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